ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎

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第154話:トーヤ、魔力を見る

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「トーヤも鑑定スキルを使う時、魔力を使っているだろう?」

 トーヤが困惑しているのを察したブロンが聞いてみると、彼はさらにコテンと首を横に倒してしまう。

「鑑定スキルを使う時ですか? ……うーん、魔力を使うと意識したことがなかったので、実際のところは分からないのですよ」
「そうなのかい? うーん、それは困ったねぇ」

 そこまで話をしたブロンは、とあることを思いついてポンと手を叩いた。

「……ならば、こうしよう。今回はわしが調合を行うから、トーヤは聖者の瞳で魔力の流れを見てみなさい」
「魔力の流れをですか?」
「うむ。そのあとにわしが魔力の使い方を教えてあげよう。トーヤは可視化して見ることができるから、覚えるのもきっと早いはずさ」
「それならいいのですが……分かりました、やってみます!」

 できるという確証なないが、それでもブロンができると言ってくれたのだから、信じてみることにした。

「では、見ていてくれ」
「はい!」

 そう口にしたブロンは、沸騰した水にコンナの実と朝焼けの葉っぱを混ぜた材料を投入する。
 続けて、銀色のおたまを手に取ると、そこで口を開いた。

「これは魔力を通しやすいミスリルで作られたおたまだ。ここに魔力を注ぐから、しっかり見ておくんだよ」

 ブロンの言葉を受けて、トーヤは聖者の瞳を発動させながら頷く。

「……それじゃあ、始めるよ」
「はい」

 トーヤの返事を受けて、ブロンはミスリルのおたまに魔力を注ぎ込んでいく。

(……ブロンさんの魔力は、温かい白の光をしているのですね)

 可視化されたブロンの魔力を見つめながら、トーヤはそんなことを考えていた。
 すると、魔力を注がれたおたまが水の中に入れられると、自らもブロンと同じ白い光が淡く輝きだした。

「……すごい光景ですね」
「わしも一度でいいから、お目に掛かってみたいものだよ」
「あっ! し、失礼いたしました」
「いいや、構わんよ。トーヤの世界は、わしやその他の人よりもたくさんのものを見れるものだからね。誇りなさい」

 柔和な笑みを浮かべながらそう口にしたブロンは、視線を寸胴鍋に戻してゆっくりとかき混ぜていく。
 ブロンから流れていた白い光は、寸胴鍋の水の光を徐々に強く輝かせていく。
 淡く輝いていた水は、三〇分ほどが経つと、ブロンが帯びている光と同じ輝きを放つようになっていた。

「……これで完成だね」
「なんと! 素晴らしいですね、ブロンさん!」
「ほほほ。まあ、いつもやっていることだからね」

 トーヤが手放しに誉めると、ブロンは少しだけ恥ずかしそうにしながらそう答えた。

「いえいえ! 下級ポーションでも最高品質だと出ていますよ!」
「……な、なんだって?」
「……え?」

 聖者の瞳を発動させていたせいもあり、トーヤは出来上がったポーションをそのまま鑑定していた。
 その結果がウインドウに表示されており、その内容が先ほど口にした『最高品質』だったのだ。

「……はて、そのような調合をした覚えはないのだがねぇ?」
「そういわれましても……私の鑑定が間違えているのかも?」
「それはさすがにないだろうね。何せ聖者の瞳だ。下級ポーションの鑑定を間違えるはずがない」
「そうなのですか。でも、良い品質で出来上がるのは、いいことなのではないですか?」

 調合のことについては全くの素人であるトーヤは、何が起きたのかさっぱり分からない。むしろ、良い品質で出来上がったのだからいいのではないかと、安易に考えているくらいだ。

「そうすると、他のお店から苦情が来るんだよ」
「苦情ですか?」
「あぁ。品質によって決められた値段があるんだ。良い品質のものを格安で売ってしまうと、価格破壊につながってしまうからね」

 前世でもそういうことがあったなと、トーヤは思い出す。
 それは食べ物でも、自身の技術でもそうだ。安易に安売りしていては、同業者から睨まれてしまう。

「……え? となると、もしかしてこれは売れないのですか!?」
「いや、そういうことではないさ。だが、店頭に並べている他のポーションよりは高くしなければいけないかな」
「そうなのですね。……もしかして、私のせいでしょうか?」

 ブロンはいつも通りに作っていたはずだ。
 ならば他に違いがあるとすれば、それはトーヤがいたことしか思いつかない。
 自分のせいで本来の品質で作れなかったと考えると、トーヤは落ち込んでしまう。

「トーヤが落ち込むことはないだろう」
「ですが……」
「ポーションの在庫はまだあるんだ。それに、良い品質でできたのはいいことだよ?」
「そうかもしれませんが……」
「全く、トーヤは頑固だね」

 柔和な声でそう口にしたブロンは、優しくトーヤの頭を撫でた。

「……ブロンさん?」
「トーヤはもう少し、自分に自信を持った方がいいかもね」

 そう口にしながら、ブロンは用意していた瓶にポーションを注ぎ始めた。

「これはこれで、品質の良いポーションとして並べればいいだけさ。もしかすると、なんでも屋の名物商品になるかもしれないよ?」

 微笑みながらそう口にしてくれたブロンを見て、トーヤもなんとか笑みを浮かべることができた。

「……そうなるよう、私も頑張りますね!」
「頑張るのは、商業ギルドの仕事だろう?」
「お手伝いも全力です!」
「トーヤは本当に、仕事が好きなんだね。フェリちゃんの言う通りだよ」
「フェリ先輩が何か仰っていましたか?」

 ブロンは以前、トーヤが王都に行っている時に、代わりで商業ギルドの鑑定カウンターに立ってくれていた。
 その時にフェリから何か聞かされたのだと思い問い掛けてみたのだが、ブロンは微笑むだけで教えてくれない。

「ふふ、気にすることじゃないよ。さて、それじゃあこれを詰め終わったら、今日は休もうかね」
「……? 分かりました」

 ちょっとした疑問は残ったものの、トーヤはもう落ち込んではいなかった。
 自分にできることがあるかもしれないと思えば、そこを全力で頑張るだけだと思考を切り替えたからだ。
 こうしてトーヤは、初めての調合を終えたのだった。
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