英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第44話:マギスの日常

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 マギスの日常の大半は、魔獣狩りと青空教室で時間を使っているが、それだけということはない。

「今日もアクシアの中を散策してみようかな」

 アクシアに来てからというもの、休みの日には家でゆっくり過ごすこともあるが、それ以上に村の中を散策して新しい発見がないか探すのを楽しみにしていた。

「おはようございます、マギスさん!」
「おはよう」
「おっ! 今日も散歩かい、マギス!」
「そうなんですよ。これが最近の楽しみで」
「何もない村だけど、楽しいかい?」
「はい。僕にとっては新しい発見ばかりなので楽しいですよ」

 通りすがる村人から声を掛けられることも多く、これもお肉パーティが大きな成果を出しているのだと思っていた。

「今度また、みんなで一緒にお肉パーティをしましょうね」

 村人たちとさらに仲を深めようとマギスがそう言うと、その場にいた数人が顔を見合わせ、すぐに首を横に振った。

「その必要はないわよ」
「そうだぜ、マギス」
「マギスさんのおかげで食卓には毎日のようにお肉が並んでいるんですからね」
「そうですか? ……分かりました。でも、何かお祝い事があれば遠慮なく言ってくださいね」

 村人たちはすでにマギスのことを村の一員だと認めている。
 だからこそ、提供されるだけの立場ではなく、彼に何かをやってあげたいという思いも強くなっていた。

「私たちにできることがあったら言ってちょうだいね」
「そうだぜ! まあ、マギスはだいたいのもんは持っていそうだけどな!」
「いえ、そんなことはありませんよ。それじゃあ、何かあれば遠慮なくお願いさせていただきますね」
「そうしてちょうだい。マギスさん、本当にありがとうね」

 村人との会話を終わらせて再び散策を始めたマギスだったが、また別の人物から声を掛けられた。

「おう! マギスの旦那じゃないか!」

 気安く声を掛けてきたのは、顎髭を生やし、頬に十字の傷をつけた偉丈夫の男性だ。

「おはようございます、リンカーさん。今日も見回りですか?」
「おうよ! ってかまあ、こんな何もない村で問題が起きるなんてことの方が少ないんだけどな!」

 リンカーはリックの父親であり、体格は父親譲りだ。
 彼は自警団の団長を務めており、肩越しに背負っている大剣の柄が見えていた。

「今日は暇なのか?」
「はい。新しい発見がないか、散策中です」
「アクシアで新しい発見なんてあるもんかねぇ?」
「僕にとってはいろいろとあるんですよ」

 そんなものかと表情に出ていたリンカーだったが、何かを思いついたのかポンて手を叩くと、ニヤリと笑いマギスを見た。

「だったらよう、旦那! 俺と一緒に森へ出かけないか?」
「森に? うーん……まあ、散策はいつでもできるからいいか」
「よっしゃー! んじゃあ行こうぜ、マギスの旦那!」

 マギスが同意を示すとリンカーは両手をあげて喜び、大股でアクシアの門へと歩き出す。

「それで、リンカーさん。森に行って何をするんですか?」
「んなもん決まってるだろう、魔獣狩りだよ!」
「……えっ? あの、僕、今日は休みなんですけど?」

 仕事と同じことを休みの日にもやるのかと思いそう口にしたマギスだったが、リンカーは豪快に笑いながら答えた。

「いやいや、狩るのは俺の方だよ! 旦那には俺の戦い方を見ていてほしいんだ!」
「僕がリンカーさんの戦い方を?」
「おう! リックから聞いてたんだが、旦那は教えるのが上手いらしいじゃないか! 俺も最近は伸び悩んでるから、見てもらおうと思ってよ!」

 自警団の団長を務めるほどなのだから実力は確かなものだろう。
 それでもまだ高みを目指したいと思っているのは、マギスとしても共感できる部分はある。

「でも、僕なんかでいいんですか?」
「何言ってんだ! 旦那だからいいんだろうが! 指導の方、よろしく頼むぜ!」

 指導と言われて苦笑を浮かべたマギスだったが、同意したのだから断れないかと開き直り、できるアドバイスはしていこうと気持ちを切り替えることにしたのだった。
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