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第186話:トーヤ、噂を耳にする
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トーヤがポーションを作成してから五日後。
「――なんだよ、あのポーションは!」
「――今までのポーションは低品質だったってことか?」
「――違うわよ! あのポーションがすごすぎるのよ!」
鑑定カウンターでいつも通り仕事をこなしていたトーヤの耳に、冒険者たちの噂話が届いていた。
「なんだかすごいポーションが出てきたみたいね」
「そうみたいですね」
「ラディス様がラクセーナに来たのも、トーヤ君をスカウトするだけじゃなかったのね」
普段は仕事中に雑談をすることが少ないフェリだが、今回に限ってはラディスが絡んでいると思っているので、思わず口を開いてしまう。
「私のスカウトがついでだったようで、本当に良かったです」
「そうだよね! 本腰を入れてスカウトされたら、私たちじゃあ引き止められないもんね」
「え? 私はラクセーナを離れるつもりはありませんよ?」
ラクセーナでの仕事ぶりを目の当たりにしているフェリは、トーヤならより忙しい職場でも問題なく働けると思っている。
むしろ、その方がよりトーヤが輝くのではないかと考えているくらいだ。
だからこそ、トーヤのことを思えば王都の商業ギルドに行く方がいいのではないかと思えてならない。
「トーヤ君はそれでもいいの?」
「もちろんです。むしろ、ラクセーナ商業ギルド以外で働きたいと思いませんよ」
以前にも同じようなことをフェリに伝えていたはずなのだが、どうしても王都とラクセーナでは待遇が変わってしまう。
そもそも、ラクセーナよりも発展している王都へ移動したいという職員は大勢いる。
それは他の支部もそうであり、ラクセーナもそうだ。
だからこそフェリは心配になってしまうし、声を掛けてしまう。
そして、フェリが心配しているのはトーヤのことだけではなかった。
「それに、こちらにはアグリ君もいますからね。親友を置いて、どこかへ行くつもりもありませんよ」
「……ありがとう、トーヤ君」
トーヤの友達であり、フェリの弟でもあるアグリは、以前に同年代の子供たちからいじめを受けていた。
そのせいもあり、家に引きこもることが多く、外に出ても子供らしく遊ぶということをしてこなかった。
しかし、そんなアグリを変えてくれたのがトーヤだった。
フェリはトーヤのおかげで、今のアグリがいると思っている。
家にいても笑顔が増え、いじめていた子供たちと仲直りして友達となり、商業ギルドで一緒に働くこともできている。
今の状況を、トーヤと出会う前に想像できただろうか。
「トーヤ君がいなかったら、今の私たちはなかったと思う。恩返し、させてちょうだいね」
「恩返しだなんて、私は当たり前のことをしていただけですよ」
弟思いの微笑みを浮かべながらフェリがそう口にすると、トーヤも笑みを返しながらそう答えた。
「あーあ。私にも噂の人みたいなすごい才能があったら、トーヤ君に恩返しできるんだけどなー」
話も一区切りということなのか、フェリは再び最高品質のポーションについて口にした。
「私は特にポーションを必要としていませんよ?」
「そうだけど……でも、そうだよね。トーヤ君に恩返しするなら、私ももっと計算を早くできるようにしなきゃだね!」
「うーん、本当に恩返しとかは必要ないんですがね」
苦笑しながら頬を掻くと、このタイミングで鑑定カウンターに顔見知りが訪れる。
「トーヤ君!」
「お久しぶりですね、ミラさん」
声を掛けてきたのは、最初に最高品質のポーションを購入してくれたミラだった。
「本日は鑑定ですか? それとも、買取りまでですか?」
「買取りまでよ! それと……えっと……なんか、ごめんね?」
買取りだと口にしたミラだったが、最後の方は小声となり、急に謝罪されてしまい困惑する。
しかし、すぐに最高品質のポーションのことだと気づいたトーヤは、何を言うでもなく首を横に振る。
「お気になさらず。何事もありませんでしたからね」
「……ありがとう」
最後はお礼を口にしたミラから鑑定品を預かったトーヤは、いつも通りに仕事をこなし、買取り金額を彼女に手渡した。
「また利用するね! ここも、なんでも屋も!」
「いつもご贔屓にありがとうございます、ミラさん」
こうしてトーヤは、噂が一段落するまでの間はおとなしく、鑑定カウンター業務に勤しむのだった。
「――なんだよ、あのポーションは!」
「――今までのポーションは低品質だったってことか?」
「――違うわよ! あのポーションがすごすぎるのよ!」
鑑定カウンターでいつも通り仕事をこなしていたトーヤの耳に、冒険者たちの噂話が届いていた。
「なんだかすごいポーションが出てきたみたいね」
「そうみたいですね」
「ラディス様がラクセーナに来たのも、トーヤ君をスカウトするだけじゃなかったのね」
普段は仕事中に雑談をすることが少ないフェリだが、今回に限ってはラディスが絡んでいると思っているので、思わず口を開いてしまう。
「私のスカウトがついでだったようで、本当に良かったです」
「そうだよね! 本腰を入れてスカウトされたら、私たちじゃあ引き止められないもんね」
「え? 私はラクセーナを離れるつもりはありませんよ?」
ラクセーナでの仕事ぶりを目の当たりにしているフェリは、トーヤならより忙しい職場でも問題なく働けると思っている。
むしろ、その方がよりトーヤが輝くのではないかと考えているくらいだ。
だからこそ、トーヤのことを思えば王都の商業ギルドに行く方がいいのではないかと思えてならない。
「トーヤ君はそれでもいいの?」
「もちろんです。むしろ、ラクセーナ商業ギルド以外で働きたいと思いませんよ」
以前にも同じようなことをフェリに伝えていたはずなのだが、どうしても王都とラクセーナでは待遇が変わってしまう。
そもそも、ラクセーナよりも発展している王都へ移動したいという職員は大勢いる。
それは他の支部もそうであり、ラクセーナもそうだ。
だからこそフェリは心配になってしまうし、声を掛けてしまう。
そして、フェリが心配しているのはトーヤのことだけではなかった。
「それに、こちらにはアグリ君もいますからね。親友を置いて、どこかへ行くつもりもありませんよ」
「……ありがとう、トーヤ君」
トーヤの友達であり、フェリの弟でもあるアグリは、以前に同年代の子供たちからいじめを受けていた。
そのせいもあり、家に引きこもることが多く、外に出ても子供らしく遊ぶということをしてこなかった。
しかし、そんなアグリを変えてくれたのがトーヤだった。
フェリはトーヤのおかげで、今のアグリがいると思っている。
家にいても笑顔が増え、いじめていた子供たちと仲直りして友達となり、商業ギルドで一緒に働くこともできている。
今の状況を、トーヤと出会う前に想像できただろうか。
「トーヤ君がいなかったら、今の私たちはなかったと思う。恩返し、させてちょうだいね」
「恩返しだなんて、私は当たり前のことをしていただけですよ」
弟思いの微笑みを浮かべながらフェリがそう口にすると、トーヤも笑みを返しながらそう答えた。
「あーあ。私にも噂の人みたいなすごい才能があったら、トーヤ君に恩返しできるんだけどなー」
話も一区切りということなのか、フェリは再び最高品質のポーションについて口にした。
「私は特にポーションを必要としていませんよ?」
「そうだけど……でも、そうだよね。トーヤ君に恩返しするなら、私ももっと計算を早くできるようにしなきゃだね!」
「うーん、本当に恩返しとかは必要ないんですがね」
苦笑しながら頬を掻くと、このタイミングで鑑定カウンターに顔見知りが訪れる。
「トーヤ君!」
「お久しぶりですね、ミラさん」
声を掛けてきたのは、最初に最高品質のポーションを購入してくれたミラだった。
「本日は鑑定ですか? それとも、買取りまでですか?」
「買取りまでよ! それと……えっと……なんか、ごめんね?」
買取りだと口にしたミラだったが、最後の方は小声となり、急に謝罪されてしまい困惑する。
しかし、すぐに最高品質のポーションのことだと気づいたトーヤは、何を言うでもなく首を横に振る。
「お気になさらず。何事もありませんでしたからね」
「……ありがとう」
最後はお礼を口にしたミラから鑑定品を預かったトーヤは、いつも通りに仕事をこなし、買取り金額を彼女に手渡した。
「また利用するね! ここも、なんでも屋も!」
「いつもご贔屓にありがとうございます、ミラさん」
こうしてトーヤは、噂が一段落するまでの間はおとなしく、鑑定カウンター業務に勤しむのだった。
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