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白雛

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第二十三回『可能性だけの獣』

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 ミカは手にしたカンペを読み上げた。
「えー本日は、実は大切なゲストをお呼びしていたのですが、弊社スタッフの度重なる不貞と暴言により、天界に帰ってしまいました……番組をあげてゲストならび視聴者の皆様に大変不快な想いをさせてしまったことを心からお詫び申し上げ……えっ? 戻ってきた? ユニコーン戻ってきたって! あー角刺そうね! ぽこぽこぽこぽこ!」
「お前がやめろやっ!」
 マギはわりと本気のグーパンでそんなミカの頭を殴るのだった。
 タイトルアップ。
 和室の上座に今は大人しく四つ脚を畳むユニコーンが寝そべっていた。代わりにミカがいない。
 マギやリツ、レイの近くでは落ち着いているが、少しでもミカが触ろうとすると物凄い勢いで怒り出すので、ミカだけセットの外に出しての撮影となった。
 臨時に進行をマギが務める。
「えーてことで、ユニコーンさんです。よしよしよしよし。大丈夫ですよー。あのアバズレは遠ざけましたからねー。どうやら私たちは平気なようですね」
「そもそもユニコーンって大人しいイメージがあるみたいですけど、めっちゃ気性荒いですからね」
 と有識者リツ。
「普段獰猛なのが、処女の前だと大人しくなるっていう神聖な生き物ですから。普段から大人しいけれど神聖ゆえ処女の前だけ姿を見せるとかは誤りです。たぶんテイルズがいけませんねー。アーチェとリフィルが悪いよ」
「ファンタジーや歴史の偉人などでもよくあることですが、世間のイメージ、もしくは解釈というのは本来の姿とズレてることが多いものですわね。フレイヤがアクセサリほしさにアクセ屋のおやじドワーフ全員と寝るような尻軽だったり。そういうの、わたくしはどうかと思いますわ」とレイ。
「神なんてだいたい女は尻軽、男は浮気性。俺のコンプラ……? 探せ! トイレの底に沈めてきた! って言うような倫理観最低の連中ですからね。イザナミだってそうです。あれ、日本最古のNTR同人じゃないでしょうか。創世神話がすでにNTRって、日本人はもう産まれながらにNTR好きな血統なんですよ。今日のNTR人気は伊達じゃない。原初の昔から日本人はNTR好きな民族なんです」
「番組冒頭からNTR連呼すんな。お前がどんだけNTR好きなんだよ。こちらのほうを心からお詫び申し上げろ」
 マギが突っ込む傍ら、いつになく満足そうなリツが再び付け加えていく。
「イメージと実際のズレの話に戻しますと、マリー・アントワネットのセリフしかり。例えば信長など、その代表的な人物と言えるでしょうね。浅井長政の頭蓋骨を杯にしたとか有名なエピソードも、記述されるその文献自体は江戸時代のもの。まるで信憑性がなく。冷酷非情みたいに言われることが多い信長ですが、事実のみを取り上げていくと部下には非常に優しく、それを示すように部下からの信頼も篤かったことがうかがえます」
「でもなきゃ、そもそも天下統一とか狙えるわけないですしね。誰しも一度は経験あると思いますが、話なんて盛られるものなんですよ。で、そのうちどっから嘘かなんてわからなくなる。私もオタ女として数々の創作『織田信長』を見てまいりましたし、腐った妄想を膨らませてしまったこともございました。信長×光秀はめちゃくちゃ熱い。しかし、それはそれ。これはこれ。この誤ったイメージの伝聞は、完全に創作者たちの落ち度でもあると思います。わかりやすいキャラ設定のが映えるからって雑に取り上げないでもらいたいものですね。まったく」
「腐ってるお前にだけは言われたくねーよって、今、視聴者全員思ってると思いますよ。お前が視聴者に謝れ」
「あははは。いやいや、流石の腐女子だってNTR好きの潜在夢ビッチには敵わないと思ってると思いますよ。けど安心してください。あなたは墓まで貞操を貫けるのだから……」
「いやいやいやいや。腐ってるお前にだけは……」
「いやいやいやいや。夢ってるお前にだけは……」
「ふあ……あぁ」
 陰湿にバチる腐と夢の二人に、あくびをもらすレイ。
 鋭さの名残を残しつつも、和やかなムードで収録が続く中、アバズレの鳴き声がセットの端から響いてきた。
「ねぇ、マギー……」
 番組の看板娘にして、鼻つまみもの、ミカだった。
 ユニコーンは神聖な生き物。上の口も下の口も汚れたコップであるミカは、近寄ることも許されないのだった。
「マギー。仲間に入れて~……さみしいよー……信長だったら私も一個語れるのあるから~……」
 カメラはセットの一段下から和室を覗くミカを映した。
「…………」
「あ! そ、その杯の話ね、W天使大学の先輩も得意げに語っててさー。恥ずかしい話だよねー……って。あははは。大学生のレベルが知れちゃうよー……ねぇー、マギー……」
「さりげない学歴アピールもその人のレベルが知れますよねー。お前が言いたいのはノッブの話じゃなくて、『えっ……まって……W天使大学の先輩がいる……? つまり、ひょっとして……ミカ先輩もW天使大学? ……確かにスーフリの被害に遭ってそう笑』ってとこだろ、見え透いてんだよ、あははは」とリツ。
「スーフリはさすがに世代が違いすぎるよ! あれ今もう初老クラスだろ! 学歴コンプも大概にしろよ。普通に仲良くしたいだけなのに、訳わかんないライバル心で張り合ってきやがって……もううんざりしてんだよ、そういうの、こっちは……違うの……違うんだって……」
「私、バーバード天使大学飛び級卒。研究機関務め経験なので。こんな島国の有名私立どうとも思いませんが(あえて思おう、カスであると!)」
(……はぁ……っ……はぁっ……ど、どういうことだ……?)
 一方でマギは追い詰められていた。
(ミ、ミカパイセンが……? わ、W天使大……? ぜ、ぜったい、おかしい! 何かの間違いだ……裏口か? い、いや……あることなんだ、マギ——『他人に奇跡みたいなことが起こるのに、なぜか自分には起こらない……それがマークシート入試の不思議……!』。受かっている~ふし~ぎ~、落ちている~ふしぎ~♬ ぜ、ぜぜぜ、絶対私のAO山はバレてはならない……墓まで守り通さねば……ミカパイセンこんなバカのが上だなんてっ……屈辱で血液が沸騰してしまうっ……!)
 さて、ユニコーンは三人の前ではとっても大人しかった。
 今はマギに頭を預けて寝転んでいる。
「そこ私の席だからなぁ! てめえ、次会ったらそのとんがりコーン、コテカ(ペニスケース)にしてダニ族に郵送してやるからな! 村の宝になりそう! 072番! 貴様にも産まれてきた価値があったろう!」
「ヒヒイーーンッ!」
「キレてるよー!」とリツ。
「よしよーし。アバズレが鳴いてるけど気にしないでねー」
「ぶるるっふふんっ」
「こう懐かれるとクッソ可愛いな、ユニコーン。娘にすんのはわかんねーけど、イギリス人がズッ友にしちゃうのもわかるわ。処女とアバズレを見分けるなんてめちゃくちゃ賢いんだろうし。スタンダードの人よりは賢いんだろうし。ねー、お前、可愛いねー」
「ぶるぶるぶるっ! ヒヒイーーンッ!」
 ユニコーンはマギの母性に甘えるように鳴き、尻尾もリツの好きにさせている。
「見てくださいよ。この毛並み。銀色できらきらー。神々しさすら感じる」
「ねぇ、リッちゃんー……思い出して? いつも臨機応変。今さっきも即座に私のボケに応えていたことを」
「あれはねー面白くなりそうだからやったことなんだ。ユニコーンが来ちゃったらさー、私には関係ないんだ。あなたはもう要らない」
「それ直接言ったら女王泣いちゃうから。ねーねー……」
「あらあら、困りましたわねー」
「言っとくけど、ねーね……高齢処女は童貞も食わねーぞ」
「——っ!」
「一番無惨なのは童貞じゃない。遥かにハードルが低いはずなのに、女子校とか行って女にはモテたからと勘違い、本気になればいつでもヤレるとたかを括った結果、気位ばかり高くなって選り好み、アダムを遠ざけるうち本当に誰にも触れられず、気付けばまともな恋愛経験もない周りは子供を産み始める二十代後半! 童貞にさえ空気を読ませる第二使徒が、地下ドグマにはまだいんだよ……」
 それは正直マギにもリツにも効いた。
「サードインパクトを起こしたくはないだろう? だから……」
「よしよーし。これ、気持ちいいんですの? ふふふっ、可愛い」
 レイは先っちょの綿をほどいてふわふわにした綿棒でユニコーンの耳を掃除しながら「ふぅ~」と垢を飛ばす要領で息を吹きかけると、
「あの汚れたコップをその角で百舌鳥モズのように刺し殺してくれたら。もーっと、してあげますからねー」
「この犯人はまるで私を豚扱いだ!」
「いやコップ扱いだよ」
「メス豚に違いありませんものねー」
「そうだった……! 私、おっさんどものメス豚だった! ちくしょー、ぶひぶひーっ!」
「最後の尊厳まで失うな」
 とリツが突っ込んだところで、マギは無惨なミカの姿に心を痛ませ、考えた。
「(自業自得だけど……ちょっとかわいそうになってきた……確かにいないほうが平和だし、信じられないくらいちゃんと番組やれてるとは言え……)あ、じ、じゃあ……みんなであれやりません?」
 葛藤の末、マギは提案した。
「動物番組でありがちな……こう、端に並んで誰のとこに来るかってやつ」
「さんせーっ! マギ!」
「それ、いいですね! めちゃくちゃバラエティらしい。志村どうぶつ園みたい!」
 ということで、急遽旧セットに移動して端に四人が並び、反対側にいるユニコーンを呼び寄せた。
「おいでおいでー」
「戻っておいでー。ぽこぽこぽこぽこ」
 それぞれ手を叩いたり、ASMRをやってユニコーンをおびき寄せると、ユニコーンは蹄を鳴らしながら厳かにマギに頭を擦り寄せた。
「まず相手の目を見て、ゆっくりお辞儀だよ、マギ!」
「ヒッポグリフか」
「お辞儀をするのだ、マッギー」
「失われた鼻の人だ!」とミカ。
「ちゃんと呼べよ。失礼だろ」
「名前呼んだら怒られるからさー」
「じゃー仕方ないよね。そんなルール作ったお辞儀が悪いよ」
 再度スタジオに和やかなムードが満ちていた。
「…………」
 ミカだってアバズレだけどユニコーンに触りたい。今ならいけるんじゃないか? そんな気持ちでそっと手を伸ばした矢先だった——。
 ぴしっ——とその手にタテガミをぶつけると、ユニコーンは言った。
「気安く話しかけんな。性液が耳にかかんだろ? この汚れた中古品が! てめーは100均に誰かの使ったベトベトのコップが置いてあったらどうすんだよ。こんなん一万払ったって買わねーよってなんだろ? クレーム入れた次の日そのコップに『洗浄しました』って注意書きがあって綺麗になってたとしても、黙って隣のコップカゴに入れるだろ。それと同じなんだよ」
 唾を吐いて言った。
「割られないだけありがたく思えよ。世界に一つだけのコップを汚したのはてめー自身なんだからな」
「飲食店のコップは使い回しでも誰も気にも留めないだろうが。無駄にひねたこと言って格好つけんな。だからいつまで経ってもおまえは童……」
 ミカとユニコーンの壮絶なラグナロクが始まった。
 カットが入った。





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