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第54話:VS色欲のレイディ⑤

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「やめよ、レイディ! このまま魔力を凝縮してしまえば、その身を亡ぼすことになるぞ!」

 レイディの行動を見たエミリーが声を荒らげた。

「ご安心ください、エミリスタ様。私は絶対にあなた様を、助けて差し上げます!」
「それは間違いだ! 我は自らの意思でマギスと共にいる! 助けるも何も、助けてもらう必要が皆無なのだ!」
「そんなことはありません! 私の知るエミリスタ様は高貴なお方であり、常に上に立ち私たちを従えるお方です! それが人間と共に歩むだなんて……信じられるわけがありません!」

 エミリーの言葉であっても従おうとはしないレイディ。
 激しい言葉を交わしている間もレイディの魔力は凝縮されており、それに合わせて別のところから苦悶の声が聞こえてきた。

『『『……ゴゴ……ゴゴガガアアアアァァアアァァッ!!』』』

 ケルベロスはレイディの魔力によって操られている。
 そのレイディの魔力が凝縮されたことで、ケルベロスにも影響を及ぼしていた。

「どうするのだ、マギスよ! このままではレイディが!」
「分かってるよ、エミリー。それに、ケルベロスにもまだ死んでほしくないからね」

 エミリーの焦りを含んだ声にマギスが答えると、彼は腰に提げていた剣をアイテムボックスに戻した。

「な、何をしているのだ、マギスよ!?」
「大丈夫だよ、エミリー。これは仮の剣だったからね。本気で相手をするなら、仮の剣だと砕けてしまうから交換しないと」
「……はっ! そうだ、マギスよ。お主、我との戦いでは別の剣を!」

 一騎打ちをした時のことを思い出したエミリーが驚きの顔を浮かべると、マギスはニコリと微笑みながらアイテムボックスから右手を引き抜いた。

「妖精王の剣、エターニア」

 妖精界にしか存在しない鉱石で作られたエターニアは、ラクス・マギラエンという英雄の代名詞にもなった剣でもある。
 魔法との相性が他の鉱石と比べても群を抜いて高く、魔法剣士であるマギスにとっては最高の剣といえる存在だ。

「エターニアの存在が世界に広がり過ぎて、僕よりも有名になっていたからね。さすがに腰に提げては歩けないよ」
「……だが待て、マギスよ。お主、ヒースとの戦いの時は当然、エターニアを抜いたのであろうな?」
「いいや、抜いていないよ。あの時は必要なかったからね」

 笑みを浮かべたままだが、エターニアの存在感があまりにも強烈でマギスの存在が薄く見えてしまうほどだ。

「……な、なんなの、その剣は? 異常すぎる……異常すぎるわ!?」
「まあ、周囲の魔力をエターニアが勝手に吸収してため込んでくれるからね、見える者にとっては、この剣が優秀だと分かってしまうか」
「優秀? 違うわ、私は異常だと言っているのよ!」

 焦りにも似た声をあげたレイディは、凝縮した魔力をそのままケルベロスへ注ぎ込んでいく。

『『『ガルガアアアアァァアアァァッ!? ガグガガ、ギャガアアアアアアアアァァァァッ!!』』』

 力の温存が無意味だと悟ったレイディは、一気に蹴りをつけようと動き出す。
 直後にはケルベロスが激痛を伴う悲鳴をあげた。

「させないよ」

 だが、マギスはレイディの行動を見て地面を踏みしめ、一気に加速した。
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