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第二十九回『スカッとジャパンより、たぶんスカッとする話』

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「うぅ……寒いよー……ぶるぶる」
「いよいよ冬って感じで、本当に冷えてきましたねー」
「でも、太ももは出さなきゃ」
「さすが変態国家日本人の鏡だよな」
 タイトルアップ。
 ミカは震えながらも短いスカートに生足を晒しての収録になるのだった。
 レイが珍しく厳しい顔をして突っ込んだ。
「あら、ミカちゃん。またまとめ見たわね。ダメって言ったでしょ。あそこは現代の掃き溜めなんだから」
「ごめんなさい……ねーね。でも、きちっと面白いネタに振り切ってるとこもあるからさー。そういうのはついつい見ちゃうじゃんね。ネタに走ってる人は嫌えないよー」
「それがネタだとわからない文盲もんもうもメクラもいるのよ。本当にヘルメットが必要な人たちほどヘルメットを被らないものなの。そんな主義者どもに目をつけられたらひとたまりもないんだから」
「あ、やっぱコイツのせいなのか。パイセンがこうなったのって」とマギ。
「あの人たちが問題を発見するたびに細かいルールが一つ産まれてどんどん生きづらくなり、出生率が低下していくんだから。もう何も気付かないで。何も見ないで生きていってほしいわね」
「関係あるかなー、そこはー」とマギ。
「何言ってるの。以前はブラウスの下に一枚シャツ着るなんてなかった。あれにより学生男子の保健体育への意欲は高まり、お盛んになったものでしょう」
「ヤンキーなんてその上でボタンべろんべろんに開けてたからなー。そりゃ男子が二次に走る余地なんてないわ。だって目の前にもっとエロい人たちがいんだから」
「それが今はどう? 右を見ても左を見ても保守で、社畜としては健全になったかもね……? でもそのために人間の本来の野生的な勘や感性は形を潜めなければならなくなり、その凶暴性は陰湿さに姿を変えて発揮されることとなった……!」
「やべぇ……何言ってるかわかんないのに、あながち間違ってるとも思えないから、言いくるめられてしまいそうになる……」
「今の子たちは私から言わせたら成長の機会を、健全だというお題目で、自分たちがモテなかったからって学生時代にお盛んになるなんて許せないって人たちのために、奪われて、かわいそうだわ……」
「(パイセンを除き)私ら喪女にだけは言われたくねーと思いますけどね、その子らも」
「あ……」
 マギの返答一発。あっけなくレイは貧血で倒れた。
 リツが濡れタオルを被せて、寝かせる一方、まだ中村のカットは入らない。ミカはとうとうと続けるのだった。
「ま、柔軟性は確実になくなったよねという話よね。まとめもさ、大概はクソなのよ。でも、たまにえっ?! って知識をもたらされることもあるのよ」
「へぇへぇ。そんなことありま……」
 マギが返した矢先、ミカのiPhoneがぶるぶると震え、ミカは指を伸ばした両の手のひらをTの字にした。
「いや、タイム入るかぁ! 収録中! 電源切っとけっつか、持ってくんな! ま、アタポン走る人に今更無駄かもしんないけど……」
 iPhoneを操作しながらミカは突然笑い出した。
「だはははっ。え、いや小鳥遊しんどい……聞いて。コイツさー、OK.Googleして、『日本の首都は?』とか訊いてんだけど……日本に首都とかねーよ。爆笑。っかっかっか……!」
 ミカが手を叩いて笑うと、唖然としたマギが返した。
「……は?」
「ん?」
「いや。あー……そもそも収録中にメッセージ送ってくるマネージャーいる? しかも今、日本の首都関係ある? しかも、日本の首都ったら東京に決まってんだろうがぁぁーーーっ! あと収録中だって何度言わせたらわかんねん、常識なさすぎだろ! このボゲども!」
「はい、ダウトー。マギ。うぷぷぷぷぷ」
「はぁはぁ……え?」
「マギの自惚れた知識を試すために仕掛けたんだけど、思いの通りハマってくれて、私はとっても嬉しい」
「なっ……!」
「はい。解説お天使、リッちゃん。どうぞー」
 ミカが手振りを添えて言うと、リツが引き取って話し始めた。
「はい、ミカ先輩。バーバード大帰国子女のモノホンの知識をど三流大のぼんくらに見せつけてあげますねー」
「な……な……え?! 東京でしょ? 首都圏とか普通に言うじゃんっ!」
「そうですね。確かに首都圏整備法において、『首都圏』とは東京の区域及びその周辺の地域のことを指します」
「でしょ?! だったら……」
「けど、誰も東京を首都と定めるなんて言ってないでしょ?」
 青天の霹靂。ずがぁぁん。
 ミカやリツがかつて同じくしてそうなったように、マギは自分のそれまで信じていた世界が音を立てて崩れていくのを感じて、わざわざコタツから脚を出して、その場に膝をついてうなだれた。
 エモーションのわかりやすいカットを用意することもまたプロの務め。ミカは妹弟子の成長に歓喜しつつ。
 リツが解説を続けた。
「事の起こりはそもそも1869年の『東京奠都てんと』。当時の明治天皇が東京にお出かけなさいました。が、これも遷都せんとではなく、あくまで『奠都』。つまり、京の都と江戸を並立して認めるだけだったのです。時を移して1950年、『首都建設法』に東京都を首都として都市計画し……との一文が記載されますが、それも56年には廃止。今現在には前述の『首都圏整備法』を残すのみで、首都に関する法律は定まっていないのが真実です」
「な……な……じゃあ」
「日本に首都はないですよ。今、街おこしして法律に刻ませたら、そこが首都になります。すごいですよね。ちなみにキッズ・ウェブ・ジャパンとかって検索したら出てきたけど、それは奠都と遷都を誤っているか、ややこしいから省いているだけです」
「私はキッズ向けだからこそ、真実を伝えなきゃダメだろって思うけどね。もしそうなら子供を舐めてる感じがして嫌いだわ、こういう驕った配慮って」
「遷都は、歴史上、あの有名な794年の平安京遷都以来、日本では行われていません」
「私もこれ見て、うおおおーっマジかーってなって。一度誰かに話してみたかったのよね。マギ、良いリアクションだったわ、ありがとう」
「……スカッとジャパンよりスカッとするわ」
「スカッとジャパンでスカッとしたことないわ。むしろモヤモヤさせられない? あれ」
 ミカは両の手のひらで湯呑みを支え持ち、粗茶を嗜みながら総括した。
「この驚きと閃きこそが好奇心と知識欲の醍醐味よね。まとめでも、こんなこともある。あのポス主のお姉ちゃんはどういう意図だったかはしれないけど、はさみとなんとやらは使い様ともいうし。だから、侮れない。柔軟性って大切な気がするのよね。今、レッテルを貼ってバカにしてる人たちが自分たちの常識を覆すような真実を見せて、アハ体験させてくれるかもしれない」
「マジで……そうですね。そうかー、首都じゃなかったんだー東京」
「東京なんていっそ無くしてしまえばいいとさえ思うわ。何か、あそこにいけば目立てる、格好つけられるみたいな意識で集まってくる人たちを排除できるし、そんな特別意識が秩序を破ってもいいみたいに捉えられるくらいなら。そもそも東京生まれ東京育ちからしたら、普通に良い迷惑だからね、そういう人たち。例えば昨今話題の移民の人たちみたいに」
「なんかいつになく……うん。でも、うわー……そうだったんだー……」
 マギの落ち込みぶりをフェードアウトして、
 カットが入った。





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