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第十六変『混沌の布石と訪問者・3』
しおりを挟む「こんにちは」
いわゆるアッシュというくすんだ髪色に、珊瑚礁みたいに濃い青色のインナーカラーを使ったストレート。それでいて、全身陽に焼けたような小麦色の肌。
「……ってあれ、誰かと思えば……」
玄関の外にいたのは、そんな一目で見て取れるような風貌のギャルであり……みよちんが、史上最も苦手とする生物であった。
「よみちんじゃん」
ギャルの目元が、昼日中に出歩くひきこもりでも見つけたかのように、楽しげに歪む。
「なにしてんの、こんなとこで」
「荻野先輩……」
一気にテンションが下がった。親のごとく好きじゃない。できることなら、顔も見たくなかった。そんな時、みよちんはどうしてもゲロを吐き出したいような、その顔に出てしまう。否、感情が表に出ない人間がいるものだろうか。自分自身、そこを見て、正確な人となりを見抜く。フリかどうかがわかる。
しかし、こいつに限っては、フリとかいうレベルですらない。悪徳が、人の皮をかぶって歩いているようにしか見えない。他人の評判なんか四か五くらいの次で、ツノを隠すフリすら、そもそもしていない。それなのに、周りの人間にはそれが、人間(それも、少なからず真ん中のラインより上澄みで、まともな)であるかのように見えている圧倒的な理不尽を感じている。
(私が『公共・社会の敵』だとしたら、こいつは……荻野 陽毬は紛れもない人のフリをした魔物——『人類を腐らす最悪の天敵』だ……)
みよちんは陽毬を睨んだまま、ゆっくり深呼吸する。
(二度と……会いたくはなかったよ)
結局、それが、一番なのである。
極と極があれば、どうしたって理解の及ばないものはいる。人同士ですら難しいのに、人と、チンパンジーとが、わかりあうなんてもっての外なのだから。
だから、言葉が意味をなさない相手とは、そもそも接触しない。無理強いして考えを合わせ合い、不平不満を押し殺し、内心憎み合いながら関係を続けるより、そうして最果ての殺し合いを避けるために互いがもう二度と会わなくて済むように区別する、分立する、という手段のほうが、よほど平和的な解決策じゃないか。
ストーカーへの対処がこれと決まっているように、嫌な隣人に対する接し方はすでに出来上がっている。なのに、なぜか、社会はいつも逆に進む。
しかし、みよちんはこのミカの羽根を授かってからというもの、この対峙をうすうす予感していた。なぜなら、荻野陽毬……羽根の力に目覚める目覚めないに関わらず、こいつが、こんなに面白そうなことに関わってこないわけがない。
意を決して、
「どうして」とみよちんが言うのと、皐月が顔を覗き込んだタイミングが重なる。それで、みよちんは我に返ったように、皐月には目を丸くした。
皐月は、それから振り返って、陽毬、みよちん、と交互に顔を眺めて、指をふり、言った。
「先輩? ……知り合い?」
なんて、可愛いんだ、皐月。
みよちんはその愛くるしさに圧倒された。
まあるいおめめに、ふっくらほっぺ……なぜだか、皐月が小動物的なものに感じられて、みよちんは抱きしめたくなる。ふわふわ、くるくるした両頬のコッペパンみたいなおさげまでも愛くるしい。あぁ、可愛いよ、皐月……皐月は食べちゃいたいくらい、なんて可愛いんだ。
ぎゅっ。
ダメだった。いろいろな回路がショート寸前までに空転した結果、みよちんは辛抱たまらず、小動物的なその友人をひしと抱きしめていた。ぐー。皐月はあまいミルクのような匂いがする。必ず、いいお母さんになる。私はきっとシンクの底に凝り固まったヘドのような母親で、腐った魚介類みたいな臭いに違いないけれど、牡蠣だって海のミルクとか言うし、ときにはこんな癒しも必要だ。(?)
ぽんぽん。皐月は何も言わずに背中を叩いた。
「ぽんぽん」口でも言う。それもまた可愛かった。「どうした、みよちん?」
「…………」
突然目の前で始まったそんなやりとりを、荻野陽毬は、唖然として見ていた。
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