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第198話:トーヤ、知らぬ間に守られる
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「お疲れ様でした! 失礼いたします!」
その日の夜、トーヤはいつも通り定時に仕事を終えると、そのまま商業ギルドをあとにした。
彼のあとをひっそりとついて行くのはミリカで、護衛も兼ねている。
ヴァッシュは日中と同じように周囲に耳を傾けており、地獄を味わわせた男性二人の雇い主についての情報を集めている。
そしてダインとリタはと言えば、トーヤが帰ったあとに商業ギルドに入ると、リリアーナに声を掛けて二階へと上がっていく。
声を掛けられたリリアーナも、他の職員たちも、顔を見合わせながら首を傾げていた。
「失礼いたします、ジェンナ様」
代表してダインが声を掛けた。
「急に呼び出してしまってすまないわね」
「構いませんよ。これも仕事のうちですからね」
「ミリカさんはトーヤさんの護衛をしています。ヴァッシュさんは怪しい人物の依頼人について情報を集めてくれています」
ジェンナが急な呼び出しを謝罪していると、ダインは笑顔で構わないと口にし、リタがこの場にいない二人の状況を説明した。
「それに、俺たちからも報告があったので助かりました」
「もしかして、商業ギルドに来ていたフードの男性のことかしら?」
「その通りです」
フェリからリリアーナに報告が入っていたフードの男性だが、その後リリアーナからジェンナにも伝わっていた。
そのことを瞬光に伝えようと思っていたジェンナだったが、状況はその先へと進んでいた。
「その男性ですが、別の男性と合流していました。ヴァッシュに探らせていたんですが、やはりポーションの調合師を探っていたようです」
「すぐにヴァッシュさんが忠告を行ったのですが、どうにも依頼人がいたようで、調査の中断はされませんでした」
「そうだったのね。それで、どうしたのかしら?」
ジェンナがその後の対応について確認すると、ダインとリタは一度顔を見合わせたあと、苦笑しながら口を開く。
「ヴァッシュが二人を叩きのめしたあと、さらに脅してやりました」
「相当怖かったんだと思います。二人はラクセーナから逃げるように去っていきました」
男性二人はラクセーナ出身ではなかった。
そのせいもあってか、ヴァッシュが凄みを利かせて脅すと、顔を青ざめながら逃げ帰ったのだとか。
「そうなのね。でも、そこまでする必要があったのかしら?」
「俺も最初はそう思いました。ですが、ヴァッシュが二人から情報を聞き出して、依頼人が誰かを聞いて納得しましたよ」
「ラクセーナから逃がす方が、その二人にとっても安全だと判断したんです」
傷の男性が何度も口にしていた「自分たちが消される」という言葉は、誇張でもなんでもなく、本当にそうなってもおかしくはない、そんな人物が依頼人だったのだ。
「その感じだと、相手は貴族なのかしら?」
「仰る通りです」
そして、ジェンナもある程度の当たりを付けて口を開くと、ダインから肯定が返ってきた。
「ですがまあ、逃がしたのは二人を助けるためって理由だけです。その貴族ですが、そこまで警戒する必要はないかもしれません」
「……どういうことかしら?」
「実は、相手は王都の貴族なのですが……一度、トーヤさんに言い任されている相手なんです」
ダインが苦笑しながら口にした言葉に疑問の声を上げたジェンナ。
その理由をリタが説明すると、ジェンナも理解したのか呆れたように口を開く。
「……なるほど。魔導具開発局局長、ドプライがやらかしていたのね」
王都に存在する魔導具開発局は、アリアナやレミの元職場でもある。
そこの局長をしていたドプライは貴族家の三男だったのだが、当主になることが叶わないと分かると、自分の城を得るべく魔導具開発局の局長のポストを金で手に入れていた。
魔導具の知識を持つわけでもないドプライは、トーヤが持ち込んだ古代の魔導具を手に入れようと画策していたものの、結局は聖者の瞳による規格外な人物鑑定によって不倫という秘密を握られ、手を引いたという経緯がある。
「まさかドプライも、調合師がトーヤだとは思っていないでしょう」
「それはそうよ。だけど、そういうことなら対処はしやすそうね。幸いなことに、ラディスもまだラクセーナにいることだし、すぐに話をつけるとしましょうか」
そう口にしたジェンナの顔は、不敵な笑みを刻んでいる。
その顔を見たダインとリタは背筋がゾッとしており、ジェンナを敵に回してはいけないと強く思った。
「申し訳ないのだけれど、もう少しだけトーヤの護衛をお願いできるかしら?」
「もちろんです」
「お任せください!」
最後の確認を終えたダインとリタは、そのままジェンナの部屋をあとにした。
二人を見送ったジェンナも椅子から立ち上がると、自分の机に移動して手紙をしたためると、窓際へ移動する。
ジェンナが窓を開けると、窓際に一羽の鳥が逃げることなく彼女を見つめていた。
「この手紙をラディスのもとへ。急ぎよ、お願いするわね」
鳥の足に手紙を結び付けながらそう口にするジェンナ。
最後にジェンナの指から微かな魔力が鳥へ流れ込むと、鳥は翼を羽ばたかせて夜空へ飛び立っていった。
「……さて、どうしてくれようかしら?」
不敵にそう口にしたジェンナの頭の中は、ドプライを追い込む方法をあれやこれやと考えていたのだった。
※※※※
【宣伝マラソン最終日】
12/16(月)に本作3巻の出荷が始まりました! 私の地元はだいぶ遅くなるので、早くこの目で見たいものです!
今巻も加筆・修正をたくさん加えておりますので、是非ともお手に取っていただけると嬉しいです!
既刊も合わせて読んでいただけると、より嬉しいです! 飛び上がります!
皆様、何卒よろしくお願いいたします!
また、宣伝マラソンも本日が最終日となりますので、次の更新からは今まで通り【土日の12:10更新】に戻ります。
何卒よろしくお願いいたします。
※※※※
その日の夜、トーヤはいつも通り定時に仕事を終えると、そのまま商業ギルドをあとにした。
彼のあとをひっそりとついて行くのはミリカで、護衛も兼ねている。
ヴァッシュは日中と同じように周囲に耳を傾けており、地獄を味わわせた男性二人の雇い主についての情報を集めている。
そしてダインとリタはと言えば、トーヤが帰ったあとに商業ギルドに入ると、リリアーナに声を掛けて二階へと上がっていく。
声を掛けられたリリアーナも、他の職員たちも、顔を見合わせながら首を傾げていた。
「失礼いたします、ジェンナ様」
代表してダインが声を掛けた。
「急に呼び出してしまってすまないわね」
「構いませんよ。これも仕事のうちですからね」
「ミリカさんはトーヤさんの護衛をしています。ヴァッシュさんは怪しい人物の依頼人について情報を集めてくれています」
ジェンナが急な呼び出しを謝罪していると、ダインは笑顔で構わないと口にし、リタがこの場にいない二人の状況を説明した。
「それに、俺たちからも報告があったので助かりました」
「もしかして、商業ギルドに来ていたフードの男性のことかしら?」
「その通りです」
フェリからリリアーナに報告が入っていたフードの男性だが、その後リリアーナからジェンナにも伝わっていた。
そのことを瞬光に伝えようと思っていたジェンナだったが、状況はその先へと進んでいた。
「その男性ですが、別の男性と合流していました。ヴァッシュに探らせていたんですが、やはりポーションの調合師を探っていたようです」
「すぐにヴァッシュさんが忠告を行ったのですが、どうにも依頼人がいたようで、調査の中断はされませんでした」
「そうだったのね。それで、どうしたのかしら?」
ジェンナがその後の対応について確認すると、ダインとリタは一度顔を見合わせたあと、苦笑しながら口を開く。
「ヴァッシュが二人を叩きのめしたあと、さらに脅してやりました」
「相当怖かったんだと思います。二人はラクセーナから逃げるように去っていきました」
男性二人はラクセーナ出身ではなかった。
そのせいもあってか、ヴァッシュが凄みを利かせて脅すと、顔を青ざめながら逃げ帰ったのだとか。
「そうなのね。でも、そこまでする必要があったのかしら?」
「俺も最初はそう思いました。ですが、ヴァッシュが二人から情報を聞き出して、依頼人が誰かを聞いて納得しましたよ」
「ラクセーナから逃がす方が、その二人にとっても安全だと判断したんです」
傷の男性が何度も口にしていた「自分たちが消される」という言葉は、誇張でもなんでもなく、本当にそうなってもおかしくはない、そんな人物が依頼人だったのだ。
「その感じだと、相手は貴族なのかしら?」
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そして、ジェンナもある程度の当たりを付けて口を開くと、ダインから肯定が返ってきた。
「ですがまあ、逃がしたのは二人を助けるためって理由だけです。その貴族ですが、そこまで警戒する必要はないかもしれません」
「……どういうことかしら?」
「実は、相手は王都の貴族なのですが……一度、トーヤさんに言い任されている相手なんです」
ダインが苦笑しながら口にした言葉に疑問の声を上げたジェンナ。
その理由をリタが説明すると、ジェンナも理解したのか呆れたように口を開く。
「……なるほど。魔導具開発局局長、ドプライがやらかしていたのね」
王都に存在する魔導具開発局は、アリアナやレミの元職場でもある。
そこの局長をしていたドプライは貴族家の三男だったのだが、当主になることが叶わないと分かると、自分の城を得るべく魔導具開発局の局長のポストを金で手に入れていた。
魔導具の知識を持つわけでもないドプライは、トーヤが持ち込んだ古代の魔導具を手に入れようと画策していたものの、結局は聖者の瞳による規格外な人物鑑定によって不倫という秘密を握られ、手を引いたという経緯がある。
「まさかドプライも、調合師がトーヤだとは思っていないでしょう」
「それはそうよ。だけど、そういうことなら対処はしやすそうね。幸いなことに、ラディスもまだラクセーナにいることだし、すぐに話をつけるとしましょうか」
そう口にしたジェンナの顔は、不敵な笑みを刻んでいる。
その顔を見たダインとリタは背筋がゾッとしており、ジェンナを敵に回してはいけないと強く思った。
「申し訳ないのだけれど、もう少しだけトーヤの護衛をお願いできるかしら?」
「もちろんです」
「お任せください!」
最後の確認を終えたダインとリタは、そのままジェンナの部屋をあとにした。
二人を見送ったジェンナも椅子から立ち上がると、自分の机に移動して手紙をしたためると、窓際へ移動する。
ジェンナが窓を開けると、窓際に一羽の鳥が逃げることなく彼女を見つめていた。
「この手紙をラディスのもとへ。急ぎよ、お願いするわね」
鳥の足に手紙を結び付けながらそう口にするジェンナ。
最後にジェンナの指から微かな魔力が鳥へ流れ込むと、鳥は翼を羽ばたかせて夜空へ飛び立っていった。
「……さて、どうしてくれようかしら?」
不敵にそう口にしたジェンナの頭の中は、ドプライを追い込む方法をあれやこれやと考えていたのだった。
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