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第183話:トーヤ、調合を見せる
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「それじゃあ、ブロンも来てくれたことだし、先にポーションの調合をしてもらいましょうか」
架空の名前を決めるのはあとでもいいとなり、ジェンナはポーション調合の準備を始める。
中央のテーブルに必要な道具を並べていきながら、ブロンに問題はないかも確認していく。
ジェンナが用意してくれた調合器具はどれも高級なもので、ブロンからも問題なしと答えが返ってきた。
「これだと、さらに品質の良いポーションができてしまわないかな、姉さん?」
「既に最高品質なのに、どうやってさらに上の品質ができてしまうのかしら?」
「うーん……まあ、言われてみるとその通りか」
何やらラディスが不穏なことを口にしていたが、ジェンナはあり得ないと一蹴する。
一方でトーヤはブロンと調合素材の確認をしており、二人のやり取りは耳に入っていなかった。
「……問題ありません、ブロンさん」
「そうか。それはよかったよ」
素材の確認に使ったのは、トーヤのスキルである聖者の瞳だ。
ブロンが持ってきてくれた素材は全てが丁寧に処理されており、品質も高い。
聖者の瞳は確かに調合中の作業について、適切なタイミングを教えてくれるが、素材の準備に関しては下処理から必要になってくる。
その全てをやってくれているのがブロンなのだから、トーヤだけで最高品質のポーションを作れているわけではないのだと、彼は強く思っていた。
「本当にありがとうございます、ブロンさん」
「いつもしていることだからね、気にする必要はないよ」
そう口にしたブロンは、自分の仕事は終わったと言わんばかりにソファへ腰掛けた。
「確認は終わったのかしら?」
「はい。何一つとして、問題ございません」
「うふふ。さすがはブロン、といったところかしら」
「買いかぶりですよ、ジェンナ様」
ジェンナに褒められたブロンは謙遜するが、トーヤも彼のことを尊敬している。
故に、ジェンナの言葉が本心であることも当然のように理解していた。
「それじゃあ、トーヤ。お願いできるかしら?」
「かしこまりました、ジェンナ様」
そして、ジェンナから声が掛かり、トーヤはやる気に満ちた表情で答えた。
素材の確認は済んでおり、調合器具の位置も問題ないとトーヤは一人頷く。
頭の中ではブロンに教えてもらったポーションの調合方法を復唱しながら、作業に入っていく。
「……なかなか手際がいいわね」
ジェンナはトゥイン村へ行った際、魔力欠乏症のレシピをトーヤに教えてもらいながら治療薬の調合を行っている。
調合に携わる者から見ても、トーヤの手際には無駄がなく、素晴らしいものだった。
「これなら、魔力欠乏症の治療薬を調合した時にも、手伝ってもらえばよかったわね」
「待って、姉さん。……魔力欠乏症の治療薬って、何?」
ポロリとこぼれたジェンナの発言を聞き逃すことなく、ラディスがグイッと顔を寄せた。
「今はトーヤの調合に集中しなさい、ラディス」
「僕としては魔力欠乏症の治療薬も同じくらい大事な話になるんだけど?」
「……はぁ。ポーションのことがひと段落したら、ちゃんと説明するわ」
「本当だね? 絶対だからね? 逃がさないからね?」
「分かったわよ!」
珍しくジェンナが押されている姿を横目に見ながら、トーヤは作業を進めていく。
魔力を込める作業も様になっており、これにはソファから見守っているブロンも頷いている。
大鍋いっぱいに調合が進んでいくと、ジェンナがまさかといった感じで口を開く。
「……ねえ、ブロン? もしかしてこれが、最高品質のポーションになるのかしら?」
「ほほほほ。その通りです、ジェンナ様」
「えぇっ!? いや、でも、この量だよ? さすがに一部は劣化して品質が落ちるとかじゃないのかい?」
「いいえ、ラディス様。トーヤが調合するポーションは、大鍋いっぱいで最高品質のポーションができてしまうのです」
調合に集中しているトーヤの邪魔をしてはいけないと、ブロンに多くの質問が飛ぶ。
それらの答えを聞いて、ジェンナとラディスは唖然としてしまう。
「そろそろ終盤です。見守っていただけますか?」
最後のブロンがそう伝えると、ジェンナもラディスも口を閉ざし、調合作業へ視線を戻した。
それから数分後――トーヤが調合するポーションが完成した。
「……ふぅ。完成いたしました」
そう口にしながらトーヤが振り返ると、そこには満足気に頷くブロンだけではなく、口を開けたまま驚きの表情で固まっているジェンナとラディスの姿があった。
「……あの、どうしましたか?」
いったい何に驚いているのか分からず、トーヤはコテンと首を横に倒す。
「……はは! 本当に規格外だね、トーヤ君は!」
「……まさか、ここでもまだ驚かされるとはね。わたくしもまだまだだわ」
あまりの驚きにラディスは大いに笑い、ジェンナは苦笑しながらそう口にする。
そんな二人を見たトーヤは、やはり何に驚かれているのか理解できず、首を横に倒したまま困惑していた。
架空の名前を決めるのはあとでもいいとなり、ジェンナはポーション調合の準備を始める。
中央のテーブルに必要な道具を並べていきながら、ブロンに問題はないかも確認していく。
ジェンナが用意してくれた調合器具はどれも高級なもので、ブロンからも問題なしと答えが返ってきた。
「これだと、さらに品質の良いポーションができてしまわないかな、姉さん?」
「既に最高品質なのに、どうやってさらに上の品質ができてしまうのかしら?」
「うーん……まあ、言われてみるとその通りか」
何やらラディスが不穏なことを口にしていたが、ジェンナはあり得ないと一蹴する。
一方でトーヤはブロンと調合素材の確認をしており、二人のやり取りは耳に入っていなかった。
「……問題ありません、ブロンさん」
「そうか。それはよかったよ」
素材の確認に使ったのは、トーヤのスキルである聖者の瞳だ。
ブロンが持ってきてくれた素材は全てが丁寧に処理されており、品質も高い。
聖者の瞳は確かに調合中の作業について、適切なタイミングを教えてくれるが、素材の準備に関しては下処理から必要になってくる。
その全てをやってくれているのがブロンなのだから、トーヤだけで最高品質のポーションを作れているわけではないのだと、彼は強く思っていた。
「本当にありがとうございます、ブロンさん」
「いつもしていることだからね、気にする必要はないよ」
そう口にしたブロンは、自分の仕事は終わったと言わんばかりにソファへ腰掛けた。
「確認は終わったのかしら?」
「はい。何一つとして、問題ございません」
「うふふ。さすがはブロン、といったところかしら」
「買いかぶりですよ、ジェンナ様」
ジェンナに褒められたブロンは謙遜するが、トーヤも彼のことを尊敬している。
故に、ジェンナの言葉が本心であることも当然のように理解していた。
「それじゃあ、トーヤ。お願いできるかしら?」
「かしこまりました、ジェンナ様」
そして、ジェンナから声が掛かり、トーヤはやる気に満ちた表情で答えた。
素材の確認は済んでおり、調合器具の位置も問題ないとトーヤは一人頷く。
頭の中ではブロンに教えてもらったポーションの調合方法を復唱しながら、作業に入っていく。
「……なかなか手際がいいわね」
ジェンナはトゥイン村へ行った際、魔力欠乏症のレシピをトーヤに教えてもらいながら治療薬の調合を行っている。
調合に携わる者から見ても、トーヤの手際には無駄がなく、素晴らしいものだった。
「これなら、魔力欠乏症の治療薬を調合した時にも、手伝ってもらえばよかったわね」
「待って、姉さん。……魔力欠乏症の治療薬って、何?」
ポロリとこぼれたジェンナの発言を聞き逃すことなく、ラディスがグイッと顔を寄せた。
「今はトーヤの調合に集中しなさい、ラディス」
「僕としては魔力欠乏症の治療薬も同じくらい大事な話になるんだけど?」
「……はぁ。ポーションのことがひと段落したら、ちゃんと説明するわ」
「本当だね? 絶対だからね? 逃がさないからね?」
「分かったわよ!」
珍しくジェンナが押されている姿を横目に見ながら、トーヤは作業を進めていく。
魔力を込める作業も様になっており、これにはソファから見守っているブロンも頷いている。
大鍋いっぱいに調合が進んでいくと、ジェンナがまさかといった感じで口を開く。
「……ねえ、ブロン? もしかしてこれが、最高品質のポーションになるのかしら?」
「ほほほほ。その通りです、ジェンナ様」
「えぇっ!? いや、でも、この量だよ? さすがに一部は劣化して品質が落ちるとかじゃないのかい?」
「いいえ、ラディス様。トーヤが調合するポーションは、大鍋いっぱいで最高品質のポーションができてしまうのです」
調合に集中しているトーヤの邪魔をしてはいけないと、ブロンに多くの質問が飛ぶ。
それらの答えを聞いて、ジェンナとラディスは唖然としてしまう。
「そろそろ終盤です。見守っていただけますか?」
最後のブロンがそう伝えると、ジェンナもラディスも口を閉ざし、調合作業へ視線を戻した。
それから数分後――トーヤが調合するポーションが完成した。
「……ふぅ。完成いたしました」
そう口にしながらトーヤが振り返ると、そこには満足気に頷くブロンだけではなく、口を開けたまま驚きの表情で固まっているジェンナとラディスの姿があった。
「……あの、どうしましたか?」
いったい何に驚いているのか分からず、トーヤはコテンと首を横に倒す。
「……はは! 本当に規格外だね、トーヤ君は!」
「……まさか、ここでもまだ驚かされるとはね。わたくしもまだまだだわ」
あまりの驚きにラディスは大いに笑い、ジェンナは苦笑しながらそう口にする。
そんな二人を見たトーヤは、やはり何に驚かれているのか理解できず、首を横に倒したまま困惑していた。
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