上 下
21 / 64

第21話:マギスの提案

しおりを挟む
 さらに翌日となり、マギスは午前の授業を青空教室で行っていた。
 近接戦闘を主としているリックとアリサ、そしてティアナは嬉しそうに参加しているのだが、唯一カイトだけはぶすっとした表情で授業を受けている。
 その態度からマギスに心を開いていないのは明白であり、彼は今日の授業で歩み寄りたいと考えていた。

「よし、今日の授業は終わり」
「「「ええええぇぇ~?」」」

 太陽が昼の時間を示したタイミングでマギスがそう口にすると、リック、アリサ、ティアナから不満の声が漏れた。

「まだいいだろう、マギス兄!」
「そうだよ先生!」
「模擬戦やろう、模擬戦! せんせ~!」

 三人がマギスを囲むようにして近づいてくる中、カバンから弁当を取り出して黙々と食べているカイト。
 オックスはそんなカイトを心配そうに横目に見ながら、ピピは我関せずに一人で食事を始めている。
 午後の授業もあるので、マギスとしては三人にもしっかりと食事を取ってもらいたいと考えていた。

「午後の授業もあるんだろう? なら、食べておかないといけないよ」
「えぇ~? でも、午後は魔法の授業だろ?」
「私たちには関係ないもんねー?」
「せんせー! 模擬戦、もーぎーせーんー!」
「そんなことはないだろう。魔法を潜り抜けて接近戦に持ち込むことも、近接戦闘を主とする者にとっては大事なことなんだからね?」

 駄々をこねる三人にマギスがそう口にすると、顔を見合わせながらポカンとしてしまった。

「……んっ? どうしたんだ、三人とも?」
「マギス兄、それはさすがに無理だって」
「そうだよ。魔法って、怖いんだよ?」
「僕はワンチャンありそうかなって思ったりもしているけど……やっぱり難しー!」

 三人とも無理だと口にしたことで、今度はマギスがポカンとしてしまう。
 何せマギスは勇者パーティ時代、ほとんどの敵を一人で倒してきた。
 その中には魔導師も含まれており、実戦で魔法を潜り抜けて敵を斬り捨ててきたのだ。
 常識だと思って口にしたことが、まさか完全否定されるとは思っていなかった。

「……マギスよ」

 そこにこっそりと声を掛けてきたのは、少し離れた場所に避難していたエミリーだった。

「お主の常識を、他の者に当てはめてはいかん。しかも、相手は子供じゃぞ?」
「でも、魔法を潜り抜けるのは普通だろう?」
「普通ではない。魔法には魔法をぶつけるのが一般常識であろうな。そもそも、魔法の弾幕を単身潜り抜けられるのはお主くらいなものだろう」
「……そうなのか?」

 エミリーの言葉に驚きながら問い返すと、彼女は大きく頷いた。

「自分が人族トップの実力者であることを自覚しろ。お主は我を倒した男なのじゃからな」

 誰にも聞こえない声でそう伝えられたマギスは、何度も瞬きを繰り返しながら、いまだにポカンとしている三人に視線を向けた。

「……でもまあ、やれないこともないし、できたらラッキーくらいでやってみようか」
「やるのかい!?」

 実力者にしかできない芸当だと言いたかったエミリーだったが、マギスには全く通じていなかった。
 むしろ、命懸けのことをできたらラッキーで片づけてしまうあたり、呆れてものも言えなくなってしまう。

「……はあぁぁ~。もうよい、好きにせい」
「ありがとう、エミリー」
「……まあ、我も協力するのはやぶさかではないしな」
「協力? それはいったい――」
「みんなー! マギスさーん!」

 そこまで話をしたところで、午後の授業を行うためニアがやってきた。

「先生! 魔法を潜り抜けて俺らが魔導師を倒せるって本当ですかー?」
「えっ!? い、いきなり何を言い出すの?」

 話の流れを知らないニアは、リックからの質問に困惑してしまう。

「ちょうどいいところに来てくれたね、ニア。どうだろう、魔法の授業なんだけど、一度僕に任せてくれないかな?」
「……えっ? あの、いったいどういうことなんでしょうか?」

 困惑したままのニアにマギスが事情を説明すると、彼女も驚いてはいたものの、すぐにニコリと笑い頷いてくれた。

「分かりました。いいですよ、マギスさん」
「ありがとう、ニア。本当は魔法の授業に関しては任せたかったんだけど、少し気になってね」
「いいんです。それに、私にはみんなを導くことは難しいかなって思っていましたから」

 少しだけ寂しそうな顔を浮かべたものの、すぐに表情を引き締め直したニア。
 そんな彼女を見たマギスは、すべてのことを自分が引き受けるのではなく、一部だけを引き受けられるよう努めることにした。

「それじゃあ、午後からはよろしくお願いしますね、ニア」

 こうして、マギスの魔法の授業が決まったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...