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第十九回『たぶん多くのリスナーがそうだそうだと言ってくれます』
しおりを挟む「私がデスノのキラになったら」
「うん。絶対になっちゃいけない人だし、だから死神も降りてこないんだよ」
タイトルアップ。
ミカはノリノリで指を突き出しながら言った。
「それなー! 最近、私、わかるようになってきたんだよ、ニア! ラドンも教えてくれた」
「ぴぎゅーがぁ、がぁー」
「なにが?」
「私はね(神もろともに)そういう力を持ってはいけないんだよ。だから、正直なんだろ……アングラ? っていうか、こういうところで細々と生き続けるほうがたぶん、世のためになると思うの。私みたいなのが陽の光を浴びたら、きっとワンチャン内戦を起こしちゃう」
「自分で言いますか、そういうこと」とリツ。
「だってもうそうとしか言えないもん。ラドンもそう言ってるよ」
「ぴぎゅーがぁ、がぁー」
「私が成功したら教会を私物化するからな。私さ、こんなことしてる場合じゃないんだよ。でもあのレオリオ本当に好き。手コキ暴露しちゃうあたり、本当漢だと思ったわ」
「名シーンがお前のきたねえ花火で台無し。誰もコラボしてくれなくなるぞ。あとズリセンな」
「え、でも……」
「そうだよ。センズリでもいいし、もう自分でする手コキで合ってるよ!」
「ふふふ、時代が時代なら、後世に名を残すような為政者になれていたかもしれないわね、ミカは」
「……名を残すっても、完全なる悪名だろ。絶対。ヒトラーとかポルポトとかそっち系」
「うん。だからこそ今なんだよ」
「?」
「今はお家柄でもなければそんな大それたことなかなかできない時代じゃん? だから、私は今、産まれてよかったんだなぁって初めて思えたの」
マギはじっと涙ぐんだ。
菊の花と共に産まれ出て二十と余年、やっと自分の出生を肯定したかと思えば、またそんな理由で……。
手のひらで口元を覆い、嗚咽を禁じ得ない。
「ミカパイセン……」
「え……えっ! ガチ泣きじゃん、マギ……」
「うーん。ちょっと……確かに、なんか、その……うん。良いことあれよ、この人に」
リツも反対からミカの肩に手を添えながら言った。
「うぇぇ? リッちゃんまで……」
「産まれが違えばエプスタインみたいになってたかもしれないしね……」
「ねーねだけなんか違う」
「ちなみにパイセンがもし願いが叶うとしたら、何叶えてもらうんですか? もし私たちができそうなことなら」
「そうだな。今ならー……」
ミカは顎に人差し指を当てながら考えつつ、まるで今日の夜に何食べたいかを答えるように言った。
「日本のアイドルを全部廃業にして、永遠に復活できないようにしてほしいかな!」
「……ぬぅ~?」
マギは途方に暮れました。
しまった。質問を間違えた。みかんを食べるのに夢中になるふりをしながら、矛先をそらすあの手この手を講じます。
ここから解説、翻訳は小美人役お助け天使リツがお送りします。
「ポルポトは行き過ぎただけで、思想の根本は何も間違っちゃいない。人は農作物を耕し、そこで採れたものを食べてのどかに暮らしていればそれでよい」
とミカは言っています。
「で? 自分だけはやり過ぎたりはしないと? いつの世もそう言って間違えたのだ! ヒトラーもギレンも! あなただってアイマスのプロデューサーだろうに!」
とマギは言っています。
「彼女らもミクさんも二次元だから、本当には存在しないものだから良かったのだ。自分をあくまで二次元世界の住人であり、ファンに生かされていると心得ている人はいいと言っている。けれども、2.5次元等の界隈は正直やりすぎた。ネットと現実の境が曖昧になるたび、人々はおかしくなってしまった。ファンとアイドル、この二つは近づけてはいけなかったんだよ。大体秋◯がいけない! 推しが産まれたのもAKBらしいし!」
とミカは言っています。
「すーすー……」
レイは寝ています。
この人はいつもそうです。夜寝ろ。
「表面的には頑張っていないように見えても、実は裏でめちゃくちゃ頑張っている人なんだって、後輩っぽい配信者も切実に語っていたよ。頑張ってない人なんかいない。頑張らずに輝いている人なんていない。皆、白鳥のように水面下でいつもバタ足をしているはずさ。そんなことはもう言わずにみんなで力を合わせてVを応援しよう」
「私たちの知ったことか、勝手にしやがれ。我々がそんな勝ち組にスパチャをする理由はなにもない。だって、彼女らのが普通に稼いでんじゃん。むしろリスナーに赤スパするか、そんくらいの気持ちでリスナー一人一人を分け隔てなく大切にしろやっ!」
「ぴぎゅーがぁ、がぁー」
ラドンも「そうだそうだ」と言っています。
(芋虫たちの鳴き声)
「バカやろーっ! てめーだけ正気に還ってりゃいいってもんじゃねーだろっ!」
小鳥遊が乗り込んできました。マギは全身硬直。ミカの腕を掴んでiPhoneを渡すと、YouTubeを開かせます。
「これまでの行きがかりはさっぱり捨てようじゃないか」
と小鳥遊は言ってますが、ミカもラドンも互いにVに謝れと言っています。でも、小鳥遊は諦めずに説得しています。ミカに残った最後の良心、それがマネージャーの小鳥遊だったのです。
「ちきしょー……びびらせやがって……分からず屋ってのは高橋だけじゃないんだな」
マギが小鳥遊の登壇に背筋を震わせながら言うのでした。
カットが入ったのでした。
◇
余談。
「今回のゲスト、ラドンさんでしたー」
「拍手ーぱちぱちぱち」
「ぴぎゅーがぁ、がぁー」
「で、このラドンさ」
「うん」
「観たんだ。『三大怪獣、地球最大の決戦』。したら、もうゴジラもラドンもモスラも可愛くて可愛くて」
「え、可愛いんですか?」
「そう。富士山の麓であのシーンやるんだよ。で、ゴジラが湖を渡るところで、ひゅーってラドンが飛んできて倒しちゃうとこから壮絶な殴り合いが始まるのね。本人たちはガチなんだけど、今見るとシュールでさ、もうそっからして可愛い生き物にしか見えなくて、-1.0もそうだけど、ぜんぜんイメージと違ったね。良い意味で」
「ゴジラってそういう意味でも愛されてるってことなんですね」
「ほら、蒲田くんも可愛かったじゃん。最初こっわ! 蒲田終わった……ってなるんだけど、本人は海からあがれて初めて大地を歩いているに過ぎないとか、考え出すと可愛さしかなくて、あの方向で推せばいいのに」
「あと目だけジブリのそれ」
「そうそう。あの可愛さがわかる人には普通にオススメできると思ったよ。配信で見ると映像も綺麗になってるし。あとちょっと自慢だけど、私ん家、蒲田くんのぬいぐるみある。三千円くらいのやつ」
「あー今もう手に入んないんですよね」
「そそそそ。あの腕入れるやつな。くっそかわええ」
「ゴジラのマスコット性か……しかし、それも本編は真面目な内容だからですよ」
「ほう」
「公式は真面目にやってるから、だからこそのグッズで可愛さを推すのが良いんだと思いますね」
「識者ぶりやがって。でもそうだわ。公式でも可愛いゴジラをやりだすと、それはきっと違うんだよな。武田鉄矢も言ってた。本人はガチで悩んで、苦しんでるから、それを観て観客は笑うんだって教えられたって」
「幸せの黄色いハンカチでしたっけね」
「うん。難しいもんだね。っぱ一筋縄では、なかなかいかないよな。エンタメ」
「私らも本編では真面目に反世間やるんですよ」
「そろそろクリスマスだからね、きしし……」
カットが入った。
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