ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎

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第159話:トーヤ、会計処理を託す

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 小部屋をあとにしたトーヤは、会計処理を誰に託すべきかで悩んでいた。
 一番任せやすいのはフェリだ。
 もともと会計処理をしていたのがフェリだからというのも理由の一つだが、そもそもの仕事量が多く、当時も膨れ上がった仕事の一つとして会計処理をしていた。
 今はだいぶ仕事量も少なくなってきているのだが、それでもフェリの仕事を増やすのは気が引けてしまい、トーヤの中で彼女に任せるという選択肢は排除された。

(そうなると……彼しかいないですよね)

 他の職員に任せることももちろんできるが、トーヤの中では会計処理を胸を張って任せられる人物は、一人しか浮かんでいなかった。

「アグリ君、少しよろしいでしょうか?」

 トーヤは仕事とプライベートをしっかりと分けている。故に、仕事中は業務外のことで友達のアグリに声を掛けることはほとんどなく、そしてトーヤは業務で誰かを頼るということがほとんどない。
 だからだろう、業務中にトーヤに声を掛けられたアグリは、一瞬だが驚きの表情を浮かべていた。

「……ど、どうしたんだ?」
「実はお願いしたいことがありまして」
「トーヤが! 俺に! 仕事のお願いだって!?」
「そうですけど……どうしてそこまで驚くのですか?」

 トーヤとしては当然の選択だったのだが、アグリからすれば驚愕の事実だ。
 それは周りの職員も同意見だったのか、声には出さないまでも驚きの表情でトーヤとアグリへ顔を向けている。

「そりゃお前、驚くだろ」
「そうですかね? それはそうと、お願いごとなのですが、いいですか?」

 周りの反応など気にしないトーヤは、業務中ということもあり話をさっさと進めようと言葉を続ける。

「……お、おう」
「実は魔導具の開発を手伝いことになりまして、ジェンナ様に会計処理を他の職員に託すよう言われたのです」
「そうなのか? まあ、トーヤなら当然っちゃ当然か」
「そこで、会計処理をアグリ君に託したいと思っております」
「いいぜ、トーヤの助けになるならなんだって……って、はああああぁぁ~!?」
「どわあっ!?」

 アグリもまさか自分が会計処理を任されるとは思っておらず、思わず大きな声を上げてしまった。

「……ど、どうしたのですか、アグリ君?」
「お前! そんな大事な仕事、俺にできるわけがないだろうが!」
「そうですか? アグリ君には私が計算を教えておりますし、実力は十分に把握していて、任せられると判断したんですが?」
「ぐぬっ!? ……そ、そこまで言われたら、なんか否定し難いじゃないかよ!」
「いや、そんな全力で否定しないでくださいよ」

 トーヤとアグリのやり取りは周りにも聞こえており、そこへアグリを心配したフェリが声を掛ける。

「ねえ、トーヤ君?」
「ね、姉ちゃん! 聞いてくれよ、トーヤが!」
「聞こえていたわよ。本当にアグリで大丈夫なの? 商業ギルドではまだまだ新人だし、任せるのは難しいんじゃないかな?」

 フェリもアグリと同意見のようで、心配そうな声でそう意見を伝えてくれた。

「確かに新人ではあります。ですが、私は他の皆様の計算能力についてあまり把握できておりません。ですが、アグリ君に関しては別です」
「トーヤ君が教えてくれたんだもんね」
「はい。暗算ではまだ難しいかもしれませんが、そろばんを使えば五桁や六桁の計算でも、問題なく対応できると私は考えております」

 トーヤはアグリにできることを十分に理解していた。
 だからこそ、そろばんを使えば、そして六桁までの計算であればという条件付きで、対応できると答えた。

「なるほどね……アグリはどうなの?」
「……え、どうって、何が?」
「トーヤ君が今言ったことよ。そろばんがあれば、六桁までの計算はできるの?」
「…………ま、まあ、六桁なら全然できるけど」
「「「「えぇっ!?」」」」

 フェリの質問にアグリが答えると、今度は他の職員から驚きの声が上がった。
 その時点でトーヤは、声を上げた職員は六桁の計算が難しく、会計処理を任せられないなと考えてしまう。

「フェリ先輩にお任せすることも考えたのですが、そうすると仕事が増えすぎてしまうかなと……もともとが無理をされていたようですし」
「そういうわけじゃないんだけど、計算はあまり得意ではなかったかな」

 トーヤが商業ギルドに就職した当初は強がっていたフェリも、今となっては本音を口にしてくれている。
 本当は計算が得意ではなかったと答えたフェリを見て、アグリは心を決めた。

「……分かった。俺、やってみる!」
「受けてくれますか、アグリ君!」
「おう! トーヤに頼られるなんて、これから先ないかもしれないからな! それに……」

 嬉しそうに答えたアグリは、最後に言葉を切ると横目にフェリを見た。

「……ん? どうしたの、アグリ?」
「なんでもない! でもさ、トーヤ! 分からないことは聞いてもいいか?」
「もちろんです! 慣れるまでは全力でサポートさせていただきます!」

 こうしてトーヤは、会計処理をアグリに任せることにした。
 そして、アグリが何を思って横目でフェリを見ていたのかも理解していた。

(もともと計算を教えてほしいと言ってきたのも、フェリ先輩を助けるためでしたものね)

 フェリの助けになるならという思いが、アグリに決意させたに違いない。
 そう思いながらも、トーヤはあえて口にはしなかった。
 それはアグリが恥ずかしがるからでもあり、いずれは自分の口でフェリに伝えるだろうと思ったからだ。

(アグリ君も頑張るわけですし、私も魔導具開発のお手伝いを頑張らなければですね!)

 こうしてトーヤも改めて心の中で近い、鑑定カウンターへ向かったのだった。
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