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二日目
『目覚めの神殿、再訪』
しおりを挟む私は昨日の記憶の通りに木々のトンネルを抜け、また果物を見つけましたが、今回はさらに奥、私が目覚めたところまでも戻ってみることに。
改めて観察してみれば、そこは不自然なくらい部屋のような空き地でしたが、まず結果から述べると、肝心の捧げ物の類は見つかりませんでした。
こういう場合、エジプト王墓や日本各地に残存している古墳に代表されるように、大抵土器なり石器なりが供えられていると相場は決まっているのですが、見込み違い。つまるところ、どうやらここは墓所ではないようでした。
やはり、道具は一から自給自足するしかないようです。
しかし、この場所、そのもの。
それが収穫といえば収穫。考古学的な解釈をすれば、この場所自体がもうお宝と言えるものではないか。
明らかに人工的な気配のする煉瓦敷の石畳に崩れたくたびれた内壁、石柱に触れながら、私は情報を拾い集めるように推測します。
もしかしたら、世界がこうなる以前、ここは人の行き交う中心街だったのかも。文字列の類は一切確認できませんでしたが、私もヒトだからでしょうか。目を瞑れば、そこを根城にしていた人たちの残影が瞼の裏に克明に浮かぶようでした。
脂肪、名残、いわく言霊や残滓と呼ぶような胸の内を突き上げてくるものがあります。
埃を払うと浮かび上がる地面の幾何学模様に、それを無惨に突きくずして、なお雄々しく柱に巻き付く蔓の数々、あるいは頭上に樹冠を広げ、建物の天井を覆い尽くし、ついには周囲の空まで包み込んだ大樹の群れ。
それらが一体となって、この森が形成された経過を考えると、ここが終わってから、数百単位どころではない歳月が窺えるのでした。
私ははっと振り返り、あの丘の上から眺めた景色を思い起こすと、さらに果ての世界まで見通すように脳裏の視野を広げます。
きっと、ある。
私のよく知る、もしくは遂に知ることのなかった建物が。そしてこうなった原因が、そこに、ある。
その断片はいくつかのとある可能性を実しやかに私に示すものでした。
この世界のヒトは、もしかしたら、もう……。
……しかし、全てはまだ憶測に過ぎません。
考えていても詮無い。
だからこそ、自分の目で確かめることが肝要に思われるのでした。
そうして目標が定まったのを感じて、私はとりあえず目先の標的、供物が見つからなかったことに関し、やれやれ、またはトホホ……と気を持ち直すと、踵を返して、丘の上に戻るのでした。
獲得物は生でも食べられる果物と、数点の煉瓦石。これは自然界のものよりも非常に硬度があり、武器にも道具にも有用のように思われ、いくつか用途に分けて、形の違うものを拾っておいたものです。
それを丘の上に並べながら、私は朝食として採ってきたばかりの果物を食べ、目線を頭上に巡らしてみましたが、自分の体力ゲージは見えませんでした。
自分の余命は見えないということかしら。
皮肉が効いていて、この世界を造ったプログラマーがいるとしたら、私は好みが合いそうだと解釈します。
一方でスライムくんとは少し距離が広がってしまった様子。他人様を殴ったあとに抱擁だなんて、DV人間も甚だしい、恥ずべき横暴でした。今のところは離れた位置からこちらを伺っていますが、決して近寄ってはきませんでした。私は大いに反省して、しばらくの間、そっとしておくことにします。
さておき、お腹は膨れました。
生でも食べられる果物をその場に置き……私は改めてスライムくんを見ました。それから、少し一歩近寄ろうとすると、向こうもぴくっと動いて、距離を取ります……仕方なし。
私は『食べてもいいよ』とわかるように、少し離れた場所にスライムくんの分を取り分けておくと、自身は昨日見つけた水場の森へと丘を降りるのでした。
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