英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第21話:マギスの提案

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 さらに翌日となり、マギスは午前の授業を青空教室で行っていた。
 近接戦闘を主としているリックとアリサ、そしてティアナは嬉しそうに参加しているのだが、唯一カイトだけはぶすっとした表情で授業を受けている。
 その態度からマギスに心を開いていないのは明白であり、彼は今日の授業で歩み寄りたいと考えていた。

「よし、今日の授業は終わり」
「「「ええええぇぇ~?」」」

 太陽が昼の時間を示したタイミングでマギスがそう口にすると、リック、アリサ、ティアナから不満の声が漏れた。

「まだいいだろう、マギス兄!」
「そうだよ先生!」
「模擬戦やろう、模擬戦! せんせ~!」

 三人がマギスを囲むようにして近づいてくる中、カバンから弁当を取り出して黙々と食べているカイト。
 オックスはそんなカイトを心配そうに横目に見ながら、ピピは我関せずに一人で食事を始めている。
 午後の授業もあるので、マギスとしては三人にもしっかりと食事を取ってもらいたいと考えていた。

「午後の授業もあるんだろう? なら、食べておかないといけないよ」
「えぇ~? でも、午後は魔法の授業だろ?」
「私たちには関係ないもんねー?」
「せんせー! 模擬戦、もーぎーせーんー!」
「そんなことはないだろう。魔法を潜り抜けて接近戦に持ち込むことも、近接戦闘を主とする者にとっては大事なことなんだからね?」

 駄々をこねる三人にマギスがそう口にすると、顔を見合わせながらポカンとしてしまった。

「……んっ? どうしたんだ、三人とも?」
「マギス兄、それはさすがに無理だって」
「そうだよ。魔法って、怖いんだよ?」
「僕はワンチャンありそうかなって思ったりもしているけど……やっぱり難しー!」

 三人とも無理だと口にしたことで、今度はマギスがポカンとしてしまう。
 何せマギスは勇者パーティ時代、ほとんどの敵を一人で倒してきた。
 その中には魔導師も含まれており、実戦で魔法を潜り抜けて敵を斬り捨ててきたのだ。
 常識だと思って口にしたことが、まさか完全否定されるとは思っていなかった。

「……マギスよ」

 そこにこっそりと声を掛けてきたのは、少し離れた場所に避難していたエミリーだった。

「お主の常識を、他の者に当てはめてはいかん。しかも、相手は子供じゃぞ?」
「でも、魔法を潜り抜けるのは普通だろう?」
「普通ではない。魔法には魔法をぶつけるのが一般常識であろうな。そもそも、魔法の弾幕を単身潜り抜けられるのはお主くらいなものだろう」
「……そうなのか?」

 エミリーの言葉に驚きながら問い返すと、彼女は大きく頷いた。

「自分が人族トップの実力者であることを自覚しろ。お主は我を倒した男なのじゃからな」

 誰にも聞こえない声でそう伝えられたマギスは、何度も瞬きを繰り返しながら、いまだにポカンとしている三人に視線を向けた。

「……でもまあ、やれないこともないし、できたらラッキーくらいでやってみようか」
「やるのかい!?」

 実力者にしかできない芸当だと言いたかったエミリーだったが、マギスには全く通じていなかった。
 むしろ、命懸けのことをできたらラッキーで片づけてしまうあたり、呆れてものも言えなくなってしまう。

「……はあぁぁ~。もうよい、好きにせい」
「ありがとう、エミリー」
「……まあ、我も協力するのはやぶさかではないしな」
「協力? それはいったい――」
「みんなー! マギスさーん!」

 そこまで話をしたところで、午後の授業を行うためニアがやってきた。

「先生! 魔法を潜り抜けて俺らが魔導師を倒せるって本当ですかー?」
「えっ!? い、いきなり何を言い出すの?」

 話の流れを知らないニアは、リックからの質問に困惑してしまう。

「ちょうどいいところに来てくれたね、ニア。どうだろう、魔法の授業なんだけど、一度僕に任せてくれないかな?」
「……えっ? あの、いったいどういうことなんでしょうか?」

 困惑したままのニアにマギスが事情を説明すると、彼女も驚いてはいたものの、すぐにニコリと笑い頷いてくれた。

「分かりました。いいですよ、マギスさん」
「ありがとう、ニア。本当は魔法の授業に関しては任せたかったんだけど、少し気になってね」
「いいんです。それに、私にはみんなを導くことは難しいかなって思っていましたから」

 少しだけ寂しそうな顔を浮かべたものの、すぐに表情を引き締め直したニア。
 そんな彼女を見たマギスは、すべてのことを自分が引き受けるのではなく、一部だけを引き受けられるよう努めることにした。

「それじゃあ、午後からはよろしくお願いしますね、ニア」

 こうして、マギスの魔法の授業が決まったのだった。
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