38 / 138
第二十八回『舞い降りる生々しい剣』
しおりを挟む前回までのあらすじ!
ビッチ天使ミカはとある一冊の少女漫画を通して知った下界のクソさにいよいよブチ切れ、アンリミテッド進化。完全体ドグサレビッチモンとなって番組を荒らしてしまうのだった。
ミカのねーねことレイによる容赦ない一撃を受け、HPを1にされたドクザレビッチモンは勢いあまって八歳児相当まで若返ってしまう。
しかしちょっと待ってほしい。
あれ、これテレビショッピングで販売したら全国のママさんたち殺到すんじゃね? ミカのソルヴァイスを握りしめつつ、リツの頭の中の公認会計士が電卓を弾いた。そのソルヴァイスっていうのはどこに行ったら買えるんですか? お財布を握りしめて石焼き芋を買い求め走る古き良き母たちのように、局ビルに殺到する全国のママさんたちの姿を思い浮かべて、リツが暗躍し始めた。
なんだかんだでクリスマスまで一週間を切っている……ロリ化したミカはアンリミテッド・ミカに覚醒して、(子供へのプレゼントを除く)その日全ての贈り物を4℃のアクセサリに変え、女という女は生理に貶め、雨を降らせ、鎌田にゴジラを召喚した上で、温めておいたチキンはもれなく冷ますなどの野望を果たすことができるのか……?!
「こんなあらすじ、いったい、何が始まるんです?」
「さぁーて、戦争をしにいくぞーっ」
子供用のおもちゃのジープでお座敷をぐるぐるしながらミカ(幼児化)が言った。
剣呑なアバンのあとに新OPが流れ、舞台と共に雰囲気が変わるガンダムSEED第二章。通はやっぱ漂流教室のような、ぶっちゃけ無限のリヴァイアスの焼き直しみたいな、綺麗事ではない生々しい人間ドラマが展開されるあの辺の雰囲気がまだいいですよね。
あれから二十年……え、に……じゅうねん……?
『SEEDは僕が産まれる前のガンダムですね』
『……?』
一瞬にして解せない若造の放ったその一言が、私の心にピースメーカー隊を送り込んだ。
よろしい、ならば戦争だ。
何が連合の野蛮な核だ。奴らのこのとんでもない兵器の方が遥かに野蛮じゃあないか! 知らないはずの温もりを探して惑う海原のように荒れる我が心に、かつて見た悪役の台詞が、声優の迫真の演技とともに蘇る。
しかし、同時に思い起こされるのは、2chにして隔離されたほどの熱い論争と『ねぇアスラン? 君のマブダチ、一話に一回殺されてない……?』と不憫に思うほどの圧倒的な量のニコル非業の戦死バンク。
一向に話が進まない上に進んだかと思えば奇天烈極まるキャラの言動に一同テレビの前であんぐり呆然とさせられ、さらに合間合間に総集編を挟むので、今週はちゃんと話をやるらしいぞ! と言うだけで歓喜した日々。
あたかもそんな負の記憶までも呼び起こすようだった。
ファンが願ってやまないシンの主人公らしい活躍はやっぱりぶん投げられてしまったのか。漫画でやったからもういいだろ? 疲れてんだよ。というスタッフがすでにキラの態度そのものなのか。
肝心のデスティニーは蘇ることはなく、無惨にも要所要所のディテールをライジングフリーダムの細部に断片化して残すのみ。主役の座はおろか根強いカルト的人気を博した愛機までも奪われる二期主人公が未だかつてあっただろうか。いやない。
タラコラクス。あれ……やっぱ偽物のが本物より可愛く——(諸事情によりカット)。一人だけお辞儀しないシン。すでに見え透いている堕ちて最後には全てを持っていきそうなキラ。縮尺を間違えたようにでかい顔面。隣でファンの見たかったまさにこれぞと思う続編をオールウェイズ提供し続け、一昨年見事にファン含め大団円で本編完結したロボットアニメがあるの知ってる? ファフナーっていうんだけど……数々の要素から立ち上る不安感。
シンやアスランの不遇はおそらくネタ的にも映画に踏襲されているのだろうかと思うと、まさに二十年経っても変わることがないその運命に、すでにして刻の涙を禁じえない。
思えば語り手が不遇キャラ、負けヒロイン、負けヒーロー好きになったのは彼が原因だった気さえするが、やはり彼は負けヒーローのまま外伝のゲームでカミーユやバナージに慰められる運命(笑)にあるのだろう。
とそんな風に考えてみると『ほらぁ、ファンもやっぱそういうシンやアスランが見たいんだろ? 素直になれよ』との嘲笑うようなスタッフの声が聞こえてくるようだ。
しかし、語り手はこれに毅然として言い返した。
『いや、これに限っては、んなわけがあるか。アスランが隊長としての本当の自覚に目覚め、かつての自分に似て困った部下であり、ライバルであり、時にはすれ違い、決闘もしてしまったシンと共闘の末、最強無敵のフリーダムを撃墜する。キラ一派に洗脳されて導かされた未来ではなく、己の考えで議長もキラをも超えて二人が運命を打ち破る、そんな熱い内容が観たいに決まってんだろうがぁぁっ! アンチとファンで派閥を作り、また戦争がしたいのかっ、アンタたちはっ! 本命はグレンダイザーのくせにっ、思い出補正でなんとなく乗り切ろうとしてんじゃねえよっ! 大体なにがFREEDOMだよっ! お前もう他人のDESTINY乗っ取って十分FREEDOMしただろっ! あれがもうFREEDOMだろっ?!(号泣)」
小鳥遊が語り部を務める傍で、ミカはコタツの上にフィギュアを並べて、お人形さんごっこに興じていた。
「『どうだっていいでしょ?! サイには関係ないわっ』『どう見ても君が嫌がるフレイを追っかけてるようにしか見えないよ』『な、んだとぉっ……?!』」
「…………」
「『昨夜も君の婚約者とギシアンして疲れてるんだ。ゴムをつけてる描写もないし。もうやめてくんない?』『……キラッ!』ガシッ!」
キラ役の人形がつかみかかったサイ役の人形の腕を軽く捻りあげた。そしてあの名言。
「『やめてよね。僕の本気のチンポコに敵うはずないだろ』」
「おっも! アーニャがアーニャでよかったー。パイセンがアーニャ役やってたらファミリードン引き。ロイドさんが直ちに保育所戻すレベル」
隣でずっと見ていたマギが満を持して突っ込んだ。
「あと鬼滅とは違うから。確かに弁当箱とか箸とか売ってて幼稚園児までも知ってるくらい、今でいう鬼滅くらいの信じられない人気作だったけど、今考えたら八歳がおままごとにしていい内容じゃねえ」
「鬼滅のグロさとは違う精神的グロの代表作じみてるけど、当時まったく問題にならなかったよね。すごくない?」
「本当に誇れることじゃないと思う。あと要所要所セリフが一層猥褻になってる、一層としか言えない内容としては何も間違ってないのがSEEDのSEEDたる所以だけど。水星から入った人たちが早速ドン引きしそうなことやりそうで、ちょっと怖いわー」
「OPで毎回主要キャラ全員意味もなく全裸に剥かれるアニメで何ぬるいこと言ってるのよ。オーガニックに乳首と陰毛描かれないだけマシだと思えっ。いやそっちのがまだテーマとして正当だろっ」
ミカがロリボイスで返すと、マギはその小さな手元にある物体を見て絶句する。
「大体パイセン……その男役のフィギュア……フィギュアっつか……もう……」
ミカが玩具箱から取り出して遊んでいたフィギュアは、本物の血管やら質感が生々しく再現された玩具だった。
「ディルドじゃねえか! 確かに玩具だけど、ダメなやつ! モザイクっ!」
「あ、私の夜の恋人ー。いないと思ったら、こんなとこにいたー。もう逃げ出しちゃ、ダメだぞっ」
「ディルドがどうやってお前んちのベッドの下からここまでくんだよ……大概おかしいよな、お前もどっか」
「でもマギ先輩、それディルドじゃありませーん。あと本棚のカバーの裏な」
「誰も詳細聞いてねえし、秒前に夜の恋人だっつってんだろ、若年性痴呆か」
「違いますー。これ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の1/100スケールシリコン製フィギュアだから」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲のシリコン製フィギュア?! すなわちそれをディルドっつうんだよ! あと1/100って本体でっか! あと名前なっが! 使いづらい!」
「成人男性の平均サイズから計算すると、ガンダムくらいあるわね、うふふふ」とレイ。
「え、まともなの私だけ? 嬉しそうに計算すんな。何のために産み出されたの、そいつ。入れるとこもねーし、もうそびえたつ猥褻建造物じゃん。また日本が未来に行っちゃう。世界をドン引きさせてしまう」
「しまった、そうか。オナホールもセットで持ってきとくんだった……!」
「はい、言質」
「先輩、ごめんなさい、気が利かなくて……」
「いいよいいよ。そういうこともあるよ、リッちゃん。穴ならここに四つあるし……いけね、八つだった、てへ」
「十二個よ。一番小さなやつを忘れてるわ、ミカ」とレイ。
「今の会話だけでフェミが鬼の首を取ったように歓喜しそう。大体もう下ネタは加減していくつもりじゃなかったんですか。ロリ化したし、完全にアウトだろ……」
「中身は二十◯歳だから平気平気」
「性器やキャラには伏字しないくせに年齢だけ伏字にすんの汚くね?」
「あとやっぱほら、敬愛する我らが銀魂もさ、読み返してみたら二ページごとに銀さんチンコ出してた気がするし、結局女子も好きなんだから、いいんじゃないのってことでさ」
「そんな頻度で出しててたまるか……出してないよね? とにかく銀魂はまだ伏字にしてた気がしますけどね。八巻までしか持ってなくて記憶が曖昧だけど」
「実写のキャストか」とリツ。
「いいのよ。突っ込まれたら直せば……つっこまれ? あぁ!」
「はいはい」
今、突然初めて自分の手に持っているものの使い方に気づいたかのように目を開くミカに、マギはやれやれと答えた。
「ミカちゃん。いいわねぇ」
「ん?」
すると、レイが頬に手を当てながら挟んだ。
「子供に戻ってお姉さんたちに囲まれて、すごく楽しそう。二十歳も若返っちゃうなんて、世の女性が聞いたら卒倒して痙攣しながらその秘法をこっそり尋ねに通い詰めちゃうわね。羨ましいわー」
「さりげなくパイセンの年齢……(狙ってんのか? この人、ひょっとして……)」
「へへー」
嬉しげに鼻をすするミカ。
マギもそんなミカを見るのは久しぶりで、すこし心が温まる想いがした。
「ま……ぁ、確かにこの時期はロリ化してたほうがマシなのかもしれませんね。最近特にひどかったし……」
「そもそもディルドやバイブくらいは深夜アニメとかじゃ出したことあんのにオナホールってさすがになくない? あとちんちんってわりとガキでも知ってるけど、まんまんの具体性って皆無じゃん。不公平だわ」
「確かにそうですよね」とリツ。
「やられた……これ、男女差別だわ……。そこらへん前人未到に私たちが先陣切っていきましょ。新しい深夜番組のリーダーとして」
「……やっぱないかな」
マギは自分だけは正気を失ってはならないと改めて褌を締め直す心境なのであった。
カットが入った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる