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第180話:トーヤ、人知れず慌てる
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「ブロンさん。ポーションの調合ですが、どういたしましょうか?」
トーヤが調合をする時は、ブロンが調合をする時だ。
それも練習という名目で行っていたので、トーヤ自らがいつだと言える立場にはない。
「ふむ……それなら、お店の営業後とかでいいんじゃないかい?」
「あら。それじゃあ、今日の夜でも問題はないのかしら?」
「い、いきなり過ぎませんか、ジェンナ様?」
ブロンの言葉を受けてジェンナが問い返すと、トーヤが驚きのまま口を開いた。
「あら、そうかしら? 先ほども言ったけれど、商業ギルドでも今日には噂が飛び交うと思うの。それなら、今日の方がいいかと思ったのよ」
「なるほど。時間を掛けると噂が独り歩きしてしまいそうですし、その方がよいかもしれませんね」
「お二人とも同じ意見なのですね。そういうことでしたら、私も問題ございません」
ブロンの説明を聞いて、トーヤも納得して頷いた。
「ありがとう、二人とも。それならブロン、なんでも屋の営業が終わったら、申し訳ないのだけれど商業ギルドに足を運んでくれるかしら?」
「かしこまりました。トーヤと外で食事をする約束をしていた、という形を取りましょうかな」
「トーヤはそのまま残って、わたくしの部屋で調合をしてもらうわ」
「かしこまりました」
こうしてポーション調合の話もまとまり、トーヤとブロンはジェンナの部屋をあとにした。
一階に戻るとすでに多くの職員が出勤しており、二階から現れたトーヤとブロンに驚いている者もいた。
「えっ! トーヤ君、ブロンさんと一緒にギルマスの部屋にいたの?」
「おはようございます、フェリ先輩。そうなんです。準備、変わりますね」
「それじゃあのう、トーヤ」
驚いていたフェリに挨拶をしたトーヤは、そそくさと準備を変わり、ブロンと別れた。
詳しい話は今すぐにできないと分かっているので、ジェンナと何を話していたのか、そのような話題は出さない。
むしろ、出してしまうとフェリに迷惑が掛かるとトーヤも分かっており、彼女もそれがなんとなく分かっているから、何も聞かずに別の準備を始める。
そんな理解ある先輩に、トーヤは内心で感謝していた。
こうして準備を終えたトーヤたちは、朝礼も終えて商業ギルドの営業時間になると――入り口からたくさんの人が一気に押し寄せてきた。
「な、何事なの!?」
声を上げたのはリリアーナだった。
ジェンナの予想した通り、彼ら彼女らは最高品質のポーションについて話を聞き、そのことで商業ギルドに朝から押し寄せてきていたのだ。
商品を取り扱う担当の職員は何が起きたのか理解できておらず、「少々お待ちください!」と何度も口にしている。
(ま、まさか朝一からこのような状況になるとは! ど、どうしたらいいのでしょうか!)
事情を知っている一人として、トーヤは何かするべきか、それとも見守るべきか、迷ってしまう。
「皆さん、落ち着きなさい!」
するとそこへ、二階からジェンナの声が響き渡った。
「皆さんが口にしているのは、最高品質のポーションについてかしら?」
「そ、そうだ! 低価格でそんなものを販売している奴がいるって聞いたぞ! どうなっているんだ!」
ジェンナの言葉に一人の男性が声を上げると、彼女は表情を変えることなく説明していく。
「その最高品質のポーションだけれど、あれはわたくしがとある場所にお試しで販売をしてもらうようお願いしていたのよ」
「そんな話、聞いてないぞ!」
「当然よ。まだお試しだもの。出所も分からないそのような商品、あなた方のお店に並べられるとでも?」
声を上げていた男性は、大商会の御曹司だった。
彼はグッと下唇を噛み、それ以上は何も言い返さない。他の者たちも同じだ。
トーヤはもっと非難の声が上がると思っていたのだが、そうはならずホッとした半面、どうしてなのか気になってしまう。
「大商会は信用商売。中小商会は実益が大事。なかなか冒険をするような商品を取り扱ってくれないでしょう?」
ジェンナが肩を竦めながらそう口にすると、今度こそ押し寄せた人たちの勢いが削がれてしまった。
「……とはいえ、しっかりと効果も確認できたし、あなた方が求めている商品であることも理解したわ」
続けてジェンナがそう口にすると、多くの者が顔を上げて彼女を見る。
「最高品質のポーションよ。当然だけれど、数を用意することは難しい。だから、ある程度の数を確保できるまではこれ以上表に出すことはないから、その点は安心してちょうだい」
「そ、それなら、数の確保ができたらどうするんだ?」
絞り出すようにして、大商会の御曹司が口を開いた。
「商業ギルドで販売委託の競売を行うわ。そこで競り落とした商会に、ギルドから商品を卸すこととします」
ジェンナがそう締めくくると、押し寄せた者たちが顔を見合わせ、一人、また一人と商業ギルドをあとにしていく。
「……作成者が誰なのかは?」
「それをわたくしが教えると思って?」
最後まで残っていた大商会の御曹司がそう問い掛け、ジェンナは挑戦的な笑みを浮かべながら答えると、彼は舌打ちをしてから商業ギルドをあとにした。
トーヤが調合をする時は、ブロンが調合をする時だ。
それも練習という名目で行っていたので、トーヤ自らがいつだと言える立場にはない。
「ふむ……それなら、お店の営業後とかでいいんじゃないかい?」
「あら。それじゃあ、今日の夜でも問題はないのかしら?」
「い、いきなり過ぎませんか、ジェンナ様?」
ブロンの言葉を受けてジェンナが問い返すと、トーヤが驚きのまま口を開いた。
「あら、そうかしら? 先ほども言ったけれど、商業ギルドでも今日には噂が飛び交うと思うの。それなら、今日の方がいいかと思ったのよ」
「なるほど。時間を掛けると噂が独り歩きしてしまいそうですし、その方がよいかもしれませんね」
「お二人とも同じ意見なのですね。そういうことでしたら、私も問題ございません」
ブロンの説明を聞いて、トーヤも納得して頷いた。
「ありがとう、二人とも。それならブロン、なんでも屋の営業が終わったら、申し訳ないのだけれど商業ギルドに足を運んでくれるかしら?」
「かしこまりました。トーヤと外で食事をする約束をしていた、という形を取りましょうかな」
「トーヤはそのまま残って、わたくしの部屋で調合をしてもらうわ」
「かしこまりました」
こうしてポーション調合の話もまとまり、トーヤとブロンはジェンナの部屋をあとにした。
一階に戻るとすでに多くの職員が出勤しており、二階から現れたトーヤとブロンに驚いている者もいた。
「えっ! トーヤ君、ブロンさんと一緒にギルマスの部屋にいたの?」
「おはようございます、フェリ先輩。そうなんです。準備、変わりますね」
「それじゃあのう、トーヤ」
驚いていたフェリに挨拶をしたトーヤは、そそくさと準備を変わり、ブロンと別れた。
詳しい話は今すぐにできないと分かっているので、ジェンナと何を話していたのか、そのような話題は出さない。
むしろ、出してしまうとフェリに迷惑が掛かるとトーヤも分かっており、彼女もそれがなんとなく分かっているから、何も聞かずに別の準備を始める。
そんな理解ある先輩に、トーヤは内心で感謝していた。
こうして準備を終えたトーヤたちは、朝礼も終えて商業ギルドの営業時間になると――入り口からたくさんの人が一気に押し寄せてきた。
「な、何事なの!?」
声を上げたのはリリアーナだった。
ジェンナの予想した通り、彼ら彼女らは最高品質のポーションについて話を聞き、そのことで商業ギルドに朝から押し寄せてきていたのだ。
商品を取り扱う担当の職員は何が起きたのか理解できておらず、「少々お待ちください!」と何度も口にしている。
(ま、まさか朝一からこのような状況になるとは! ど、どうしたらいいのでしょうか!)
事情を知っている一人として、トーヤは何かするべきか、それとも見守るべきか、迷ってしまう。
「皆さん、落ち着きなさい!」
するとそこへ、二階からジェンナの声が響き渡った。
「皆さんが口にしているのは、最高品質のポーションについてかしら?」
「そ、そうだ! 低価格でそんなものを販売している奴がいるって聞いたぞ! どうなっているんだ!」
ジェンナの言葉に一人の男性が声を上げると、彼女は表情を変えることなく説明していく。
「その最高品質のポーションだけれど、あれはわたくしがとある場所にお試しで販売をしてもらうようお願いしていたのよ」
「そんな話、聞いてないぞ!」
「当然よ。まだお試しだもの。出所も分からないそのような商品、あなた方のお店に並べられるとでも?」
声を上げていた男性は、大商会の御曹司だった。
彼はグッと下唇を噛み、それ以上は何も言い返さない。他の者たちも同じだ。
トーヤはもっと非難の声が上がると思っていたのだが、そうはならずホッとした半面、どうしてなのか気になってしまう。
「大商会は信用商売。中小商会は実益が大事。なかなか冒険をするような商品を取り扱ってくれないでしょう?」
ジェンナが肩を竦めながらそう口にすると、今度こそ押し寄せた人たちの勢いが削がれてしまった。
「……とはいえ、しっかりと効果も確認できたし、あなた方が求めている商品であることも理解したわ」
続けてジェンナがそう口にすると、多くの者が顔を上げて彼女を見る。
「最高品質のポーションよ。当然だけれど、数を用意することは難しい。だから、ある程度の数を確保できるまではこれ以上表に出すことはないから、その点は安心してちょうだい」
「そ、それなら、数の確保ができたらどうするんだ?」
絞り出すようにして、大商会の御曹司が口を開いた。
「商業ギルドで販売委託の競売を行うわ。そこで競り落とした商会に、ギルドから商品を卸すこととします」
ジェンナがそう締めくくると、押し寄せた者たちが顔を見合わせ、一人、また一人と商業ギルドをあとにしていく。
「……作成者が誰なのかは?」
「それをわたくしが教えると思って?」
最後まで残っていた大商会の御曹司がそう問い掛け、ジェンナは挑戦的な笑みを浮かべながら答えると、彼は舌打ちをしてから商業ギルドをあとにした。
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