上 下
70 / 100
連載

第170話:トーヤ、魔導具のことを考える

しおりを挟む
「今日は本当に助かったよ、トーヤ少年!」
「トーヤさん、ありがとうございました!」

 冒険者ギルドでの試し撃ちを終えたトーヤたちは、商業ギルドへ戻るところだった。
 その道中でアリアナとレミからお礼を言われ、トーヤは首を横に振る。

「何を仰いますか。私も冒険者ギルドに訓練場があることを知りませんでしたし、お礼ならリリアーナさんに仰ってください」
「もちろん、リリアーナ君にもお礼を伝えるが、ここまで一緒に来てくれたのはトーヤ少年だからな!」
「そうですよ! 正直……私たちだけでは、ギルドマスター様にお目通りできたかどうか」

 レミの言葉も当然で、普通であればいきなり組織のトップに会わせてくれと言われても、顔見知りであれ許されることではない。
 事前にアポを取り、相手の指定した時間に合わせて向かうのが礼儀だろう。
 今回のトーヤは間のやり取りを完全にすっ飛ばしてギグリオに面会をお願いし、彼もそれを受けてくれた。
 これも全てトーヤだからというのが大きく、彼がいなければ訓練場を使わせてもらえなかったと、アリアナもレミも強く感じていた。

「そういうことでしたら、ありがたくお礼を受け取らさせていただきます」
「そうだ! トーヤ少年、何か作ってほしい魔導具はないかな?」
「……作ってほしい魔導具、ですか?」

 アリアナから突然の提案をされ、トーヤは首を傾げてしまう。

「申し訳ございません。私、魔導具にどのようなものがあるのか分からなくて、特定の何かが欲しいとは言えないのです」
「あー、言い方が悪かったね。こういう魔導具があったら嬉しいな、というものはあるかな?」

 アリアナの提案を聞いて、トーヤは既存の魔導具のことを聞かれていると思っていた。
 実際には違い、アリアナはトーヤが『あったら嬉しいな』と思えるものはないかを聞いてくれていた。

「あったら嬉しいな? ……ま、まさか、私の要望を聞いて、魔導具を作ってくれるのですか!?」
「その通りだよ、トーヤ少年!」
「できないこともありますが、アリアナさんなら大抵のものであれば叶えてくれると思いますよ」

 驚きの声を上げたトーヤを見て、レミもアリアナの腕に太鼓判を押す。

「ハードルを上げてくれるじゃないか、レミちゃん! だけどまあ、その通りだけどね! あはははは!」
「それはとても嬉しい提案です、アリアナさん! では、私が欲しいと思えるものをリストアップしておきます!」
「け、結構ありそうですね」

 トーヤの反応を見たレミが苦笑いしながらそう口にする。
 実際にトーヤは、日本にいた頃はスフィアイズよりも楽な生活を送っていた。
 自動車や電車だけではなく、エレベーターやエスカレーターなどもそれにあたるだろう。
 移動手段だけではなく、家具や家電といったものでも文明の利器を感じられるかもしれない。
 それを考えると、トーヤの頭の中には『あれば便利』な道具は山ほどあり、もしかするとアリアナは言ってはいけない一言を口にしたのかもしれなかった。

「トーヤ少年のことだ。それらはきっと、民の生活が豊かになるものなんだろう?」
「もちろんです! あぁ、今から楽しみでなりませんね!」
「ほ、本当に大丈夫なんですか、アリアナさん?」

 アリアナの頭の中は新しい魔導具を作り出せるかもしれない、という思いでいっぱいになっている。
 故に、レミが心配そうに声お掛けていることに気づいておらず、トーヤと一緒になって想像を膨らませていた。

「レミちゃん! まずはこの魔導具を急いで完成させるんだ! そして、トーヤ少年が持ってくるリストをもとに、新しい魔導具を作り出すわよ!」
「ほ、本当に大丈夫なんですか、アリアナさん?」
「もちろんだとも! さあ、急ごう! トーヤ少年もだぞ! あはははは!」

 楽しそうに笑いながら歩いていくアリアナの背中を追い掛けるレミ。
 そんな二人を見つめながら、トーヤの頭の中は日本で便利だと感じた道具を思い浮かべていた。

「……あぁ、楽しみですねぇ。何を作ってもらいましょうか。炊事洗濯が楽になるものが最初ですかね? それとも移動手段でしょうか?」

 ぶつぶつと呟きながら後ろを歩いているトーヤを見て、レミは少しだけ不安を募らせるのだった。
しおりを挟む
感想 274

あなたにおすすめの小説

修道院送り

章槻雅希
ファンタジー
 第二王子とその取り巻きを篭絡したヘシカ。第二王子は彼女との真実の愛のために婚約者に婚約破棄を言い渡す。結果、第二王子は王位継承権を剥奪され幽閉、取り巻きは蟄居となった。そして、ヘシカは修道院に送られることになる。  『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。