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第172話:トーヤ、呼び出される
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それからというもの、トーヤだけではなく職員全員が、ジェンナとラディスがどんな話をしているのか、それを気にしてチラチラと二階を見ながらの仕事となった。
「……今日はどうしちゃったの、トーヤ君?」
すると、素材の鑑定に顔を見せていた顔なじみの冒険者から声を掛けられた。
「あ、失礼いたしました。ミラさん」
ブロンのなんでも屋で顔を合わせてからというもの、気軽に話ができるようになったミラである。
自分が仕事に集中していなかったと自覚があったトーヤは、すぐに謝罪を口にして鑑定を再開する。
「いや、私はいいんだけど……何かあったの?」
顔に出ていたのは自分が悪いものの、ラディスはジェンナに用があってラクセーナを訪れている。
外部の人間にそのことを伝えるわけにもいかず、トーヤは苦笑しながら首を横に振る。
「なんでもありませんよ、ミラさん」
「そう? 何か悩みがあったら、誰かに相談するんだよ? もちろん、私でもいいからね!」
「ありがとうございます」
ラクセーナでの顔見知りも増えてきており、ミラのように心配してくれる人も増えてきた。
やはりラクセーナという街は、そしてここに暮らす人たちは、とても優しく、自分ではない誰かのことを考えてくれる人なのだと改めて実感する。
ラディスが本当に自分を引き抜きに来ていたのだとしても、断固として断ろうとトーヤは心に決めていた。
「トーヤ」
するとそこへ、二階の踊り場に立っていたジェンナから声が掛かった。
顔を上げたのはトーヤだけではなく、商業ギルドにいる全職員が同時に顔を上げていた。
「ちょっと来てくれるかしら?」
「……かしこまりました」
小さく息を吐きながら、トーヤはミラに鑑定結果を伝えると、そのまま買取りまで手続きを済ませていく。
「……ほ、本当に大丈夫なんだよね、トーヤ君?」
「大丈夫です。それでは、少しばかり失礼いたしますね」
どこか決意に満ちた表情でトーヤがそう口にすると、その横にはフェリが立っていた。
「変わるね、トーヤ君」
「ありがとうございます、フェリ先輩」
今度は全職員の視線がジェンナからトーヤへと集まり、力強く頷いている。
傍から見れば何が起きているのかと疑問に思う者も多いだろう。事実、商業ギルドを訪れていた者のほとんどが顔を見合わせ、首をかしげている。
「いってきます」
そう口にしたトーヤは、ミラの横を通り二階へと上がっていく。
「ごめんなさいね、トーヤ」
「とんでもございません。ですが……皆さんが噂していたのですが、引き抜きなのでしょうか?」
前置きなしにトーヤが質問をすると、ジェンナは面倒くさそうな表情で一つ頷く。
「その通りよ。もちろん断っているのだけれど、ラディスが一度トーヤと直接話をさせてほしいと聞かなくてね」
ジェンナが断ってくれていると聞き、トーヤは嬉しくなってしまう。
それは彼女が、ラクセーナの商業ギルドにトーヤが必要だと思ってくれている証拠だからだ。
「……ありがとうございます、ジェンナ様」
「もちろん、トーヤも断ってくれるわよね?」
「当然です。私はジェンナ様に拾っていただきましたし、まだまだ恩を返せているとは思っておりませんから」
トーヤがラクセーナに残りたいと思っているのは、言葉にした理由だけではない。
ラクセーナが好きだから、この街に暮らす人たちが好きだから、ここを離れたくないと思っている。
ラディスがどのように話を切り出してくるのかは分からない。もしかすると、アリアナとレミを魔導具開発局からラクセーナに連れてきたことを指摘されるかもしれない。
それでもトーヤは、可能な限り足掻いて見せようと心に決めていた。
「来てくれたわよ、ラディス」
「失礼いたします」
ジェンナが面倒そうに声を掛けながら部屋に入っていくと、そのあとに続いてトーヤも中に入る。
「さっきぶりだね、トーヤ君」
そこにはソファに腰掛けた、ジェンナ様と似た雰囲気を湛えたラディスが笑顔で出迎えてくれた。
「先ほどはご挨拶もできず失礼いたしました。仰る通り、私はラクセーナ商業ギルドの専属鑑定士をしております、トーヤと申します」
挨拶をしながら頭を下げ、顔を上げながらラディスを見るトーヤ。
するとラディスは自信たっぷりな様子で微笑んでおり、これからどんな話をされるのかとトーヤは身構えてしまう。
「言っておくけど、トーヤは引き抜きを断ると言ってくれているわ。あなたが話をしても無駄よ?」
「それは分からないじゃないか。こっちは魔導具開発局の有望株を引き抜かれて、てんやわんやしているんだからね?」
ジェンナとラディスのやり取りを聞いたトーヤは、内心でドキッとしてしまう。
(やはり、アリアナさんとレミさんのことを指摘してきましたか)
アリアナとレミは自らの意志で王都を飛び出し、ラクセーナに来てくれている。
故に、引き抜きとは少しばかり話が違ってきているはずだとトーヤは考えており、頭の中でどのように言い争おうかと考えていく。
(さて、勝負といきましょうか!)
舌戦上等だと言わんばかりのやる気に満ち溢れながら、トーヤはラディスを見据えていた。
「……今日はどうしちゃったの、トーヤ君?」
すると、素材の鑑定に顔を見せていた顔なじみの冒険者から声を掛けられた。
「あ、失礼いたしました。ミラさん」
ブロンのなんでも屋で顔を合わせてからというもの、気軽に話ができるようになったミラである。
自分が仕事に集中していなかったと自覚があったトーヤは、すぐに謝罪を口にして鑑定を再開する。
「いや、私はいいんだけど……何かあったの?」
顔に出ていたのは自分が悪いものの、ラディスはジェンナに用があってラクセーナを訪れている。
外部の人間にそのことを伝えるわけにもいかず、トーヤは苦笑しながら首を横に振る。
「なんでもありませんよ、ミラさん」
「そう? 何か悩みがあったら、誰かに相談するんだよ? もちろん、私でもいいからね!」
「ありがとうございます」
ラクセーナでの顔見知りも増えてきており、ミラのように心配してくれる人も増えてきた。
やはりラクセーナという街は、そしてここに暮らす人たちは、とても優しく、自分ではない誰かのことを考えてくれる人なのだと改めて実感する。
ラディスが本当に自分を引き抜きに来ていたのだとしても、断固として断ろうとトーヤは心に決めていた。
「トーヤ」
するとそこへ、二階の踊り場に立っていたジェンナから声が掛かった。
顔を上げたのはトーヤだけではなく、商業ギルドにいる全職員が同時に顔を上げていた。
「ちょっと来てくれるかしら?」
「……かしこまりました」
小さく息を吐きながら、トーヤはミラに鑑定結果を伝えると、そのまま買取りまで手続きを済ませていく。
「……ほ、本当に大丈夫なんだよね、トーヤ君?」
「大丈夫です。それでは、少しばかり失礼いたしますね」
どこか決意に満ちた表情でトーヤがそう口にすると、その横にはフェリが立っていた。
「変わるね、トーヤ君」
「ありがとうございます、フェリ先輩」
今度は全職員の視線がジェンナからトーヤへと集まり、力強く頷いている。
傍から見れば何が起きているのかと疑問に思う者も多いだろう。事実、商業ギルドを訪れていた者のほとんどが顔を見合わせ、首をかしげている。
「いってきます」
そう口にしたトーヤは、ミラの横を通り二階へと上がっていく。
「ごめんなさいね、トーヤ」
「とんでもございません。ですが……皆さんが噂していたのですが、引き抜きなのでしょうか?」
前置きなしにトーヤが質問をすると、ジェンナは面倒くさそうな表情で一つ頷く。
「その通りよ。もちろん断っているのだけれど、ラディスが一度トーヤと直接話をさせてほしいと聞かなくてね」
ジェンナが断ってくれていると聞き、トーヤは嬉しくなってしまう。
それは彼女が、ラクセーナの商業ギルドにトーヤが必要だと思ってくれている証拠だからだ。
「……ありがとうございます、ジェンナ様」
「もちろん、トーヤも断ってくれるわよね?」
「当然です。私はジェンナ様に拾っていただきましたし、まだまだ恩を返せているとは思っておりませんから」
トーヤがラクセーナに残りたいと思っているのは、言葉にした理由だけではない。
ラクセーナが好きだから、この街に暮らす人たちが好きだから、ここを離れたくないと思っている。
ラディスがどのように話を切り出してくるのかは分からない。もしかすると、アリアナとレミを魔導具開発局からラクセーナに連れてきたことを指摘されるかもしれない。
それでもトーヤは、可能な限り足掻いて見せようと心に決めていた。
「来てくれたわよ、ラディス」
「失礼いたします」
ジェンナが面倒そうに声を掛けながら部屋に入っていくと、そのあとに続いてトーヤも中に入る。
「さっきぶりだね、トーヤ君」
そこにはソファに腰掛けた、ジェンナ様と似た雰囲気を湛えたラディスが笑顔で出迎えてくれた。
「先ほどはご挨拶もできず失礼いたしました。仰る通り、私はラクセーナ商業ギルドの専属鑑定士をしております、トーヤと申します」
挨拶をしながら頭を下げ、顔を上げながらラディスを見るトーヤ。
するとラディスは自信たっぷりな様子で微笑んでおり、これからどんな話をされるのかとトーヤは身構えてしまう。
「言っておくけど、トーヤは引き抜きを断ると言ってくれているわ。あなたが話をしても無駄よ?」
「それは分からないじゃないか。こっちは魔導具開発局の有望株を引き抜かれて、てんやわんやしているんだからね?」
ジェンナとラディスのやり取りを聞いたトーヤは、内心でドキッとしてしまう。
(やはり、アリアナさんとレミさんのことを指摘してきましたか)
アリアナとレミは自らの意志で王都を飛び出し、ラクセーナに来てくれている。
故に、引き抜きとは少しばかり話が違ってきているはずだとトーヤは考えており、頭の中でどのように言い争おうかと考えていく。
(さて、勝負といきましょうか!)
舌戦上等だと言わんばかりのやる気に満ち溢れながら、トーヤはラディスを見据えていた。
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