57 / 100
連載
第157話:トーヤ、ブロンと話し合う
しおりを挟む
「それじゃあブロンさん、トーヤ君、ありがとう! それと、押しかけてすみませんでした」
なんでも屋を出たミラは、お礼と共に申し訳なさそうに頭を下げた。
「構わんよ。だが、まだ数を満足に提供できないから、誰かに教えるということはしないでほしい」
「そうなんですか? ……うん、分かりました!」
ブロンのお願いを聞いたミラは、少しだけ考え込んだ後、納得したように返事をした。
「これからもご贔屓にしてくださいね」
「もちろん! それじゃあ、また!」
ブロンとトーヤが笑顔で見送ってくれたこともあり、ミラも笑顔になって去っていった。
その後、閉店してから店内の片づけをしつつ、トーヤはブロンに声を掛ける。
「お疲れさまでした、ブロンさん」
「お疲れさま。トーヤも帰ってきて早々にすまなかったね」
「私は構いませんよ。それよりも、ポーションです。……どうしましょうか?」
トーヤの「どうしましょうか?」というのは、今後も最高品質の下級ポーションを売りに出すか、どうかについてだ。
これからトーヤがポーション作りを手伝うことはできるが、それが看板商品になってしまうと、それを買い求めて多くの冒険者が殺到するかもしれない。
しかし、そうなると誰が最高品質の下級ポーションを作ったのかと探りを入れる人が出てくるかもしれない。
そうなるといずれ、ブロンではなくトーヤが作っているとバレてしまい、そこから叡智の瞳について知られる可能性だって出てくるのだ。
「うーん、悩みどころだね」
「販売するのは控えましょうか?」
「それが一番なんだが、すでにミラのお気に入りになってしまっているからね。販売していないとなると、彼女が悲しみそうなんだ」
「そうですよねぇ」
トーヤのことを考えれば販売しないという一択になるのだが、ミラのことを考えるとそうはいかない。
ミラがブロンとの約束を破って言いふらすということはしないと信じたいが、今はまだ信頼関係を築けているとは言い難い。
だからこそトーヤが作ったことも黙っていた。
「……どちらにしても、トーヤにはポーション作りを練習しておいてもらおうかな」
「え? でも、売り物として出せないのなら、ブロンさんが作った方がいいんじゃないですか?」
まさか自分が作っていいと言われるとは思わず、トーヤは聞き返してしまった。
「トーヤの場合はアイテムボックスがあるからね。大量に作っても保存しておくにも問題はないさ」
「それはそうですが、お店の在庫は大丈夫なのですか?」
「今のところは大丈夫さ。それに、足りなくなればその時に作ればいい話さ」
柔和な笑みを浮かべながらブロンがそう口にすると、トーヤはしばらく思案する。
「……不安かい?」
「……はい」
「気にする必要はないさ。トーヤのことだ、いずれはスキルのことも気づかれてしまうだろうし、その時に少しでも有利な立場を得られる状況を作っておきたいからね」
「あー……そうですね。私もなんというか、ずっと隠し通せる気はしないです」
苦笑いしながらトーヤが答えると、ブロンは軽く首を横に振った。
「ふふ、そういう意味じゃないさ。トーヤの意思とは関係なく、周りが気づいてしまうという話さ」
「私の意思とは関係なく……それは、結構マズい状況なのでは?」
思わずトーヤが問い掛けると、ブロンは片づけの手を止め、真剣な面持ちで頷く。
「その通りだ。だから、トーヤの立場をより有利にするため、今のうちにいろいろなことができるようにしておくのさ」
これからのことも考えてと言われ、トーヤはしばらく考えてから、一つ頷いた。
「……分かりました」
「それに、大手を振って販売できるとなれば、トーヤのポーションに在庫があった方がいいさ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
そこまで話をすると、ブロンはいつもの柔和な表情に変わり、そのままトーヤの頭を撫でた。
「そうと決まれば、次の休みにはポーション作りをもう一度やってみようか」
「はい! ……あ、でも、アグリ君が仲間外れにするなと言ってくるかも? 今日も、なんでも屋に遊びに行ったらトーヤがいるんだ! と喜んでいましたから」
苦笑しながらトーヤが口にすると、ブロンは笑みを浮かべる。
「ほほ、そうか。アグリの前でポーションを作るのはマズいから、その時はいつも通りに過ごそうか」
「それもそうですね」
アグリを自分の都合に巻き込むわけにはいかないと、トーヤも納得して頷いた。
それからは片づけを再開し、それが終わると夕食を取り、体を洗ってからベッドへ向かう。
今日は考えることも多かったからか、ベッドへ横になったトーヤはすぐに深い眠りについた。
なんでも屋を出たミラは、お礼と共に申し訳なさそうに頭を下げた。
「構わんよ。だが、まだ数を満足に提供できないから、誰かに教えるということはしないでほしい」
「そうなんですか? ……うん、分かりました!」
ブロンのお願いを聞いたミラは、少しだけ考え込んだ後、納得したように返事をした。
「これからもご贔屓にしてくださいね」
「もちろん! それじゃあ、また!」
ブロンとトーヤが笑顔で見送ってくれたこともあり、ミラも笑顔になって去っていった。
その後、閉店してから店内の片づけをしつつ、トーヤはブロンに声を掛ける。
「お疲れさまでした、ブロンさん」
「お疲れさま。トーヤも帰ってきて早々にすまなかったね」
「私は構いませんよ。それよりも、ポーションです。……どうしましょうか?」
トーヤの「どうしましょうか?」というのは、今後も最高品質の下級ポーションを売りに出すか、どうかについてだ。
これからトーヤがポーション作りを手伝うことはできるが、それが看板商品になってしまうと、それを買い求めて多くの冒険者が殺到するかもしれない。
しかし、そうなると誰が最高品質の下級ポーションを作ったのかと探りを入れる人が出てくるかもしれない。
そうなるといずれ、ブロンではなくトーヤが作っているとバレてしまい、そこから叡智の瞳について知られる可能性だって出てくるのだ。
「うーん、悩みどころだね」
「販売するのは控えましょうか?」
「それが一番なんだが、すでにミラのお気に入りになってしまっているからね。販売していないとなると、彼女が悲しみそうなんだ」
「そうですよねぇ」
トーヤのことを考えれば販売しないという一択になるのだが、ミラのことを考えるとそうはいかない。
ミラがブロンとの約束を破って言いふらすということはしないと信じたいが、今はまだ信頼関係を築けているとは言い難い。
だからこそトーヤが作ったことも黙っていた。
「……どちらにしても、トーヤにはポーション作りを練習しておいてもらおうかな」
「え? でも、売り物として出せないのなら、ブロンさんが作った方がいいんじゃないですか?」
まさか自分が作っていいと言われるとは思わず、トーヤは聞き返してしまった。
「トーヤの場合はアイテムボックスがあるからね。大量に作っても保存しておくにも問題はないさ」
「それはそうですが、お店の在庫は大丈夫なのですか?」
「今のところは大丈夫さ。それに、足りなくなればその時に作ればいい話さ」
柔和な笑みを浮かべながらブロンがそう口にすると、トーヤはしばらく思案する。
「……不安かい?」
「……はい」
「気にする必要はないさ。トーヤのことだ、いずれはスキルのことも気づかれてしまうだろうし、その時に少しでも有利な立場を得られる状況を作っておきたいからね」
「あー……そうですね。私もなんというか、ずっと隠し通せる気はしないです」
苦笑いしながらトーヤが答えると、ブロンは軽く首を横に振った。
「ふふ、そういう意味じゃないさ。トーヤの意思とは関係なく、周りが気づいてしまうという話さ」
「私の意思とは関係なく……それは、結構マズい状況なのでは?」
思わずトーヤが問い掛けると、ブロンは片づけの手を止め、真剣な面持ちで頷く。
「その通りだ。だから、トーヤの立場をより有利にするため、今のうちにいろいろなことができるようにしておくのさ」
これからのことも考えてと言われ、トーヤはしばらく考えてから、一つ頷いた。
「……分かりました」
「それに、大手を振って販売できるとなれば、トーヤのポーションに在庫があった方がいいさ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
そこまで話をすると、ブロンはいつもの柔和な表情に変わり、そのままトーヤの頭を撫でた。
「そうと決まれば、次の休みにはポーション作りをもう一度やってみようか」
「はい! ……あ、でも、アグリ君が仲間外れにするなと言ってくるかも? 今日も、なんでも屋に遊びに行ったらトーヤがいるんだ! と喜んでいましたから」
苦笑しながらトーヤが口にすると、ブロンは笑みを浮かべる。
「ほほ、そうか。アグリの前でポーションを作るのはマズいから、その時はいつも通りに過ごそうか」
「それもそうですね」
アグリを自分の都合に巻き込むわけにはいかないと、トーヤも納得して頷いた。
それからは片づけを再開し、それが終わると夕食を取り、体を洗ってからベッドへ向かう。
今日は考えることも多かったからか、ベッドへ横になったトーヤはすぐに深い眠りについた。
792
お気に入りに追加
5,383
あなたにおすすめの小説
修道院送り
章槻雅希
ファンタジー
第二王子とその取り巻きを篭絡したヘシカ。第二王子は彼女との真実の愛のために婚約者に婚約破棄を言い渡す。結果、第二王子は王位継承権を剥奪され幽閉、取り巻きは蟄居となった。そして、ヘシカは修道院に送られることになる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。