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第187話:トーヤ、しどろもどろになる
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しばらくは最高品質のポーションだけではなく、その制作者が誰なのか、という噂でもちきりとなった。
しかし、販売が開始されてからというもの、制作者らしき人物が商業ギルドに姿を見せることはなく、噂話は徐々に最高品質のポーションにだけ注がれるようになっていった。
そんな噂話の推移を鑑定カウンターから見聞きしていたトーヤは、今日も変わらず鑑定業務をこなしていた。
「ねえねえ! 聞いた、トーヤ!」
「こら、ミリカ。まずは鑑定品を提出しないか」
「けっ! 噂に踊らされてんじゃねぇぞ」
「お久しぶりです、トーヤさん」
昼を少し回り、鑑定カウンターが落ち着いてきた頃、トーヤとゆかりのある冒険者パーティの「瞬光」が姿を見せた。
「皆さん、お久しぶりです。それではミリカさん、鑑定品をお願いいたします」
「これだよ! それよりもトーヤ!」
トーヤの言葉にミリカが鑑定品をカウンターに置いたのだが、彼女は即座に別の話題を口にする。
「ポーションの噂、聞いた!」
「全く、お前はまた仕事の邪魔を」
「あはは。構いませんよ、ダインさん。今はお客さんもいませんし、少しくらいなら」
顔を手で覆いながらダインが呆れたように口にしたが、トーヤは苦笑しながら問題ないと答えた。
「……本当にすまないな」
「ったく。面倒なら断れっての」
「トーヤさんが怒られないか心配なんですね、ヴァッシュさんは」
「あぁん? んなわけあるか!」
クスクスと笑いながらリタがそう口にすると、ヴァッシュは彼女を睨みつけながら声を荒らげた。
「いやはや、前から思っておりましたが、リタさんは本当に瞬光に馴染みましたね」
「ありがとうございます、トーヤさん」
瞬光は元々、ダイン、ヴァッシュ、ミリカの三人パーティだった。
以前にジェンナが瞬光へ指名依頼を出した時、リタは臨時でパーティに加入していたのだ。
それからしばらくして正式に加入となったのだが、あとから加入したとは思えないくらいにヴァッシュのことをいじっている。
それがトーヤには驚きではあったが、少しだがリタの人となりを知っていることもあり、とても嬉しく感じてしまう。
「もう! 今は私がトーヤと話をしているの! それで、トーヤは噂話を聞いてどう思った?」
最初は噂話を聞いたか、という内容だったミリカの話は、いつの間にか聞いた前提となっている。
瞬光になら本当のことを伝えてもいいと思っているトーヤだが、それをジェンナはきっと許さないだろうと思い、苦笑しながら誤魔化すことにした。
「どうと言われましても、世の中にはそのような方もいらっしゃるんだなと思うくらいですかね」
「そうなの?」
「はい。何しろ私は商業ギルドの専属鑑定士ですからね。ポーションに馴染みのある皆さんとは、噂の捉え方が異なるんじゃないでしょうか」
魔獣と対峙することの多い冒険者は、常日頃からポーションを携行している。
それは命のやり取りをするためであり、リスク管理を行う上でポーションの有無は非常に重要となってくるからだ。
一方でトーヤは基本的に都市の外に出ることはなく、常に安全な場所にいるわけで、ポーションの必要性を強く感じてはいないのだ。
「だから言っただろう。トーヤと俺たちでは、立場が違うのだとな」
「一緒に行動することも多かったですから、ミリカさんも気になってしまったんですよね」
呆れたようにダインが呟くと、ミリカを庇うようにしてリタが口を開いた。
そんなリタの言葉を聞いたトーヤも、何かあれば瞬光を頼っていたこともあり、ミリカが自分を気に掛けてくれていることが少しだけ嬉しかった。
「気に掛けてくれて、ありがとうございます、ミリカさん」
そこでトーヤがお礼を口にすると、ミリカは笑いながら頬を掻く。
「え、えへへ~」
恥ずかしそうに笑ったミリカを見て、トーヤは一つの提案を口にする。
「そうだ! 皆さん、次のお休みはいつになりますか?」
「休みか? ……今の感じであれば、明後日か、その次だろうか」
「実は私、以前にこちらで専属鑑定士をしていたブロンさんの家にお邪魔させていただいているのですが、ブロンさんの許可が下りましたら、王都への護衛をしてくれたお礼もかねて、食事会をいたしませんか?」
トーヤは前々から、瞬光にお礼をしたいと考えていた。
それは王都への護衛依頼を受けてくれただけではなく、以前から何度も助けてもらっているからだ。
ブロンから許可が下りればという条件付きだが、そんなトーヤの提案にダインたちは顔を見合わせる。
「お礼などは不要だぞ?」
「そうだよー! 私たちは依頼を受けて、ちゃんと報酬も貰っているんだからねー!」
「……だがまあ、トーヤが作る飯は美味いからな」
「私もまた、トーヤさんの手料理を食べてみたいです」
ダインとミリカからはお礼は不要だと言われたが、ヴァッシュとリタからはトーヤの手料理をまた食べたいという意見が飛び出した。
「それを言うなら、俺もトーヤの手料理は食べたいな」
「私も、私もー! だって、絶品だもんねー!」
最終的に全員が食事会に賛成となり、トーヤはホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。絶品かは分かりませんが、今日帰宅しましたらブロンさんに確認してみますので、よろしければ明日もこちらに顔を出していただいても構いませんか?」
「もちろんだ! 楽しみにしているぞ、トーヤ」
思いがけずお礼ができる機会を得られ、トーヤは笑顔でダインたちを見送った。
しかし、販売が開始されてからというもの、制作者らしき人物が商業ギルドに姿を見せることはなく、噂話は徐々に最高品質のポーションにだけ注がれるようになっていった。
そんな噂話の推移を鑑定カウンターから見聞きしていたトーヤは、今日も変わらず鑑定業務をこなしていた。
「ねえねえ! 聞いた、トーヤ!」
「こら、ミリカ。まずは鑑定品を提出しないか」
「けっ! 噂に踊らされてんじゃねぇぞ」
「お久しぶりです、トーヤさん」
昼を少し回り、鑑定カウンターが落ち着いてきた頃、トーヤとゆかりのある冒険者パーティの「瞬光」が姿を見せた。
「皆さん、お久しぶりです。それではミリカさん、鑑定品をお願いいたします」
「これだよ! それよりもトーヤ!」
トーヤの言葉にミリカが鑑定品をカウンターに置いたのだが、彼女は即座に別の話題を口にする。
「ポーションの噂、聞いた!」
「全く、お前はまた仕事の邪魔を」
「あはは。構いませんよ、ダインさん。今はお客さんもいませんし、少しくらいなら」
顔を手で覆いながらダインが呆れたように口にしたが、トーヤは苦笑しながら問題ないと答えた。
「……本当にすまないな」
「ったく。面倒なら断れっての」
「トーヤさんが怒られないか心配なんですね、ヴァッシュさんは」
「あぁん? んなわけあるか!」
クスクスと笑いながらリタがそう口にすると、ヴァッシュは彼女を睨みつけながら声を荒らげた。
「いやはや、前から思っておりましたが、リタさんは本当に瞬光に馴染みましたね」
「ありがとうございます、トーヤさん」
瞬光は元々、ダイン、ヴァッシュ、ミリカの三人パーティだった。
以前にジェンナが瞬光へ指名依頼を出した時、リタは臨時でパーティに加入していたのだ。
それからしばらくして正式に加入となったのだが、あとから加入したとは思えないくらいにヴァッシュのことをいじっている。
それがトーヤには驚きではあったが、少しだがリタの人となりを知っていることもあり、とても嬉しく感じてしまう。
「もう! 今は私がトーヤと話をしているの! それで、トーヤは噂話を聞いてどう思った?」
最初は噂話を聞いたか、という内容だったミリカの話は、いつの間にか聞いた前提となっている。
瞬光になら本当のことを伝えてもいいと思っているトーヤだが、それをジェンナはきっと許さないだろうと思い、苦笑しながら誤魔化すことにした。
「どうと言われましても、世の中にはそのような方もいらっしゃるんだなと思うくらいですかね」
「そうなの?」
「はい。何しろ私は商業ギルドの専属鑑定士ですからね。ポーションに馴染みのある皆さんとは、噂の捉え方が異なるんじゃないでしょうか」
魔獣と対峙することの多い冒険者は、常日頃からポーションを携行している。
それは命のやり取りをするためであり、リスク管理を行う上でポーションの有無は非常に重要となってくるからだ。
一方でトーヤは基本的に都市の外に出ることはなく、常に安全な場所にいるわけで、ポーションの必要性を強く感じてはいないのだ。
「だから言っただろう。トーヤと俺たちでは、立場が違うのだとな」
「一緒に行動することも多かったですから、ミリカさんも気になってしまったんですよね」
呆れたようにダインが呟くと、ミリカを庇うようにしてリタが口を開いた。
そんなリタの言葉を聞いたトーヤも、何かあれば瞬光を頼っていたこともあり、ミリカが自分を気に掛けてくれていることが少しだけ嬉しかった。
「気に掛けてくれて、ありがとうございます、ミリカさん」
そこでトーヤがお礼を口にすると、ミリカは笑いながら頬を掻く。
「え、えへへ~」
恥ずかしそうに笑ったミリカを見て、トーヤは一つの提案を口にする。
「そうだ! 皆さん、次のお休みはいつになりますか?」
「休みか? ……今の感じであれば、明後日か、その次だろうか」
「実は私、以前にこちらで専属鑑定士をしていたブロンさんの家にお邪魔させていただいているのですが、ブロンさんの許可が下りましたら、王都への護衛をしてくれたお礼もかねて、食事会をいたしませんか?」
トーヤは前々から、瞬光にお礼をしたいと考えていた。
それは王都への護衛依頼を受けてくれただけではなく、以前から何度も助けてもらっているからだ。
ブロンから許可が下りればという条件付きだが、そんなトーヤの提案にダインたちは顔を見合わせる。
「お礼などは不要だぞ?」
「そうだよー! 私たちは依頼を受けて、ちゃんと報酬も貰っているんだからねー!」
「……だがまあ、トーヤが作る飯は美味いからな」
「私もまた、トーヤさんの手料理を食べてみたいです」
ダインとミリカからはお礼は不要だと言われたが、ヴァッシュとリタからはトーヤの手料理をまた食べたいという意見が飛び出した。
「それを言うなら、俺もトーヤの手料理は食べたいな」
「私も、私もー! だって、絶品だもんねー!」
最終的に全員が食事会に賛成となり、トーヤはホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます。絶品かは分かりませんが、今日帰宅しましたらブロンさんに確認してみますので、よろしければ明日もこちらに顔を出していただいても構いませんか?」
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思いがけずお礼ができる機会を得られ、トーヤは笑顔でダインたちを見送った。
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