ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎

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第161話:トーヤ、上司に確認を取る

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「――アグリ君に会計処理を任せる?」

 翌日、トーヤは出勤して早々にリリアーナへ声を掛けると、会計書類の件を説明した。

「はい。私が見る限り、計算という部分だけであれば、そろばんを使ったアグリ君より早くできる人はいないと思われます」
「そろばんねぇ……それって、アグリ君がよくパチパチさせている道具よね?」

 リリアーナの質問に、トーヤは一つ頷いた。

「あれを使うと、誰でも早くなるのかしら? だったらアグリ君に任せる必要はないんじゃないの?」
「慣れてくれば誰でも早くなるとは思います。ですが、慣れるまでが大変ですね」
「そっかー。……でもさ、トーヤ君」

 一度言葉を切ったリリアーナは、一つの心配事を口にする。

「会計処理に限らず、何かを任せるってことは、その分の責任も圧し掛かるってことなのよ? それを子供のアグリ君に任せちゃっていいのかな? ……まあ、トーヤ君も子供なんだけど」

 リリアーナの中ではすでに、トーヤは仕事のできる一人の同僚として見れるようになっている。
 しかし、アグリは違う。リリアーナの中での彼はまだ子供であり、新人という立ち位置だった。

「その点に関してはフェリ先輩もサポートしてくれると約束してくれました。もちろん、私もサポートいたします」
「そうはそうなんだけど……ってか、私がやればよくないかな、会計処理?」
「リリアーナさんはサブマスターとして、他にも多くの仕事を抱えているではないですか! 私の事情で仕事を増やすわけにはまいりませんよ!」

 トーヤとしては任せられると思っていても、それが上司であるリリアーナに伝わっていなければ意味がない。
 どうしたものかと考えていると、二人の元へ別の声が聞こえてきた。

「それなら、アグリの計算を見てもらったらいいのではなくて?」
「ジェンナ様!?」
「ギ、ギルマス!?」

 二人のやり取りが聞こえてきたのか、二階から下りてきたジェンナがそのように提案してきた。

「だけど、ギルマス? 計算ができるからと言って、責任を子供に押し付けるのはちょっと……」
「あら? 誰が責任を押し付けると言ったのかしら?」
「……どういうことでしょうか?」

 困惑しきりのリリアーナに向けて、ジェンナはニコリを笑みを返す。

「仕事は仕事としてやってもらえばいいの。その中でミスがあれば、上司であるあなたが責任を取ればいいのよ」
「……まあ、私はそういう立場なので全然いいんですけど、そのミスがアグリ君にとってつらくならないかが心配なんですよ」
「ですがリリアーナさん。失敗は誰にだってつきものです。むしろ、失敗しない人の方が、私は心配になってしまいます」

 トーヤも今でこそ仕事を順調にこなしているが、前世ではそうではなかった。
 何度もミスを犯し、そのたびに説教をされ、指導をされ、どうにかこうにか一人前になったのだ。
 不注意からのミスはいけないが、頑張った結果にミスがあったのであれば、そこは周りがフォローを行い、次につなげていけばいいのだと、トーヤは考えている。

「トーヤ君の言っていることも分かるんだけどね……アグリ君、ミスをしても耐えられそうかしら?」

『耐えられそう』というのは、心の問題だ。
 大人でも一度のミスで大きく落ち込む人は多い。それが子供であればなおさらではないかと、リリアーナは考えていた。

「そこを支えるのが私であり、フェリ先輩なのです」
「誰だって一人では耐えることなんて難しいわよね」
「それはまあ、そうですけど……でも、分かりました! まずはアグリ君の計算能力を確かめてみて、それから私も彼としっかり話してから決めることにします! ギルマスもトーヤ君も、それでいいですか?」

 リリアーナもアグリに任せたくないというわけではない。
 単純に彼のことが心配だから、何度も確認を取っていたのだ。

「リリアーナさんがそう言うのであれば、私もそれに従います」
「わたくしも問題ないわ」

 そして、リリアーナのそんな気持ちがトーヤやジェンナにもしっかりと伝わっていたからこそ、二人はすぐに頷くことができた。

「その代わり、アグリに任せられないと判断したのなら、あなたが任せられる相手をきちんと指名するのよ?」
「もちろんです! 何せ私はギルマスを支える、サブマスターですからね!」
「うふふ。頼りにしているわよ、サブマスター」
「はい!」

 この話し合いからお昼を過ぎたタイミングで、アグリがリリアーナに呼び出されると、二人で別室へと移動した。
 本当であればトーヤも同席したかったが、それではアグリの本当の実力が確認できないかもしれないと、リリアーナから許可が下りなかった。

「……私がお任せしたのですが、大丈夫でしょうか、アグリ君は?」

 トーヤがそんなことを口にすると、隣で仕事をしていたフェリが答えてくれる。

「大丈夫よ、トーヤ君」
「そ、そうでしょうか?」
「アグリね、トーヤ君に頼ってもらえて、とっても嬉しかったみたいなの。それで、昨日も遅くまでそろばんの練習をしてたんだ」
「……なんと、そうだったのですね」

 アグリが今でも努力を欠かしていないことを知り、トーヤは何故か嬉しくなってしまった。

「自分でもトーヤの役に立てるんだ! やるぞー! ってやる気も見せていたし、トーヤ君もアグリのことを信じてあげてちょうだい」
「……そうですね。いやはや、私としたことが取り乱してしまいましたね」

 フェリの言葉を受けて、トーヤは頬を掻きながら苦笑する。
 それからのトーヤは、仕事中もチラチラとアグリとリリアーナが入っていった別室を横目に見ながらも、過度な心配をすることはなく仕事をこなしていく。
 アグリとリリアーナは終業間近まで部屋にこもっており、出てきた時の表情は対照的だった。

「ふんふふ~ん」
「……はぁぁ~」

 上機嫌なリリアーナと、ドッと疲れた感じのアグリ。
 すると、トーヤとフェリが見ていることに気づいたリリアーナが満面の笑顔でサムズアップをして見せた。
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