ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎

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第150話:トーヤ、引っ越し準備を始める

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「寂しくなるねぇ。また泊まりたくなったら、おいでよ。食堂はいつでも利用できるからね!」

 トーヤが退室することを女将に伝えると、彼女は思いのほか寂しがってくれた。

「また伺います。それに、入れ替わりでご紹介もできてよかったです」

 退室手続きを行いながら、トーヤは女将にアリアナとレミを客として紹介していた。
 すると女将は二つ返事で引き受けてくれたのだ。

「いつ頃来てくれるとかは言っていたのかい?」
「昨日は商業ギルドに泊まっていたので、早ければ今日には来るかと……ふむ、このまま足を運んで、確認してきましょうかねぇ」

 退室手続きを終えたら、踵を返してなんでも屋に戻るつもりだったトーヤだが、いざ手続きを始めてみると、やることが多いなと感じていた。

「だけど、トーヤ君は帰ってきたばかりなんだろう? そこまで面倒を見なくてもいいんじゃないかい?」
「ですが、部屋を開けていただいたままというのは、ご迷惑になってしまいます! パパッと聞いてきますね!」
「あ! ちょっと、トーヤ君! ……いっちゃったよ」

 女将の制止を振り切り、トーヤは駆け足で商業ギルドへ向かった。
 勝手知ったる道を進んでいき、商業ギルドへ入っていくトーヤ。

「あれ? どうしたの、トーヤ君?」

 トーヤを見つけたフェリが真っ先に声を掛けてきた。

「実は、アリアナさんとレミさんに用がありまして、どちらにいらっしゃるか分かりますか?」
「トーヤ君と一緒に王都から来た人だよね? 今はギルマスの部屋にいるはずだよ」
「ありがとうございます。直接声を掛けてみますね」

 フェリに頭を下げたトーヤは、早足で二階へ向かう。
 そして、ジェンナの部屋の扉が開いているのを確認すると、その扉をノックしながら声を掛ける。

「失礼いたします、ジェンナ様」
「あら? どうしたのかしら、トーヤ?」

 フェリとまったく同じ反応をされたトーヤだったが、気にすることなく要件を口にする。

「実は私、宿を出ることになりまして。そこでアリアナさんとレミさんのことを女将に相談したところ、私が使っていた部屋をそのまま使ってもいいと仰ってくれたのです」
「なんだと! トーヤ少年、そこまでしてくれたのか!」
「もしかして、私たちのために部屋を出てくれたのですか?」

 アリアナとレミが心配の声を上げたため、トーヤは慌てて否定する。

「違いますよ、レミさん。実は生活の拠点を移すことになりまして、それで退室することになったのです」
「あら、そうだったの? だけれど、突然ね」

 トーヤが生活の拠点を移すというのは、昨日急遽で決まったことである。
 当然だが誰も知る術がなく、ジェンナも驚きのまま声を掛けてきた。

「昨日、ブロンさんから一緒に暮らさないかとご提案をいただいたのです。それを受けることにしました」
「なるほど、ブロンから。トーヤに任せられるなら、とても安心だわ」

 ジェンナの言葉の意図は、ブロンの体調面を口にしている。
 以前にブロンが体調を崩した時、トーヤやフェリ、アグリと協力して看病をしたことがあった。
 それ以来、一人暮らしのブロンを、ジェンナも内心では心配していたのだ。

「それで、部屋が空いたままだと女将さんのご迷惑になるかと思いまして、いつ頃移動できそうかを確認したいと思いまして」

 商業ギルドを訪れた理由を伝えると、アリアナとレミは顔を見合わせたあと、そのまま答えた。

「ギルマス様との話し合いが終わったら、すぐに向かうわ」
「商業ギルドにもご迷惑になってしまいますからね」
「分かりました。もし話し合いがすぐ終わりそうなら、案内もかねて待っておきましょうか?」
「あら、そうしてくれると助かるわ」

 アリアナとレミが答えると、トーヤの提案を受けてジェンナも頷く。

「ちなみに、何の話し合いをしていたのか、伺っても?」

 昨日知り合ったばかりの二人が、早速ジェンナと話し合っていることに、トーヤも少なからず興味を抱いていた。

「それは当然、魔導具の商業化についてよ」
「も、もうですか!?」
「さすがはギルマス様ね! 話が早くて助かるわ!」
「ちょっと、アリアナさん! 言葉遣い!」

 興奮していたアリアナは、そのままのテンションで話をしており、そこをレミに注意されてしまう。

「構わないわ。アリアナの魔導具はどれも素晴らしいもの。特にアイテムボックスの魔導具を作れるだなんてね」
「あ、やっぱりすごいことなのですね」
「他にもいろいろと便利な魔導具があってね……まったく、王都の魔導具開発局もバカなことをしたものね」

 ジェンナの呟きに関してはトーヤも同意見なので、苦笑するしかできなかった。
 それからトーヤは、ジェンナたちの話し合いが終わるのを待ち、アリアナとレミと一緒に商業ギルドをあとにした。
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