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間話その三『マギがペット』
しおりを挟む休日のお昼過ぎだった。
都内某所、街外れにある古風なカフェから見覚えのある天使が出てきてマギは大層驚いた。
「あれ、ミカパイセン!」
「あ、マギだ! マギじゃーーーーーんっ!」
「えっ……パイセン?!」
ミカは怒首領蜂の発狂フェーズのごとく名前を連呼しながら駆け出すと、マギの脇下をがっちりホールド、ミカの挙動はちょっぴりボールド、そのままジャイアントスイングするようにぐるぐると回しだした。
「マギマギマギマギマギーーーーっ!」
「ちょ……えっ……えぇっ……おぇぇっ!」
目が回って終いに気分を悪くしたマギが軽く嘔吐する真似をする傍らで、ミカは仁王立ち。
「熱が下がった。日和ってない、完全無欠の公共の敵にして、十二月を楽しもうという愚かな者どもの天敵。ソロモンよ、私は還ってきた!」
その時、胃液混じりの唾液を垂らしながらマギは思ったのだ。
CO◯ID-19こそこの人をこの世から合法的に排除できるたった一つの冴えたやり方だったのではないか? そして人類はその機会を失った。
ちなみにこのCO◯ID-19であるが、なぜこのような名称になっているかというと、風評被害を避けるため発症地である武漢の地名やその他コウモリなどの動物、研究所等特定の集団などと関連付けず発音しやすい名前を検討した結果、Coro◯avirusから『COVI』、Disease(疫病)から『D』をとり、発生年の2019年を加えて、『CO◯ID-19』とWHO(World Health Organization : 国際保健機関)が名付けたのだった!
まぁいい。世間という世間の風潮に叛いて傾く反世間派ギャグコメディの真価、そして。
奇蹟のカーニバルはこれからだ。
マギはまだえずきながら言った。
「……おえっ。他人にガチの吐き気を催させた言い訳はそれだけか?」
「うん。終わった。私はPS5も持ってなければ16もやったことがないからな」
「何の話かわかんねえよ! あとミカパイセン、ころころキャラ変わりすぎじゃね」
「それが双極ってもんなんだよ。今は躁だから、かえって危ないとされる時期なんだって」
「はぁ……はぁ……完全に合点がいったわ……で? 珍しいじゃないですか。ミカパイセンがこんなオシャレなカフェ……いやこれ」
マギは目を疑った。
それは近世西洋風の外見を模ったカフェのように見えるドッグフード店である。俗にいうイヌを連れても平気なカフェだ。
そして一転して目を輝かせながら見た。
ミカの手元には確かに濃い茶色と緑色のリードが持たれ、足元に続いている。
「嘘でしょ。ミカパイセンがこんな高尚な……ワンちゃん飼ってたんですか!」
「うん。いってなかったっけ? 将来の夢は人面犬になることですよって」
「絶対聞いたことないし、知りませんよそんなの! えー? 言ってくださいよー! めちゃくちゃ良い趣味してるじゃないですかー。名前はー? ……てか、よく見たらこれ、犬っつか……」
ミカはにべもなく足元の小動物を指して言う、
「うん。こっちがイヌヌワンで、こっちがシヌヌワン」
「イヌヌワン!」
「シヌヌワン!」
「ワンパチとボチじゃねえか! モザイクかけろっ! あと、(むにゅむにゅ)は確かにイヌヌワン! って鳴くけども、(ぐにゃぐにゃ)はそうは鳴かねーから! 単なるXのミームだから!」
「うちの子はシヌヌワンって鳴くんですー。な? モップ・ド・キャンドル」
「シヌヌワ……えっ、モップ・ド・キャンドルって?」
「大体お前、これどっから拾ってきた!」
「え? わたしたちは ポケットモンスター ちぢめて ポケモンという 不思議な 生き物と 力を あわせ 暮らしていますよね?」
「いねーよ! いたらいいなとは誰もが一度は思うことだろうけどもっ!」
「え、メロンパンは実在する。メロンパンにメロンは使われていない。メロンは実在する。ウグイスパンは実在する。ウグイスパンに……」
「はいはい、長いからカット! ポケセンは実在してるけど実際のポケモンは使われていないことから、ポケモンの実在は明らかって言いたいんことでしょ!」
「ほんとだもん……ほんとにポケモンいるもんっ! 嘘じゃないもんっ! お姉ちゃんのバカっ! カスっ! クソがっ! 股間くせーんだよっ! 一緒の洗濯機で洗いたくないのこっちのセリフなんだよっ! でも知ってる? あの嫌悪感って似た遺伝子同士で合体しないような作用らしいよ。おかしいね、私たちの神」
「ちょっとちょっと。今回……えぇ? ミカパイセン、どうしちゃったんですか? いつもわりとそんなんだけど、今日とくに飛ばしてません?」
「熱が下がったからね。やっと神の頭が回転し始めた」
「それでこうなるっ? ずっと風邪引いてたらいいのに……」
「まぁ、奇遇だし、散歩の途中だし、その辺の公園でも寄ってかない? イヌヌワンとシヌヌワンとも遊びたいでしょ?」
「遊びたい! マジで?!」
「いこいこー」
◇
二人は近くの公園でリードを外し、特にマギはミカの二匹の信じられないペットと夢のような時間を過ごすのだった。
「あぁぁぁああーーーーっ! ほんとう、なんでもっと早く言ってくれなかったんですかーずるいっ! ずるいですよーパイセンばっかり」
「かなり濃いめのグレーかなって思ってさー。だから今日は下ネタなしな。サービスはできない。あとが怖いし」
「さっき、っぽいこと言ってた気がしますけど、今はもうなんでもいいやー」
「マギも捕まえたらええねん」
「簡単に言うなよっ! うふふーイヌヌワンもシヌヌワンもくっそかわええー」
「取るに足らない羽虫のような原作のままでいるか、さもなきゃ無視できない人気作になって後付けでとりゃいいんだよ。許可なんて」
「その発言、炎上するってーうふふーかわええー」
「さ、五時になったし、そろそろ母ちゃんが呼びに来るぞ」
「昭和のガキか! うふふーもうミカパイセンったらー」
マギはミカとその他小動物二匹と連れながら夕暮れの道を歩き、まだ夢見心地で言った。
「いいなー、私もペットほしい」
「お前が中村のペットだろもう」
「それを言いたいがためにこの話作ったの?! マジでどういう神経してんの?」
しかし、マギには気掛かりなことが一つと言わずあった。
「でもイヌヌワンとシヌヌワンがいるってことは……他のやつもいるってことになりますよね」
「そうだね」
「陸海空を支配する怪獣みたいなやつや時空を支配するヤバいやつやクローンとして生まれ、己の存在意義がわからず、果てに人類を逆に捕まえて使役しようとか目論むヤバいやつもいるってことで……」
「うん」
「それはちょっと……ヤバくね?」
マギが言った瞬間、時空が歪んだ。
指先から周りの風景から耳に届く物音ひとつまで急に小さく、そしてレトロな音源になっていく。
「わっ……えっ、えぇーーーっ」
「おお。つまり、それはこういうことだと言わんばかりの変化が」
「どうなってるのーーーっ!」
衝撃の展開からまさかの後半へ、
つづくのだった。
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