やる気ない天使ちゃんニュース

白雛

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第四十回『ギリキリトはアリか?』

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「年末スペシャル特番! 朝まで徹底討論回ぃぃーーーっ! 議題はこちら! どどんっ! 『転生を法で取り締まるのはどうか?!』」
 ミカの一声でスタジオは殺伐とした空気に包み込まれる中、マギだけは呆れ返っていた。
「すでに言い過ぎだし、え、パイセン、そんなに転生嫌いなんですか」
「うん。もう転生って言葉を街で見かけるだけで急な立ちくらみに目眩、動悸、息切れ、寒気に襲われ、しまいに頭痛、嘔吐などの症状がでます」
「効きすぎだろ。コイツ、転生の二文字見せてるだけで殺せるじゃん。ミカパイセンにとっての天安門ワード、これじゃん」
「でも、面白いっちゃ面白い現象ですよね。なろうとかあれだけ嫌われてるのに、世間ではあたかもウケがいいかのように扱われて、企業案件も目立つ……あれれー? なにかと似ているなー?」とリツ。
「やめとけやめとけ、リッちゃん。またややこしくなるから。まだパイセンの傷ぐしゅぐしゅだから。で、売り上げは実際あるらしいよ。あのおっさんのやつとか」とマギ。
「誰が買ってんだよ? って頭を傾げるナンバーワンだよ、正直。中高生がおっさん買うの、もうディストピアにも程がない? 書店のレジに持ってくの恥ずかしくない? 顔からスタイルから隈なくサーチされて『あ、コイツ、おっさん読んでんだ、あーあーなるほどねーププ……』みたいな」
「急募! 店員さんに『あ、コイツ、おっさん読んでんだと思われずにおっさん買う方法』ってスレタイで誰か立てて論じてきて」とマギ。
「ま、何がウケるかわからない世の中ですからね。これだけなろうで数打ちゃ、そりゃ何本かは普通に良作がでてきて、これは面白いってなるでしょうけれども、それが、じゃあ転生というジャンルだから面白かったのか? って、そんなわけでもないでしょうに」
「設定がまず良いんだよ。たぶん」
 マギは実しやかに語った。
「誰でも一度は想像したことあるでしょ。生まれ変わった先が自分にとって都合のいいファンタジー世界だったとか。もっと具体的に言えば、自分がホグワーツに入学したら、とか。あとは、授業中や電車の中で突然テロリストに襲われたときに活躍しちゃう自分を想像しちゃうノリも。まず、誰でも想像しやすい」
「いや一度もないな」
「嘘つけ! リッちゃんはともかく、ミカパイセンは絶対にあるだろ!」
「えー……授業中に? そんなこと……」
 ほわほわほわ……とミカは思い浮かべた。
 初心なあの頃……。
 舞い散る桜の花びらを、教室の席から見上げて、頬杖をつきながらふっとため息をこぼした。
「……一枚、二枚、三枚……サイフの残弾は三枚かぁ……放課後、三人しかティータイムできねーや。あずにゃん(梓村正先輩の略)一人になっちゃう……あ、待てよ。小鳥遊からかっぱらえば……今日で部活の先輩コンプできんじゃん!」
 がららっ! 突然教室のドアが開け放たれる!
「何奴っ!」
 ミカはとっさにベレッタM92をハンドライトと共に構えて警戒すると、入ってきたのは機関車トーマスのMODを埋め込まれたタイラントだった。
「スターズっ……!」
「らららん、らららん」
 海外の有志によるちゃめっ気たっぷりの演出のため遭遇時用のBGMとしてハイジの曲が流れる中、ドアの隙間に挟まって、なかなか入ってこられないトーマスの顔がライトアップされ、夜間の警察署に不気味に浮かび上がった。
「やべぇ、もう来た! この図書館の棚を動かして、早くはしご登らないと……って時が一番焦るんだよなぁ……ま、周回するときには先に動かしておいて呼ぶ安泰ゾーンになんだけど……」
 ミカは教室の窓から飛び出して、梯子がわりに、灰色のパイプを伝って屋上に逃げる。クラスメイトはむ無く置き去りにせざるを得ない。
 トーマス化したタイラントが教室で汽笛を響かせるのと遠ざかるハイジのBGMを聞きながら、ミカは屋上にあがった。
 しかし、そこにきてNEXTに表示されたのはIミノ!
 違うんだよ。今ほしいのはLミノであって、JミノでもIでもなく、Tスピンとかできないし、普通に平たく積み上げたいだけなのに、これじゃL字のマス一個分空いちゃって、回収クッソめんどくさくなるじゃん!
 ほしいときにほしいミノが回ってこない。ぷよぷよでもそうだけど、こんな時に初心者はやはり思考が止まってしまう。プロの人とかほんとどういう頭してんだ……実力差を思い知らされながら、でもうまく消せると楽しいし、地元の友達とやる分には無双できるからいいか。
「……って感じかな」
「自分にとっての都合のいい世界がそれ?! あとテロリストだから! テトリストなんて、誰が気付くんだよ! 回りくどいボケすんなっ! あと完全に下手なやつのプレイ感だぞー、それは!」
「前はよくあったよね。まとめのネタでさー、プレイ時間が一番多いゲームの世界に転生されるスイッチとか」
「……あったけど。私、普通にFGOか原神だし」
「私たぶんブラボかモンハンかブレイブルーだと思うけどー、起きたらヤーナムに飛ばされてるとか、歓喜してキャンプファイヤー加わるし」
「自分にとっての……ですからね。好みが違えばそら、バイオみたいな世界も見えますわ」
「でもやることはみんな同じなんだよなぁ。都合のいい世界なんだったら、もっと個性出ていいはずじゃね?」
「なんだろう。安心できるパターンみたいなのってあるじゃないですか。アンパンマンなら一度顔がグジュっても、バタ子さんが代わりの顔持ってきて、取り替えて元気百倍っ! バイキンマンを殴り飛ばすとか」
「王道ってやつ?」
「そうですね。そういう安心感みたいなのを求めてるんですよ。特に現実がすでにカオスなので」
「うーん……」
 ミカは腕組みして唸った。
 マキが伺うように言う。
「納得できませんか? 需要と供給で、需要に応えてるだけでは?」
「私は逆だと思ってるからね」
「逆?」
「うん。私の好きな言葉! 忙しい忙しいって言ってる人ほど大して忙しくなくて、本当に忙しい生活送ってる人ほどそういうこと言わないんだ」
「補足しておくと、パンクする人もいるんで、過度な無理は禁物です」とリツ。
「現実がカオスっていう人ほど、本当のカオスを知らない。なのに、過剰に疲れたーって言って、自分にご褒美とかすぐ口にする! それを助長してるようにしか見えない!」
 ミカは語った。
「アリプロの宝野アリカさんがテレビに出たことがあって、私好きでさ、見てたの。聖少女領域と何か歌った気がする。ぼんやり覚えてんだけど、『アニソンといえばなんか元気がもらえるとかそういうイメージがあって、私たちの曲は全然そんなことないんですけど、うふふ』のようなことを語ってらっしゃった。それはいい。でも、今にして思えば分水嶺ぶんすいれいだったような気もするんだ」
「分水嶺?」
「分かれ道ってことです、マギ先輩」とリツ。
「そのくらいわかるよ!」とマギ。
「私が見てきたヒーローってのはそうなんだ。生きてる私たちに勇気をくれる。後押しをしてくれる! 励ましてくれる! そんなだった。けど、転生勇者からはそんなドキドキを感じたことがないよ。だって、初めに彼らはもう現実から逃げてその世界にいるじゃん。転生するくらいなら、私たちを見て笑って、今の自分をどうにかふんばれ。つまらない現実なんか笑い飛ばして生きろ。そう言えない勇者なんて、私にとって勇者じゃないし、都合よく生まれ変わってる時点で、何を言おうともう薄っぺらいよ。人はそんな、やり直しもきかない、逃げ場のない現実で戦い続けてんだから」
「…………」
「生まれ変わりを肯定するような話は、あれはどうしても私は推せないな。だってつまり、◯殺を推してるのと同じでしょ」
「……それが得てして世情にもリフレクションしてると。親ガチャやその他様々な厳しい足枷があって、自分の環境にどんな不満があろうと、持たされたそのカードを変えることはできないし。できることがあるとしたら、そのカードを頑張って断ち切るくらいしかない。なのに、切っても切ってもしがみついてくるのが不渡手形みたいな血縁関係だったりしますからね」とリツ。
「死ななくていいじゃんね。転生なんかしなくても、あなたはあなたが最高だよ。そうでしょ」
 何気なくリツと喋るミカ——。
「私ならそれで完だし。死ぬのをあの手この手で止めろよ、作者なら、とも思っちゃうし。ね? そう思わん? 普通に」
「あ、じゃ先輩的にはリゼロならアリなんじゃないですか?」
「だから最初に死んでんじゃん。主人公がもう。それが都合のいい世界で何したって何も響いてこねえよ」
 ——その隣で、
「……ビッチのくせに、言う時は言うんだよなぁ」
 マギは顔を隠すようにして微笑んだ。
「そういう意味では、私たちは神に恵まれてるって言えるのかもしれませんねー……」
「そうか? 場合によっては何度となく殺される可能性もあるし、実際パイセンとレイさんもう一回死んでんだけど……」とリツ。
「あぁ、あと一度も……は正直確かに嘘だわ。中学くらいかな。そういう想像もしたことないこともない。けど、滝行と同じだよ」
「滝行……ですか?」
「あれはね。霊的なお祓いの力があるとか、そういう意味じゃないの。滝に長時間打たれていると辛くなってきて、考えるでしょう? 『あらあら? 私、どうしてこんなことしているのかしらー?』って。あれが目的なの。こんなことしてるくらいなら、この時間で一本でも多く素振りしたほうが強くなれない? って。そう、気付かせるための修行なのよ」とレイ。
「え?! そうなんですか?」
「うん。これ……時間の無駄だって、中学で卒業した。……いやオナニーは別ですけどね笑」
「余計な一言、足しさえしなきゃなぁ……もう」
 歯痒そうに、マギが言ってしめた。





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