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第26話:引率のお願い
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この日の授業が無事に終わり、マギスとエミリーはニアと一緒になって生徒たちを見送った。
「さて、それじゃあ俺たちも行こうかな」
「うむ、そうじゃのう! 久しぶりに魔法を使ったから腹が減った――」
「そのことについては家でしっかりと説教させてもらうからね、エミリー?」
「あー……すまぬ」
二人が何気ない会話をしている横で、ニアは何やら考え込んでいるような表情を浮かべていたが、意を決してマギスに声を掛けた。
「あ、あの、マギスさん!」
「んっ? どうしたんだい、ニア?」
「お願いがあるんです!」
「ほほう? なんじゃ、言ってみよ」
お願いをされているのはマギスなのだが、話題を逸らす絶好の機会だと思ったエミリーがニアに話をするよう促していく。
「エミリー、君ねぇ」
「いいではないか! ニアが困っているのだぞ?」
「……はぁ。確かにそうだね」
「す、すみません、マギスさん」
「謝る必要はないよ。それで、いったいどうしたんだい?」
生徒たちが座っていた椅子にマギスとエミリーが腰掛けると、ニアも向かいの椅子に腰を下ろす。
そして、マギスへのお願いを口にした。
「……近々、子供たちと森に入っての実戦授業を行おうと考えているんです」
「実戦ってことは、魔獣と戦わせるってことかな?」
「はい。マギスさんに助けられたあの日も、実は実戦授業の場所を探し歩いていたところだったんです」
「なるほど、だから一人だったわけか」
マギスの相槌にニアが頷くと、だいぶ申し訳なさそうに言葉を続けた。
「ただ……マギスさんに助けていただいたように、あの日は適当な場所を見つけることができなかったんです」
「むしろ、あ奴らには荷が重い魔獣しかおらんかったからのう」
「うぅぅ、その通りなのよ~、エミリーちゃ~ん!」
涙目になりながらそう口にしたニアはエミリーを抱きしめた。
「ぐぬっ!? ……ま、マギズゥゥゥゥ」
急に抱きしめられたものだから抵抗することができず、エミリーはマギスに助けを求めた。
「……んっ?」
しかし、マギスは自分の発言のせいで顔面を胸に埋めてしまう結果になったのだからと、エミリーの助けを無視していた。
しばらくしてエミリーがバタバタと両手を動かし始めたこともあり、彼女が苦しんでいると気づいたニアは慌てて体を離した。
「あぁっ! ご、ごめんね、エミリーちゃん!」
「ぷはっ! ……マ~ギ~ス~!」
「自業自得なんだから別にいいだろう?」
「よくないわい!」
頬を膨らませたエミリーを横目に、マギスはニアへ顔を向けた。
「僕は構わないけど……本当にいいのかい?」
マギスが心配しているのは、ニアが授業への意欲を失わないかというものだった。
魔法の授業まで彼が引き受けることとなり、実戦授業でも一緒に行動するとなれば、生徒たちはマギスを頼ることとなり、ニアのやることがなくなるかもしれない。
当初から懸念していたことではあるが、マギスは改めてニアに確認することにした。
「もちろんです! 子供たちのためですからね!」
「……そうか。君は優秀な教師なんだね」
「違います。何もできない、出来損ないの教師です」
「子供たちのために自分の感情を殺すことができるんだから、優秀な教師だよ」
柔和な笑みを向けられたニアはドキッと胸が高鳴っていた。
頬も赤く染まっていただろうが、夕日が彼女たちを照らしていたこともありマギスには気づかれていなかった。
「……あ、ありがとう、ございます」
「それじゃあ、明日からの授業は少しだけニアに任せようかな」
「子供たちが残念がらないでしょうか?」
「実戦授業の場所を探しに行っているって伝えておけば、みんな納得してくれるはずだよ。そうだなぁ……明後日にはやっちゃおうかな」
「そ、そんな急に決めてしまって大丈夫なんですか?」
生徒たちが文句を言わないようマギスが明後日に始めようと決めると、ニアが急な決定を心配そうに確認する。
「大丈夫だよ。明日には場所を決めておくからさ」
「我も行くぞ! 魔獣狩りのようなものなのだから、ニアにも文句は言わせんからな!」
エミリーが二人を交互に見ながらそう口にすると、その姿がかわいらしかったのかニアはクスリと笑いながら頷いた。
「分かりました。何から何までありがとうございます」
実戦授業の引率が決まったマギスは、明日からの予定を頭の中で組み立て始めたのだった。
「さて、それじゃあ俺たちも行こうかな」
「うむ、そうじゃのう! 久しぶりに魔法を使ったから腹が減った――」
「そのことについては家でしっかりと説教させてもらうからね、エミリー?」
「あー……すまぬ」
二人が何気ない会話をしている横で、ニアは何やら考え込んでいるような表情を浮かべていたが、意を決してマギスに声を掛けた。
「あ、あの、マギスさん!」
「んっ? どうしたんだい、ニア?」
「お願いがあるんです!」
「ほほう? なんじゃ、言ってみよ」
お願いをされているのはマギスなのだが、話題を逸らす絶好の機会だと思ったエミリーがニアに話をするよう促していく。
「エミリー、君ねぇ」
「いいではないか! ニアが困っているのだぞ?」
「……はぁ。確かにそうだね」
「す、すみません、マギスさん」
「謝る必要はないよ。それで、いったいどうしたんだい?」
生徒たちが座っていた椅子にマギスとエミリーが腰掛けると、ニアも向かいの椅子に腰を下ろす。
そして、マギスへのお願いを口にした。
「……近々、子供たちと森に入っての実戦授業を行おうと考えているんです」
「実戦ってことは、魔獣と戦わせるってことかな?」
「はい。マギスさんに助けられたあの日も、実は実戦授業の場所を探し歩いていたところだったんです」
「なるほど、だから一人だったわけか」
マギスの相槌にニアが頷くと、だいぶ申し訳なさそうに言葉を続けた。
「ただ……マギスさんに助けていただいたように、あの日は適当な場所を見つけることができなかったんです」
「むしろ、あ奴らには荷が重い魔獣しかおらんかったからのう」
「うぅぅ、その通りなのよ~、エミリーちゃ~ん!」
涙目になりながらそう口にしたニアはエミリーを抱きしめた。
「ぐぬっ!? ……ま、マギズゥゥゥゥ」
急に抱きしめられたものだから抵抗することができず、エミリーはマギスに助けを求めた。
「……んっ?」
しかし、マギスは自分の発言のせいで顔面を胸に埋めてしまう結果になったのだからと、エミリーの助けを無視していた。
しばらくしてエミリーがバタバタと両手を動かし始めたこともあり、彼女が苦しんでいると気づいたニアは慌てて体を離した。
「あぁっ! ご、ごめんね、エミリーちゃん!」
「ぷはっ! ……マ~ギ~ス~!」
「自業自得なんだから別にいいだろう?」
「よくないわい!」
頬を膨らませたエミリーを横目に、マギスはニアへ顔を向けた。
「僕は構わないけど……本当にいいのかい?」
マギスが心配しているのは、ニアが授業への意欲を失わないかというものだった。
魔法の授業まで彼が引き受けることとなり、実戦授業でも一緒に行動するとなれば、生徒たちはマギスを頼ることとなり、ニアのやることがなくなるかもしれない。
当初から懸念していたことではあるが、マギスは改めてニアに確認することにした。
「もちろんです! 子供たちのためですからね!」
「……そうか。君は優秀な教師なんだね」
「違います。何もできない、出来損ないの教師です」
「子供たちのために自分の感情を殺すことができるんだから、優秀な教師だよ」
柔和な笑みを向けられたニアはドキッと胸が高鳴っていた。
頬も赤く染まっていただろうが、夕日が彼女たちを照らしていたこともありマギスには気づかれていなかった。
「……あ、ありがとう、ございます」
「それじゃあ、明日からの授業は少しだけニアに任せようかな」
「子供たちが残念がらないでしょうか?」
「実戦授業の場所を探しに行っているって伝えておけば、みんな納得してくれるはずだよ。そうだなぁ……明後日にはやっちゃおうかな」
「そ、そんな急に決めてしまって大丈夫なんですか?」
生徒たちが文句を言わないようマギスが明後日に始めようと決めると、ニアが急な決定を心配そうに確認する。
「大丈夫だよ。明日には場所を決めておくからさ」
「我も行くぞ! 魔獣狩りのようなものなのだから、ニアにも文句は言わせんからな!」
エミリーが二人を交互に見ながらそう口にすると、その姿がかわいらしかったのかニアはクスリと笑いながら頷いた。
「分かりました。何から何までありがとうございます」
実戦授業の引率が決まったマギスは、明日からの予定を頭の中で組み立て始めたのだった。
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