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第29話:実戦授業の本番
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実戦授業の日になった。
マギスは青空教室に向かう前に村長のアボズを屋敷を訪ねると、魔獣の間引きの際にアイテムボックスへ放り投げていた魔獣の肉を提供した。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!!」
肉の質としては普通やそれ以下のものがほとんどだったが、それでも貴重な食糧、さらには肉ということもあって、アボズからはとても感謝されてしまった。
「実戦授業を行うための間引きで出たお肉ですから、気にしないでください」
「それでもです。……しかし、実戦授業ですか。子供たちのこと、何卒よろしくお願いいたします」
「分かりました」
アボズは魔獣の怖さを十分に理解しているのだろう。
マギスの強さについても理解しているだろうが、それでも頭を下げてまで子供たちのことを案じて、守ってくれるようお願いしてくれた。
守ることは当然だと彼も理解しているが、アボズの気持ちはとても嬉しく、笑顔で請け負ったと口にした。
「それじゃあ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
マギスは先に待ち合わせ場所に向かったエミリーたちと合流するため、アクシアの入り口へ向かった。
「遅いよー、マギス兄ー!」
マギスの姿が見えたのだろう、リックが大きく手を振りながら声を掛けてくれた。
「すまないね。村長にお肉を渡してきたんだ」
「肉! マジかよ!」
「今日もお肉パーティかな?」
「あはは、そこまでの量はないかな」
リックとアリサが涎を垂らしそうな顔でそう口にしたが、即座にマギスが否定した。
とはいえ、各家庭に行き渡るくらいの量はあったので、パーティとまではいかなくても美味しい一皿くらいにはなるかもしれない。
「今日はよろしくお願いします、マギスさん」
「ニアもよろしくね」
すでに生徒たちには注意事項がニアから説明されている。
エミリーはあくびをしながら聞いていたようだが、彼女の強力な魔法を目の当たりにしたニアは気にすることはなかった。
教師としてどうなのかと思わなくもないマギスだったが、実際にエミリーには必要のない注意だったので、彼も話を進めることにした。
「それじゃあ、行こうか」
「「「「「「はーい!」」」」」」
「うふふ、みんな元気いっぱいね」
「我としては退屈なもんじゃがなぁ」
マギスと一緒に間引きを行っていたエミリーからすると、弱い魔獣しか残っていないことを知っているので退屈以外の何ものでもない。
とはいえ、一人で家にいるのも退屈なので、生徒の一人として参加している。
「……エミリーちゃんのことも頼りにしているわね」
「……ふむ、そういうことであれば力を貸してやるかのう」
最後尾を歩いていたエミリーにニアがこっそりとそう告げると、少しだけ嬉しそうに胸を張る。
その姿がかわいかったのか、エミリーを見つめるニアの表情は微笑みに変わっていた。
しばらく進んでいくと、マギスは一番近い魔獣の巣に到着した。もちろん、小型魔獣の巣である。
「僕が魔獣を誘い出すから、確実に魔獣を倒すんだ。最初は誰からやるかな?」
「はいはいはーい! 俺がやる!」
アイテムボックスに手を突っ込みながらマギスがそう口にすると、普段通りにリックが元気よく手をあげた。
「分かった。それじゃあ、巣の前にエサを投げるから、魔獣が出てきたら確実に仕留めるんだ、いいね?」
「おう! 任せてくれ!」
剣を抜いたリックが自信満々な表情で答えるのを見て、マギスはエサとなる肉を巣の前に放り投げた。
しばらくして小型魔獣が顔を覗かせると、お腹を空かせていたのかその場で食べ始める。
「……今だよ」
「どりゃああああっ!」
『ピキャッ!?』
初めての実戦だったのだが、リックは迷いなく剣を振り抜いてウサギに似た小型魔獣の首を落としてみせた。
「やった!」
「さすがリックだね!」
「これくらい当然さ」
アリサ、ティアナ、カイトと口を開いていくと、すぐにリックが喜びを爆発させる――そう思っていた。
「……」
しかし、リックは首を落とした小型魔獣を見下ろしながら動かない。
「……リック?」
「どしたのー?」
「いったい何が――」
動かないリックを心配してカイトが近づこうとしたところを、マギスが先んじて動いた。
「手に感触が残っているかな?」
「……は、はい」
「どうだった?」
「……なんか、気持ち悪い、です」
いつもの元気なリックとは異なり、声に元気はなく、顔も僅かに青ざめている。
その表情を見たアリサたちも動きを止め、真剣な面持ちで彼を見つめた。
「……俺、ただの肉を斬ったことはあるんだ」
「うん」
「……でも、初めて生きている魔獣を、斬ったんだ」
「うん」
「…………斬った時の感触が伝わってきた時……怖いって、感じた」
「それでいいんだよ、リック」
優しい声音で相槌を打ち、最後には小刻みに震えていたリックを優しく抱きしめる。
これがリックにとって貴重な、そして大きな経験になっただろうと、マギスは確信を持ったのだった。
マギスは青空教室に向かう前に村長のアボズを屋敷を訪ねると、魔獣の間引きの際にアイテムボックスへ放り投げていた魔獣の肉を提供した。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!!」
肉の質としては普通やそれ以下のものがほとんどだったが、それでも貴重な食糧、さらには肉ということもあって、アボズからはとても感謝されてしまった。
「実戦授業を行うための間引きで出たお肉ですから、気にしないでください」
「それでもです。……しかし、実戦授業ですか。子供たちのこと、何卒よろしくお願いいたします」
「分かりました」
アボズは魔獣の怖さを十分に理解しているのだろう。
マギスの強さについても理解しているだろうが、それでも頭を下げてまで子供たちのことを案じて、守ってくれるようお願いしてくれた。
守ることは当然だと彼も理解しているが、アボズの気持ちはとても嬉しく、笑顔で請け負ったと口にした。
「それじゃあ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
マギスは先に待ち合わせ場所に向かったエミリーたちと合流するため、アクシアの入り口へ向かった。
「遅いよー、マギス兄ー!」
マギスの姿が見えたのだろう、リックが大きく手を振りながら声を掛けてくれた。
「すまないね。村長にお肉を渡してきたんだ」
「肉! マジかよ!」
「今日もお肉パーティかな?」
「あはは、そこまでの量はないかな」
リックとアリサが涎を垂らしそうな顔でそう口にしたが、即座にマギスが否定した。
とはいえ、各家庭に行き渡るくらいの量はあったので、パーティとまではいかなくても美味しい一皿くらいにはなるかもしれない。
「今日はよろしくお願いします、マギスさん」
「ニアもよろしくね」
すでに生徒たちには注意事項がニアから説明されている。
エミリーはあくびをしながら聞いていたようだが、彼女の強力な魔法を目の当たりにしたニアは気にすることはなかった。
教師としてどうなのかと思わなくもないマギスだったが、実際にエミリーには必要のない注意だったので、彼も話を進めることにした。
「それじゃあ、行こうか」
「「「「「「はーい!」」」」」」
「うふふ、みんな元気いっぱいね」
「我としては退屈なもんじゃがなぁ」
マギスと一緒に間引きを行っていたエミリーからすると、弱い魔獣しか残っていないことを知っているので退屈以外の何ものでもない。
とはいえ、一人で家にいるのも退屈なので、生徒の一人として参加している。
「……エミリーちゃんのことも頼りにしているわね」
「……ふむ、そういうことであれば力を貸してやるかのう」
最後尾を歩いていたエミリーにニアがこっそりとそう告げると、少しだけ嬉しそうに胸を張る。
その姿がかわいかったのか、エミリーを見つめるニアの表情は微笑みに変わっていた。
しばらく進んでいくと、マギスは一番近い魔獣の巣に到着した。もちろん、小型魔獣の巣である。
「僕が魔獣を誘い出すから、確実に魔獣を倒すんだ。最初は誰からやるかな?」
「はいはいはーい! 俺がやる!」
アイテムボックスに手を突っ込みながらマギスがそう口にすると、普段通りにリックが元気よく手をあげた。
「分かった。それじゃあ、巣の前にエサを投げるから、魔獣が出てきたら確実に仕留めるんだ、いいね?」
「おう! 任せてくれ!」
剣を抜いたリックが自信満々な表情で答えるのを見て、マギスはエサとなる肉を巣の前に放り投げた。
しばらくして小型魔獣が顔を覗かせると、お腹を空かせていたのかその場で食べ始める。
「……今だよ」
「どりゃああああっ!」
『ピキャッ!?』
初めての実戦だったのだが、リックは迷いなく剣を振り抜いてウサギに似た小型魔獣の首を落としてみせた。
「やった!」
「さすがリックだね!」
「これくらい当然さ」
アリサ、ティアナ、カイトと口を開いていくと、すぐにリックが喜びを爆発させる――そう思っていた。
「……」
しかし、リックは首を落とした小型魔獣を見下ろしながら動かない。
「……リック?」
「どしたのー?」
「いったい何が――」
動かないリックを心配してカイトが近づこうとしたところを、マギスが先んじて動いた。
「手に感触が残っているかな?」
「……は、はい」
「どうだった?」
「……なんか、気持ち悪い、です」
いつもの元気なリックとは異なり、声に元気はなく、顔も僅かに青ざめている。
その表情を見たアリサたちも動きを止め、真剣な面持ちで彼を見つめた。
「……俺、ただの肉を斬ったことはあるんだ」
「うん」
「……でも、初めて生きている魔獣を、斬ったんだ」
「うん」
「…………斬った時の感触が伝わってきた時……怖いって、感じた」
「それでいいんだよ、リック」
優しい声音で相槌を打ち、最後には小刻みに震えていたリックを優しく抱きしめる。
これがリックにとって貴重な、そして大きな経験になっただろうと、マギスは確信を持ったのだった。
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