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第30話:魔獣の解体

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 リックが初めての魔獣を討伐したあと、生徒たち全員が彼と同じように魔獣の討伐を行っていった。
 生徒の中で一番のお調子者であるリックが体を震わせながら怖いと口にしたこともあり、全員が真剣に魔獣討伐をこなしていく。
 魔導師の二人は実際に感触を味わうということはなかったが、それでも命を自らの手で奪うという行為の重さを理解し、仕留めてからも表情を崩すことはなかった。

「よし、全員が魔獣狩りを経験できたね。それじゃあ、次だけど――」

 マギスの言葉を真剣な面持ちで見ている生徒たちに満足しながら、彼は次の課題を口にした。

「自分たちで狩った魔獣を解体してもらおうかな」
「「「「「「……解体?」」」」」」

 生徒たちの声に、マギスはニッコリと笑った。

「そうだ。魔獣とはいえ命を奪ったんだから、その責任をしっかりと果たさなければならない。みんなはどうして魔獣を狩るのかな?」
「えっと、それは……人間の敵だから?」
「それもある。他には?」

 アリサの答えにマギスは頷きながらも、さらに他の答えを求めた。

「はいはいはーい! 食べるためだよ!」
「そうだね。事実、僕が狩ってきた魔獣も村長に渡して、みんなの食卓に並んでいるだろう?」

 ティアナが元気よく答えたことで、マギスは次の話へ進んでいく。

「単に人間の敵だからという理由なら、狩った魔獣をその場で焼いてしまえばいい。そのままにしてしまうと、血や腐った死体の臭いを辿って別の魔獣が来てしまうからね。でも、食べるためなら違うはずだ」
「このままじゃあ、食べられないもんな」
「その通りだ、リック。もしも魔獣を食べるために狩るのであれば、その責任を狩った本人が背負わなければならない」
「だから自分たちで解体をする、ということですか」

 最後にカイトが締めくくると、マギスは大きく頷いた。

「解体のやり方は僕が指示するから、みんなはそれに従って解体を進めてほしい、いいかな?」
「「「「「「はい!」」」」」」

 命の重みを知ることができた生徒たちはやる気に満ちた声で返事をする。
 そして、マギスの指示に従い、衣服を汚しながらも解体を進めていく。
 時には間違えてしまうこともあったが、それは誰もが通る道だとマギスは笑い飛ばしてみせた。

「ふむ。子供らも上手くやっているようだのう」

 エミリーはそうニアに呟いたのだが、一向に反応が返ってこない。
 不思議に思い彼女を見上げてみたのだが、その表情を見たエミリーは呆れた顔を浮かべてしまう。

「……ニアよ、どうしたのじゃ?」
「……えっ? いや、その、みんな、すごいなーって」
「……まさかお主、解体をやったことがないのか?」
「そ、そんなことないわよ! ただ、いまだに苦手ってだけで、やったことはあるんだからね!」

 やったことはあると口にしているものの、その顔は青ざめている。
 それだけでニアが解体を苦手としていることがすぐに理解できてしまった。

「ふむ……おーい、マギスー!」

 生徒が必死に解体を習っている横で、教師のニアが苦手なままではダメだと思ったエミリーは、すぐにマギスへ声を掛けた。

「どうしたんだい、エミリー?」
「どうやらニアは解体が苦手なようじゃ」
「ちょっと、エミリーちゃん!?」
「んっ? そうなのかい、ニア?」
「いや、あの、そのー……はい」

 マギスがまっすぐに彼女を見つめながら問い掛けたことで、視線を四方八方へ彷徨わせたものの、最終的には認めてしまった。

「それじゃあ、ニアも一緒に解体をやろうか」
「えぇっ! いや、でも、そこは生徒を教えることに集中した方が……」
「でも、僕がいなかったらニアがみんなに教えていただろうし、これからそうなることも出てくると思うよ? だったら、苦手意識を払拭しておくべきだと思うけどな」

 マギスが正論を口にすると、これ以上の言い訳はできないとニアは諦めた。

「……わ、分かりました~」
「よし、それじゃあニアにはこの魔獣を解体してもらおうかな」

 そう口にしたマギスは、アイテムボックスから生徒たちが解体しているものとは明らかに大きさが異なる魔獣を取り出した。
 地面に置いただけでズンッと音を響かせたその魔獣を見て、ニアの顔は真っ青になってしまった。

「……えっと、これを私が、解体するん、ですか?」
「大丈夫。僕も手伝うからね」
「…………ううぅぅぅぅ、わがりましだ~」

 涙を流しながら解体を始めたニアを見て、生徒たちは苦笑いを浮かべるのだった。
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