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第十回『#炎上覚悟で言うけど、ムカつく奴の行動原理、大体護衛軍と一緒! 前編』
しおりを挟む「数の暴力反対ってゲーマーなら誰でも知ってるくせに、陰キャオタクのうちさらに十代で童貞捨てられなかった陰のカースト上位たちほどリアルでは数の暴力に頼ってる事実について」
「長いのに、すっきりと腑に落ちるこの感覚」
「元祖いじめられっ子の方が大人になっていじめっ子気質爆発させるってことですよね。最近なんかで話題になってた気がしますねー」
「なんかあった? ミカパイセン」
「あった」
「しょうがないな、頭撫でてやろっか。よしよーし」
ミカはそんなマギの親切心を鼻で笑った。
「はっ……頭撫でて、あわよくばついでに尻も撫でまわそうってか。よくいるよね、それで弱者心わかった気になってるナルシスト」
「弱者心ってなに」
「だがあいにく私はそんな小賢しさ、タイプじゃないんでねぇ。がっつり来られたい派だから、私。ガキは家に帰って自分の豆でも撫でてな」
「史上最低の捨て台詞で記録されそう」
「ミカパイセンの頭には何が詰まっているの。何があなたをそうさせてしまったの」
「わかってんだよ。私ってもうこうじゃん。取り返しがつかない」
「うん。自覚あったんだ」
「言いたいことあったら言うのが筋だと思って言っちゃうし、盛り上げるときも人一倍うざいことするんだよ」
「そうだね。うざいときあるよね」
「お前それうぜーから! ギャハハハッ! みたいなさ。彼ピッピもそんなんだったし」
「あーうざい。声でかいよね。もう少し静かに喋れやみたいな連中いるよね」
「そういう流れの中で生きてきて、一般オタクからしたら付き合いづれえなコイツとかうるせえなコイツ……って思われてんだろうなーとかもわかってるわけ。どこいってもアウェー」
「ごもっとも。まったく擁護できない」
「それでもさ……」
「そうだよね。そこは反省して一回生まれ直したほうがいいかもしれない」
「……ねぇ、マギって、私のこと嫌いなの……?」
「えっ」
「違うじゃんっ! 普通さ、ふつう友達が『私ってさ……歯茎に挟まったクラッカーのカスほどの価値もないクズだよね』とか言ってたら、全然! そんなことないよって言うじゃん! 言って!」
「えっ」
「その顔、ぶん殴りてぇ……まぁいいやマギに話したのが間違いだった。ねぇ、リッちゃんはわかるよね」
「難しいですね。というのも私は私、ミカ先輩はミカ先輩。育ってきた環境が違うから好き嫌いって否めなくて」
「えぇーそんな小難しい話誰もしてないし、セロリどうでもいいよ。普通に慰めたらいいやんって話じゃん……おじさんの頭皮こすりながら、ラーメン食べた仲じゃん」
「あ、やっぱり気付いてたんだ……」
「うん。なんか声かけてきた時の言い方がうざいなこのハゲって思って」
「お前、前々回くらいの通り魔の心境だよ、それが!」
「いますよねー、おじさんの頭皮さすりながらラーメン食べたくらいでズッ友みたいになる人。羽姉妹になったくらいで図に乗らないでくれませんか」
「羽姉妹ってなに。てか、リッちゃん、さりげなく本当に黒いな。あなたにも何があったのか気になってきたよ、私」
「で、何があったんですか。それ言わないから進まねーんだよ、いつもいつも」
「言ったら特定されんじゃん」
「じゃここの議題に持ってくるな。ただでさえ文字って表情とぼしいんだから、わかるわけが……魔法使いが読むこと前提にしてんのか?」
「だから、こう、ぼかして話題にしてんじゃん。出る杭は打たれるっていうのかなー、私ってこんなんだからさー、新参の頃にはしゃいだ結果、すんげぇねちっこい古参の人にさ延々と絡まれるようになって、今回も遠回しな嫌味言われたって話」
「妄想だから病院行けって」
「いやこれがマジなんだって。絶対あの人私に気があるよ、私が見ると目合わせてくるもん! ってくらいマジ」
「だからそれ妄想百のやつ! 例え精神科の担当医がレクター博士であっても、誰もお前のこと信用しない。視聴者ですらレクター博士信じるレベル」
「大体演者のこと呼び捨てにするやついるじゃん。あれってどうなの? 目に入っただけで気分悪くならん? お前何様だよみたいな。あだ名みたいなのならまだしも、その上本当に嫌味なんだからその人」
「お前、前々回くらいの通り魔の心境だよ、それが!」
「わかった。別の話に移していくわ。見てろ、私の話術。てことで、今回はVとリスナーの話です」
タイトルアップ。
ミカは話した。
「もうこれ見つかったら出禁覚悟で思い切ってネタにしちゃうんだけど、この前とある配信でさー、集団心理の雑談してたわけ」
「うん。それは前の話のと違う奴?」
「同じだけど違う奴」
「察し。りょ(了解の意)」
「で、そういう数で訴えてくるの良くないよねーってその配信者様が語ってたのに、そのコメント欄でさ、こちとらうん十万フォロワーの配信者だぞ! とか粋がってるのがいてさ笑 ゲロゲロゲロリ、タママニ等、お前はもう何を聴いてたんでありますかと」
「(苦笑)軍曹さーん、ボクに対する熱い風評被害やめてくださいですぅ」
「ゲロゲロゲロ、しらばっくれるんじゃありませんっ! その人のサムネは緑のカエルだったんであります!」
「ボク、オタマジャクシだしなぁ。緑なら俄然軍曹さんじゃないですかぁー」
「とにかく配信者の人は決して悪くないよ? その人は良くないよねー、って話してたんだから。なのに、そのリスナーがさ、コメでそういうこと言ってるの最高に意味わかんねーっつー話」
「ミカパイセンはそういうの本当に嫌いだよね。なんていうの、虎の威を借る狐っていうか。他人の褌で相撲取るっていうか」
「うん。王がタクトを振るえば即日で意見ころころ変える護衛軍みたいな奴ら。あれ改めて見ると本当によく考えてるよね、蟻編。ゴンが忌み嫌う理由も分かるんだよ。ナックルみたいに好きになっちゃった人もいると思うけど(私もそうだったし)ピトーにもユピーにも結局自分なんてないねん。メルエムが白ったら白。黒ったら黒。実はプフのがまだ人間らしくて(王に自我でわがまま言うから)見所があるっていう。宗教やら崇拝の厄介さ、怖さを物語ってる」
「はぇーオタクっぽい見解」
「おっきあーーっ!」
「ん?」
突然スタジオの外から鳥の鳴き声にも似た子供の声とぼんぼんボールをぶつける音が聴こえてきた。
たまに住宅街の中空に放たれるような子供の解読不能な歓声が、三人の鳥頭から話題をかき消した。
「……で、なんだっけ」
「何の話でしたっけ?」
「ゲーマーとファン……?」
「信者とかそういう……」
「あれだ。最近のオタク、開発者に対してはボロカス言うくせに、アニメの面かぶっただけのキャバ嬢&ホストにはもろくそ甘い」
「絶対違うし、お前、それ前論と立場がわからなくなるぞ!」
「えっ」
「だから、前論ではお前の立場はリスナーの横暴を詰める側じゃん。それが逆転して今度は配信者を詰める側になってる」
「えっ」
マギはもう手をあげていた。
ポップコーンの跳ねる音よりも軽快なパチン音がスタジオに響き渡った。
ミカよりもこう見えて直情的であって喧嘩っぱやく、我慢できないときには我慢できない。それが推し活女子である(実話)。ちなみにオタクはこう見えて相手との和解を諦めないハトよりもハトらしい博愛の人ゆえに決して手だけはあげない。あげてもハトらしく、下手くそな蹴りになる。
ミカは一足早いお餅のようにぷくーっと頬を赤く腫らしてリツに泣きすがった。あと鏡餅って結局食べないでカビらせちゃうこと多くない? そろそろ勿体無いから飾るの後にして、来年は先に食べたほうがいいと思う。家族に黙って。良かれと思って。米農家さんは怒っていい。
マギはわりと戦闘民族な自分の本性に動揺して、自分の手刀をさすりながら言った。
「ご、ごめん……まさか自分でもこんな早くブチ切れるとは思わなくて(でも何なの、これ。この気持ち……ミカパイセンをぶん殴るの、正直超気持ちええ……!)」
「あくまでプロレスなので、その……実際手をあげるのは御法度ですよ、マギ先輩……気持ちはわかるけど」
「う、うん。気をつけるね。ごめんね、ミカパイセン」
「うん……続ける……」
ミカパイセンはプロ根性で涙を堪え、ぐずりながらも切り出した。
「すごいのはあくまで中心となってる人であって、ファンじゃないじゃん……そこを履き違えて、その人の権力を自分の力みたいに誇示してる勘違いオタクってさ……どうなんって。いや私もオタクだから言うんだよ。これはほんと、好きな人を好きな他の人に嫌な気持ちにさせてるし、入りにくくなって、巡り巡って、本人に一番迷惑かける、本当の厄介さんってこういうことじゃね? 気付いて、その人の陰湿さに……って話がしたかった……けどマギにぶん殴られた」
論点がビンタの前後で違うのもそのショックによるものか。
否、どちらもミカ。
「でも、バランスとって一応その人を擁護する説明をすると、まぁ人間あることですよ。そういうの」
「そうなの?」
「ええ、一種のストックホルム症候群みたいなものでしょう。ストックホルム症候群ってのは、自分を拉致したはずの犯人なのに、話してると、段々その人の言ってることが世界で一番正しいことのように聞こえてくるアレ。強迫的な状況に陥ると人間、認知が狂っちゃうんですよね」
「拉致されたこともないし、余計わかんねーよ。てか、欧米ってこんな単語が生み出されるくらい拉致事件多いの?」
「日本でもわりと想像できるって……つまり上司や怖い先輩に詰められてるときとか。こんな感じになってるはず……ぐす……で、よく話の内容とか自分は知らんし、わかってないけど、とりあえずその人のポイントを稼ぎたくて、自分からも話題出したら、それはちげーよ! 今の話聞いてた? って本人からツッコミ入れられて、しょぼんって……なるとか」
「それもまた監視圧力というか、同調圧力から生じてたりするんですよね。皆の目ってのを気にするあまりちぐはぐな言動をとってしまう。反対意見も持ってるけど、周りに合わせなきゃ、でも是が非でも意見したい! ってときにおつむがバグるんですよ」
「長い、一回休憩挟むか……」
カットが入った。
初めての前後編になったけど、世間は休日だからいいよね、まる子。後半戦へ続く。
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