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第41話:指導方針①
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「だぁー! なんで勝てないんだよー!」
地面に座ったままのリックが空を見上げながら悔しそうに声をあげた。
「うぅぅ、私たち、ほとんど何もできなかったね」
「マジそれだよな! もっと打ち合えたら、もう少しいい勝負ができたんじゃないか?」
「だけど、オックスとピピの魔法があってあれだよ? 私たちだけで何ができると思うのよ?」
「そ、それは……」
立ったままリックと会話をしていたアリサの言葉に、彼は口を噤んでしまう。
「やれることはまだまだあるよ」
二人が何をしたいのか、そして何ができるのかを教えるためにマギスが声を掛けた。
「本当か、マギス兄!」
「教えてください、先生!」
「もちろんさ。まずはリックだけど、もう少し大きい剣を使ってみてもいいんじゃないかな?」
「大きい剣? でもマギス兄、俺はこの剣しか持ってないぞ?」
リックが使っている剣は、アクシア自警団の団長を務めている父親から受け継いだもので、彼の体格に合わせたものではない。
比較的ガタイの良いリックには小さく、そのせいで窮屈な動きを強いられていた。
「リックがその剣に思い入れがあるなら別だけど、そうじゃなかったら僕が持っている剣を譲ろうかなと思っている、どうかな?」
「マジで! やったー! お願いします、マギス兄!」
「思い入れとかなかったかな?」
「ないない! ってか、じいちゃんから使っていたやつだから、ボロボロで嫌だったんだよ!」
それはだいぶ由緒ある剣なのではないかと内心で思ったマギスだったが、何も使っている剣を処分するわけでもないしいいかなと考え直すことにした。
「それじゃあ……うん、これなんかどうかな」
そう口にしながらマギスがアイテムボックスから取り出したのは、リックが使う剣より長さも幅も一回りほど大きい剣だった。
「……なんか、格好いい剣だけど、本当にいいのかな?」
「構わないよ。僕にはこれがあるし、別の剣もあるからね。手に入れてから一度も使ってないから新品だし、このディアグレイブルを使ってくれないかな?」
「……分かった。ありがとう、マギス兄!」
お礼を口にしたリックは、マギスから真紅の剣身が美しいディアグレイブルを受け取ると、手に馴染ませようと少し離れた場所で素振りを始めた。
「最初は使いにくいかもしれないけど、慣れてきたら絶対に今よりも動けるはずだから、頑張って慣れてね」
「分かった! 絶対に使いこなしてみせるぜ!」
自信満々にそう言い切ったリックを、アリサは羨ましそうに見つめている。
「……いいなぁ、リック」
「ふふ、それじゃあ次はアリサだね」
「よ、よろしくお願いします、先生!」
やや緊張気味のアリサにマギスは柔和な笑みを向けながら声を掛け、もう一度アイテムボックスに腕を突っ込んだ。
「アリサは機動力を活かした戦い方をしているけど、それにしては手数が少ないように感じるんだ」
「そうですか? 私としてはそうは思わないんですけど……」
「それはたぶん、一本の剣にしてはってことじゃないかな」
「は、はい。というか、剣は一本しか持っていませんから」
「それなら――二本を持つっていうのはどうかな?」
マギスがアリサへ提案したのは、双剣術だった。
「アリサは相手を攻撃する時、左手で間合いを測っているように見えたけど、どうかな?」
「その通りです」
「なら、左手にも剣を持ち、その剣を使って間合いを測り、双剣で相手を圧倒するほどの連撃を与えてみないかい?」
「双剣で、相手を圧倒する連撃……」
僅かな逡巡を見せたアリサだったが、その顔はすぐに決意の表情に変わった。
「……やってみます、先生!」
「ありがとう。それじゃあ、この剣を使ってみないかい?」
マギスはアリサにも提案だけではなく、双剣術に合った剣を提供するつもりだった。
「……うわぁ、とってもきれいです」
「双剣、シルフティア。アリサならきっと使いこなせるはずさ」
「あ、ありがとうございます! 絶対に使いこなしてみせます!」
満面の笑みを浮かべたアリサはシルフティアを受け取ると、リックと同じようにすぐに素振りを始めたのだった。
地面に座ったままのリックが空を見上げながら悔しそうに声をあげた。
「うぅぅ、私たち、ほとんど何もできなかったね」
「マジそれだよな! もっと打ち合えたら、もう少しいい勝負ができたんじゃないか?」
「だけど、オックスとピピの魔法があってあれだよ? 私たちだけで何ができると思うのよ?」
「そ、それは……」
立ったままリックと会話をしていたアリサの言葉に、彼は口を噤んでしまう。
「やれることはまだまだあるよ」
二人が何をしたいのか、そして何ができるのかを教えるためにマギスが声を掛けた。
「本当か、マギス兄!」
「教えてください、先生!」
「もちろんさ。まずはリックだけど、もう少し大きい剣を使ってみてもいいんじゃないかな?」
「大きい剣? でもマギス兄、俺はこの剣しか持ってないぞ?」
リックが使っている剣は、アクシア自警団の団長を務めている父親から受け継いだもので、彼の体格に合わせたものではない。
比較的ガタイの良いリックには小さく、そのせいで窮屈な動きを強いられていた。
「リックがその剣に思い入れがあるなら別だけど、そうじゃなかったら僕が持っている剣を譲ろうかなと思っている、どうかな?」
「マジで! やったー! お願いします、マギス兄!」
「思い入れとかなかったかな?」
「ないない! ってか、じいちゃんから使っていたやつだから、ボロボロで嫌だったんだよ!」
それはだいぶ由緒ある剣なのではないかと内心で思ったマギスだったが、何も使っている剣を処分するわけでもないしいいかなと考え直すことにした。
「それじゃあ……うん、これなんかどうかな」
そう口にしながらマギスがアイテムボックスから取り出したのは、リックが使う剣より長さも幅も一回りほど大きい剣だった。
「……なんか、格好いい剣だけど、本当にいいのかな?」
「構わないよ。僕にはこれがあるし、別の剣もあるからね。手に入れてから一度も使ってないから新品だし、このディアグレイブルを使ってくれないかな?」
「……分かった。ありがとう、マギス兄!」
お礼を口にしたリックは、マギスから真紅の剣身が美しいディアグレイブルを受け取ると、手に馴染ませようと少し離れた場所で素振りを始めた。
「最初は使いにくいかもしれないけど、慣れてきたら絶対に今よりも動けるはずだから、頑張って慣れてね」
「分かった! 絶対に使いこなしてみせるぜ!」
自信満々にそう言い切ったリックを、アリサは羨ましそうに見つめている。
「……いいなぁ、リック」
「ふふ、それじゃあ次はアリサだね」
「よ、よろしくお願いします、先生!」
やや緊張気味のアリサにマギスは柔和な笑みを向けながら声を掛け、もう一度アイテムボックスに腕を突っ込んだ。
「アリサは機動力を活かした戦い方をしているけど、それにしては手数が少ないように感じるんだ」
「そうですか? 私としてはそうは思わないんですけど……」
「それはたぶん、一本の剣にしてはってことじゃないかな」
「は、はい。というか、剣は一本しか持っていませんから」
「それなら――二本を持つっていうのはどうかな?」
マギスがアリサへ提案したのは、双剣術だった。
「アリサは相手を攻撃する時、左手で間合いを測っているように見えたけど、どうかな?」
「その通りです」
「なら、左手にも剣を持ち、その剣を使って間合いを測り、双剣で相手を圧倒するほどの連撃を与えてみないかい?」
「双剣で、相手を圧倒する連撃……」
僅かな逡巡を見せたアリサだったが、その顔はすぐに決意の表情に変わった。
「……やってみます、先生!」
「ありがとう。それじゃあ、この剣を使ってみないかい?」
マギスはアリサにも提案だけではなく、双剣術に合った剣を提供するつもりだった。
「……うわぁ、とってもきれいです」
「双剣、シルフティア。アリサならきっと使いこなせるはずさ」
「あ、ありがとうございます! 絶対に使いこなしてみせます!」
満面の笑みを浮かべたアリサはシルフティアを受け取ると、リックと同じようにすぐに素振りを始めたのだった。
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