ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
73 / 118
連載

第173話:トーヤ、拍子抜けをする

しおりを挟む
「さて、トーヤ君。僕は君を王都の商業ギルドに引き抜きたい。給料もここでの倍は約束するし、希望があればそれ以上だって出すことができる」

 どうしてそこまでの評価をしてくれているのか、トーヤには正直分からない。
 素直に評価してもらえるのはありがたい気持ちもあるが、最初にはっきりさせておくべきことがあるため宣言しておく。

「最初にはっきり申し上げておきますが、私はラクセーナを離れるつもりはありません」
「おや? そうなのかい?」
「はい。ラクセーナの街を、ここに暮らす人々を、私はとても気に入っているのです」

 正直な気持ちを伝えたうえで、それでも気になっていることは聞いてみることにする。

「ですが……ラディス様はどうして私のことを知っているのですか?」

 王都に足を運んだ時にも顔を合わせたことはなく、ラディスが王都の商業ギルドのギルドマスターであることを、トーヤは今日初めて知った。
 そんな状況であるにもかかわらず、ラディスが自分のことを知っているということにトーヤは疑問を禁じ得ない。

「王都には僕の情報網が至る所に敷かれているからね。魔導具開発局にもある、とだけ言っておこうかな」
「なるほど。そこから私がアリアナさんとレミさんを引き抜いたと、勘違いされたということですか」
「……勘違い?」

 トーヤの言い回しが気になったのか、ラディスは疑問形で問い返してきた。

「はい。アリアナさんとレミさんは、魔導具開発局の局長に冷遇されておりました。さらに、私が持ち込んだ魔導具の鑑定と修理を依頼している祭、それを奪い取ろうとしてきたのです」
「そのようだね」
「話が早くて助かります。その時にアリアナさんとレミさんは局長の元を離れると決めたので、私がお二人をお誘いしたのです」
「ラクセーナに誘ったんだよね?」
「はい。フリーになったお二人を、私がお誘いいたしました」

 魔導具開発局の副局長と助手をではなく、あくまでもフリーになった人材を誘ったのだと、トーヤは語る。

「ふむ……確かに、トーヤ君の言う通りか」
「ですので、有望株を引き抜かれたということではなく、魔導具開発局が自ら有望株を手放すような行動をしてしまっただけの話なのです」

 トーヤは事実と告げているだけなので、特段話を持っているわけではない。
 そして、そのことをラディスも自らの情報網で知っているからこそ、これ以上の勧誘は無理だと判断した。

「……本当に、優秀な少年だ。だからこそ、引き抜けないのは残念でならないな」
「トーヤのことを甘く見ないでちょうだいね?」
「少年だからあるいはと思ったけど……君、本当に少年かい? 僕らと同じエルフじゃないのかい?」
「正真正銘の少年ですし、普通に人間ですよ?」
「うーん、まあそうなんだよね。いや、本当に不思議だよ」

 楽しそうに笑いながら、ラディスはそう口にした。

「仕方がない、諦めるか」

 肩を竦めながらラディスがそう口したことで、トーヤは思わず瞬きを繰り返す。

「……も、もうよろしいのですか?」
「ん? なんだい、もう少し粘ってほしかったのかい?」
「い、いえ、そういうわけではないのですが……」

 相手は王都の商業ギルドのギルドマスターだ。
 引き抜きとなれば、あらゆる手段を用いて引き抜こうとするだろうと考えていた。
 しかし、蓋を開けてみればあっさりと引き下がっており、正直拍子抜けを起こしていた。

「まあ、僕も魔導具開発局の元副局長と助手が自らの意志で辞めたことを知っていたからね。そこを出されてしまったら、何も言えなくなってしまうのさ」
「それなのに引き抜きを?」
「僕は優秀な人材が大好きだからね! こちらが提示できる最大級の評価を引っ提げて声を掛けるだけなら、それはタダだからね!」

 自信満々にそう言い切ったラディスは、引き抜きに失敗したにもかかわらず、とても満足気な表情を浮かべている。

「……えっと、ジェンナ様?」
「断られると分かっているのに王都を離れてしまうのだから、同じ職場の人間からすれば迷惑極まりない話よね」
「いやいや、可能性があるのなら足を運ぶべきだと僕は思うんだよね!」
「実際に断られているのだから、無駄足ではなくて?」

 ジェンナとラディスのやり取りを見ていると、同じ髪色と顔立ちのせいもあり、本当に姉弟なんだなと思えてならない。
 そして、ジェンナが気楽にやり取りをしている姿がとても珍しく、トーヤはとても新鮮な気持ちで彼女を見ていた。

「さーて! それじゃあ引き抜きには失敗したわけだし、別の要件を相談してもいいかな?」
「まだ何かあるの?」
「ここで開発されるだろう魔導具を、王都の商業ギルドでも取り扱わせてほしいんだよね」

 そう口にしたラディスは、ジェンナではなくトーヤに向けてウインクをして見せた。
しおりを挟む
感想 290

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

無属性魔法って地味ですか? 「派手さがない」と見捨てられた少年は最果ての領地で自由に暮らす

鈴木竜一
ファンタジー
《本作のコミカライズ企画が進行中! 詳細はもうしばらくお待ちください!》  社畜リーマンの俺は、歩道橋から転げ落ちて意識を失い、気がつくとアインレット家の末っ子でロイスという少年に転生していた。アルヴァロ王国魔法兵団の幹部を務めてきた名門アインレット家――だが、それも過去の栄光。今は爵位剥奪寸前まで落ちぶれてしまっていた。そんなアインレット家だが、兄が炎属性の、姉が水属性の優れた魔法使いになれる資質を持っていることが発覚し、両親は大喜び。これで再興できると喜ぶのだが、末っ子の俺は無属性魔法という地味で見栄えのしない属性であると診断されてしまい、その結果、父は政略結婚を画策し、俺の人生を自身の野望のために利用しようと目論む。  このまま利用され続けてたまるか、と思う俺は父のあてがった婚約者と信頼関係を築き、さらにそれまで見向きもしなかった自分の持つ無属性魔法を極め、父を言いくるめて辺境の地を領主として任命してもらうことに。そして、大陸の片隅にある辺境領地で、俺は万能な無属性魔法の力を駆使し、気ままな領地運営に挑む。――意気投合した、可愛い婚約者と一緒に。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◇2025年02月18日に1巻発売! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
辺境の町バラムに暮らす青年マルク。 子どもの頃から繰り返し見る夢の影響で、自分が日本(地球)から転生したことを知る。 マルクは日本にいた時、カフェを経営していたが、同業者からの嫌がらせ、客からの理不尽なクレーム、従業員の裏切りで店は閉店に追い込まれた。 その後、悲嘆に暮れた彼は酒浸りになり、階段を踏み外して命を落とした。 当時の記憶が復活した結果、マルクは今度こそ店を経営して成功することを誓う。 そんな彼が思いついたのが焼肉屋だった。 マルクは冒険者をして資金を集めて、念願の店をオープンする。 焼肉をする文化がないため、その斬新さから店は繁盛していった。 やがて、物珍しさに惹かれた美食家エルフや凄腕冒険者が店を訪れる。 HOTランキング1位になることができました! 皆さま、ありがとうございます。 他社の投稿サイトにも掲載しています。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。