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第191話:トーヤ、料理を作る
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そして、食事会当日。
仕事が休みだったトーヤは、朝から食事会に出す料理を作るべく、台所に立っていた。
「楽しみだねぇ」
今日という日を楽しみにしていたのは、何も参加する人たちだけではない。
ブロンもまた、トーヤが料理をふるまう食事会を楽しみにしている一人だった。
「特別なものは作れませんが、簡単な料理をたくさん作りたいと思っております」
「そのどれもが美味しいのだから、やはり楽しみだよ」
「そう言っていただけると、やりがいも上がってきます」
嬉しそうにそう口にしたトーヤは、腕まくりをしてから調理に入る。
まずは時間の掛かる料理からなのだが、これがある意味ではメインディッシュになるかもしれない。
「瞬光の皆さんに褒められた、思い出の料理ですからね」
いずれまたご馳走したいと思っていた、ホーンラビットを使ったローストビーフならぬ、ローストラビットだ。
全ての面に焼き入れを付け、保温性の高い魔獣の皮で巻き、しばらく放置する。
前回の時は一時間近く放置していたので、先に作っておくに越したことはない。
「この料理は初めて見るね」
「王都まで瞬光の皆さんに護衛をしてもらった時に作った料理です。褒めていただけたものなので、お出ししたいと思ったのですよ」
「なるほど。それは楽しみだ」
興味津々なブロンにトーヤが答えると、彼は柔和な笑みを浮かべた。
とはいえ、夕方まではまだまだ時間がある。
温かい方が美味しい料理もあるため、全てを先に作っておくことは――できたりする。
「こういう時、アイテムボックスがあるとありがたいね」
「そうですね。温かいまま、収納することができますから」
トーヤのアイテムボックスは容量無限という規格外なだけではなく、時間経過を止めることもできる優れものだ。
料理であれば温かいまま、冷たいまま収納することが可能で、生ものも腐らせることがない。
だからこそトーヤは大量に食糧を買い込み、いずれ来るだろう野営の食事に備えていたりする。
「次は生姜焼きを作りましょう」
「おぉ、それならわしも手伝えそうだが、何かやることはあるかい?」
「それでしたら是非、ブロンさんの味付けで生姜焼きを作っていただけませんか?」
ブロンの言葉を聞いたトーヤが作ってほしいと伝えると、驚きの表情を向けられる。
「わしの味付けでいいのかい?」
「はい! 私はブロンさんが味付けをした生姜焼きも大好きなのです! もしも今回の味付けが皆さんの好みであれば、次回はブロンさんの味付けで作りたいと思っているのです!」
自分だけが作ってしまうと全ての味付けが近いものになってしまう。
ここでブロンの味付けも加えれば、多くの味をみんなが楽しめるのではないかと、トーヤは考えていた。
「トーヤが言うのであれば、わしも少しばかり腕を振るうかのう」
「お願いいたします! それでしたら、私はまた別の料理を作りたいと思います!」
準備から楽しくなってきたトーヤは、新鮮な野菜に掛けるドレッシングを作り始める。
ごまだれやオーロラソースといった定番から、香辛料の利いたスパイシーなものまで、色々なドレッシングを楽しめるように作っていく。
時折ブロンと味見をしながら、お互いに感想を言い合う。そんなやり取りもトーヤの気分を高揚させた。
惜しいのは魚介類がないことだろう。
ラクセーナは内陸に位置しており、海からも遠い場所にある。
トーヤはいずれ海に面した都市へ赴き、そこで思う存分海鮮料理を食べたいという思いを抱くようになっていた。
「ふふ、楽しそうだのう、トーヤ」
「はい! こんなにも楽しく料理ができているのは、ブロンさんや皆さんのおかげです! 本当にありがとうございます!」
「それはこちらのセリフなんだがのう」
お互いに笑みを浮かべながら、それぞれが料理に腕を振るうのだった。
仕事が休みだったトーヤは、朝から食事会に出す料理を作るべく、台所に立っていた。
「楽しみだねぇ」
今日という日を楽しみにしていたのは、何も参加する人たちだけではない。
ブロンもまた、トーヤが料理をふるまう食事会を楽しみにしている一人だった。
「特別なものは作れませんが、簡単な料理をたくさん作りたいと思っております」
「そのどれもが美味しいのだから、やはり楽しみだよ」
「そう言っていただけると、やりがいも上がってきます」
嬉しそうにそう口にしたトーヤは、腕まくりをしてから調理に入る。
まずは時間の掛かる料理からなのだが、これがある意味ではメインディッシュになるかもしれない。
「瞬光の皆さんに褒められた、思い出の料理ですからね」
いずれまたご馳走したいと思っていた、ホーンラビットを使ったローストビーフならぬ、ローストラビットだ。
全ての面に焼き入れを付け、保温性の高い魔獣の皮で巻き、しばらく放置する。
前回の時は一時間近く放置していたので、先に作っておくに越したことはない。
「この料理は初めて見るね」
「王都まで瞬光の皆さんに護衛をしてもらった時に作った料理です。褒めていただけたものなので、お出ししたいと思ったのですよ」
「なるほど。それは楽しみだ」
興味津々なブロンにトーヤが答えると、彼は柔和な笑みを浮かべた。
とはいえ、夕方まではまだまだ時間がある。
温かい方が美味しい料理もあるため、全てを先に作っておくことは――できたりする。
「こういう時、アイテムボックスがあるとありがたいね」
「そうですね。温かいまま、収納することができますから」
トーヤのアイテムボックスは容量無限という規格外なだけではなく、時間経過を止めることもできる優れものだ。
料理であれば温かいまま、冷たいまま収納することが可能で、生ものも腐らせることがない。
だからこそトーヤは大量に食糧を買い込み、いずれ来るだろう野営の食事に備えていたりする。
「次は生姜焼きを作りましょう」
「おぉ、それならわしも手伝えそうだが、何かやることはあるかい?」
「それでしたら是非、ブロンさんの味付けで生姜焼きを作っていただけませんか?」
ブロンの言葉を聞いたトーヤが作ってほしいと伝えると、驚きの表情を向けられる。
「わしの味付けでいいのかい?」
「はい! 私はブロンさんが味付けをした生姜焼きも大好きなのです! もしも今回の味付けが皆さんの好みであれば、次回はブロンさんの味付けで作りたいと思っているのです!」
自分だけが作ってしまうと全ての味付けが近いものになってしまう。
ここでブロンの味付けも加えれば、多くの味をみんなが楽しめるのではないかと、トーヤは考えていた。
「トーヤが言うのであれば、わしも少しばかり腕を振るうかのう」
「お願いいたします! それでしたら、私はまた別の料理を作りたいと思います!」
準備から楽しくなってきたトーヤは、新鮮な野菜に掛けるドレッシングを作り始める。
ごまだれやオーロラソースといった定番から、香辛料の利いたスパイシーなものまで、色々なドレッシングを楽しめるように作っていく。
時折ブロンと味見をしながら、お互いに感想を言い合う。そんなやり取りもトーヤの気分を高揚させた。
惜しいのは魚介類がないことだろう。
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トーヤはいずれ海に面した都市へ赴き、そこで思う存分海鮮料理を食べたいという思いを抱くようになっていた。
「ふふ、楽しそうだのう、トーヤ」
「はい! こんなにも楽しく料理ができているのは、ブロンさんや皆さんのおかげです! 本当にありがとうございます!」
「それはこちらのセリフなんだがのう」
お互いに笑みを浮かべながら、それぞれが料理に腕を振るうのだった。
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