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第18話:英雄、教師になる
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ティアナとカイト以外の子供たちにも良い点と悪い点を伝え終わったマギスは、今日の授業はこれで終わりと口にした。
「えぇーっ! もう終わりかよー!」
「もっといろいろ教えてほしいでーす!」
「今日はお試しでここに来ているから、ちゃんとした教師になるって決めてからかな」
「えっ? 先生は、先生にならないの?」
「……ピピはそれを、否定したいの」
「あはは、ごめんね」
出会って二日目ではあるが、子供たちの性格をある程度把握できたと思っているマギス。
ここでティアナが何も言ってこないということは、本当にひねくれてしまったのかもしれない。
「ティアナも何か言えよ!」
「……ぷんっ!」
「ティアナちゃん、機嫌直してよ!」
「……ぷんぷんっ!」
これは怒っているのだろうかと内心で思いながらも、マギスはあえて口には出さず、彼女から歩み寄ってきてくれるのを待つことにした。
「ったく。……それにしてもカイトのやつ、どうしたんだ?」
ティアナが態度を変えないのを見たリックは説得を諦め、この場にいないカイトのことを口に出した。
「あー、カイトは完璧主義だからねー。完敗だったことが相当悔しかったんじゃないかなー」
「で、でも、いつも頑張って、くれてるよ?」
「頑張っているのと、悔しいのは、全く違うものなのー」
アリサの言葉を受けてオックスがカイトを庇おうとしたが、それをピピが完全に否定する。
「あっ! それならみんなでカイトのところに行って励ましてやろうぜ!」
「バーカ! それを簡単に受け入れるカイトじゃないでしょうよ!」
「ば、バカだと! ……いやまあ、あいつが頑固なのは知っているけどよう」
「それなら今はニア先生に任せて、私たちはマギス先生の指摘をしっかりと復習しておこうよ!」
リックもアリサも、同い年のカイトのことはよく分かっている。
今は何を言っても意味がないと理解しており、だからこそ自分たちにできることをやるべきだと口にした。
「それがいいと思う! せんせー! 今度は絶対に負けないんだからね!」
すると、アリサの言葉を聞いたティアナが突然やる気を出したかのように声をあげた。
「だからせんせー、絶対に私たちのせんせーになってよね!」
「そこはまた改めてかな」
「絶対だからね! なってくれなきゃ、許さないんだから!」
最後にティアナがそう口にすると、子供たちは次々に自主練習に移っていく。
その光景を見守っていたマギスは、すぐ横に来ていたエミリーに声を掛けた。
「エミリー、気づいたかい?」
「うむ。ティアナは、次代の英雄の卵じゃな?」
ティアナが持つ雰囲気を見て、感じた結果、二人の答えは一致していた。
「だけど、おかしな話だよね」
「何がじゃ? 次代の英雄が生まれるのは、人族にとって当然の流れなのだろう?」
「魔王は倒された。そう人族には伝わっているんだから、彼らが次代の英雄を探すことはないだろう? そして、そんな彼女を元英雄と元魔王が見つけちゃったんだからね」
「ふむ……確かに、おかしな話であるな」
ティアナがこれからどのような成長を遂げるのかは彼女次第だ。
しかし、未開地の村アクシアでマギスがティアナと出会ったことは、何かしら意味があるのかもしれないと彼は思っている。
「……これは、責任を持って教師を引き受けないといけないかもしれないな」
「次代の英雄を見つけてしまった責任か? そんなもの、我らしか知らないのだから無視してもいいであろうに」
「そうなんだけどね」
そう口にしたマギスは、柔和な表情で今も話し合いを続けているティアナたちに視線を向けた。
「……彼女たちを見ていたら、これからどうやって成長していくのか、ちょっとだけ見ていたくなったんだよ」
「まあ、ティアナだけではなく、他の者たちも子供ながらになかなかの実力の持ち主だったからのう」
「うん。僕にできることは限られているけど、教えられることは教えてあげたいんだよね」
「人族最強の男が、次代の英雄とその仲間たちを育てるか……くくくくっ、面白そうではないか」
元魔王の発言とは思えない言葉にマギスはクスクスと笑ってしまったが、そのことにエミリーは全く気づいていない。
それどころか、自分に何ができるかを考え始めている。
「……ニアが戻ってきたら、魔獣狩りと教師のスケジュールを決めてもらわないといいけないかなぁ」
そんなことを考えながら、マギスは晴れ渡る青空へ視線を向けたのだった。
「えぇーっ! もう終わりかよー!」
「もっといろいろ教えてほしいでーす!」
「今日はお試しでここに来ているから、ちゃんとした教師になるって決めてからかな」
「えっ? 先生は、先生にならないの?」
「……ピピはそれを、否定したいの」
「あはは、ごめんね」
出会って二日目ではあるが、子供たちの性格をある程度把握できたと思っているマギス。
ここでティアナが何も言ってこないということは、本当にひねくれてしまったのかもしれない。
「ティアナも何か言えよ!」
「……ぷんっ!」
「ティアナちゃん、機嫌直してよ!」
「……ぷんぷんっ!」
これは怒っているのだろうかと内心で思いながらも、マギスはあえて口には出さず、彼女から歩み寄ってきてくれるのを待つことにした。
「ったく。……それにしてもカイトのやつ、どうしたんだ?」
ティアナが態度を変えないのを見たリックは説得を諦め、この場にいないカイトのことを口に出した。
「あー、カイトは完璧主義だからねー。完敗だったことが相当悔しかったんじゃないかなー」
「で、でも、いつも頑張って、くれてるよ?」
「頑張っているのと、悔しいのは、全く違うものなのー」
アリサの言葉を受けてオックスがカイトを庇おうとしたが、それをピピが完全に否定する。
「あっ! それならみんなでカイトのところに行って励ましてやろうぜ!」
「バーカ! それを簡単に受け入れるカイトじゃないでしょうよ!」
「ば、バカだと! ……いやまあ、あいつが頑固なのは知っているけどよう」
「それなら今はニア先生に任せて、私たちはマギス先生の指摘をしっかりと復習しておこうよ!」
リックもアリサも、同い年のカイトのことはよく分かっている。
今は何を言っても意味がないと理解しており、だからこそ自分たちにできることをやるべきだと口にした。
「それがいいと思う! せんせー! 今度は絶対に負けないんだからね!」
すると、アリサの言葉を聞いたティアナが突然やる気を出したかのように声をあげた。
「だからせんせー、絶対に私たちのせんせーになってよね!」
「そこはまた改めてかな」
「絶対だからね! なってくれなきゃ、許さないんだから!」
最後にティアナがそう口にすると、子供たちは次々に自主練習に移っていく。
その光景を見守っていたマギスは、すぐ横に来ていたエミリーに声を掛けた。
「エミリー、気づいたかい?」
「うむ。ティアナは、次代の英雄の卵じゃな?」
ティアナが持つ雰囲気を見て、感じた結果、二人の答えは一致していた。
「だけど、おかしな話だよね」
「何がじゃ? 次代の英雄が生まれるのは、人族にとって当然の流れなのだろう?」
「魔王は倒された。そう人族には伝わっているんだから、彼らが次代の英雄を探すことはないだろう? そして、そんな彼女を元英雄と元魔王が見つけちゃったんだからね」
「ふむ……確かに、おかしな話であるな」
ティアナがこれからどのような成長を遂げるのかは彼女次第だ。
しかし、未開地の村アクシアでマギスがティアナと出会ったことは、何かしら意味があるのかもしれないと彼は思っている。
「……これは、責任を持って教師を引き受けないといけないかもしれないな」
「次代の英雄を見つけてしまった責任か? そんなもの、我らしか知らないのだから無視してもいいであろうに」
「そうなんだけどね」
そう口にしたマギスは、柔和な表情で今も話し合いを続けているティアナたちに視線を向けた。
「……彼女たちを見ていたら、これからどうやって成長していくのか、ちょっとだけ見ていたくなったんだよ」
「まあ、ティアナだけではなく、他の者たちも子供ながらになかなかの実力の持ち主だったからのう」
「うん。僕にできることは限られているけど、教えられることは教えてあげたいんだよね」
「人族最強の男が、次代の英雄とその仲間たちを育てるか……くくくくっ、面白そうではないか」
元魔王の発言とは思えない言葉にマギスはクスクスと笑ってしまったが、そのことにエミリーは全く気づいていない。
それどころか、自分に何ができるかを考え始めている。
「……ニアが戻ってきたら、魔獣狩りと教師のスケジュールを決めてもらわないといいけないかなぁ」
そんなことを考えながら、マギスは晴れ渡る青空へ視線を向けたのだった。
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