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第14話:青空教室

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「……どうしてこうなった?」
「……お主のせいであろう、マギスよ」

 ニアから先生になってほしいと言われた翌日、マギスとエミリーは彼女を先頭に青空の下を進んでいた。
 向かう先は高台であり、遠目からでは建物があるようには見えない。

「なあ、ニア。あそこに何があるんだい? 学校があるようには見えないんだけど?」
「学校はないですよ。私たちの学校は青空教室なんです」
「そうなのか? ここは比較的平和な村に見えるが、建物を造ってもいいのではないか?」

 森の中に魔獣はいるものの、村まで足を向けるようなことはない。
 あえて青空教室にする必要性を感じられなかったエミリーの言葉を受けて、ニアは笑みを浮かべながら答えてくれた。

「教えることが座学だけじゃないんです。むしろ、体を動かすことの方が多いんですよね。だから、建物に押し込めるよりも、自然と触れ合える環境で授業をしているんですよ」
「そういう考え方もあるのだな」
「でも、体を動かすというのは主にどういうことをしているんだい?」
「それはですねぇ――」
「せんせーい!」

 ニアの言葉を遮るように、子供たちの声が高台の方から聞こえてきた。
 三人の視線が声の方へ向くと、お肉パーティの時に集まってきた六人の子供たちが手を振っている姿が見えた。

「ぐぬぬぅ、この前の子供たちではないか」
「大丈夫よ、エミリーちゃん。みんなにはお肉パーティの時にしっかりと言い聞かせておいたから」
「……本当じゃろうなぁ?」
「私を信じてちょうだい」

 ニアにジト目を向けていたエミリーだったが、彼女の言葉を信じてみようかと思い小さく息を吐きながら頷いた。

「あの子たちが生徒なんだね」
「はい! それで、今日はマギスさんに剣と魔法を教えてほしいんです」
「剣と魔法を? ……あの子たちにかい?」

 マギスは当初、アクシアの外の世界の話を聞かせる程度だろうと考えていた。
 それが見た目的にはエミリーとさほど変わらない子供たちに剣と魔法を教えてほしいと言われ、僅かながら困惑してしまう。

「アクシアの周りには魔獣が多いので、小さい頃から剣と魔法を学ばせて、少しでも自衛ができるようにしているんです」
「それをニアが教えているのかい?」
「教えないといけないんですが……私、魔法は多少できるんですが、剣はからっきしで。それで、マギスさんにお願いできないかなって思ったんです」
「それなら、剣だけでもいいんじゃないかい?」

 子供というのは周りの変化に敏感だとマギスは思っている。
 ずっと教えてくれているニアから、先生がマギスへ急に変わったとなれば、反発してしまう者も出てくるだろう。
 ならば全てを一気に変えるのではなく、少しずつ変えていく方がいいのではないかと考えた。

「それが……」
「魔法も多少使える程度で、教えられるほどではない、ということかのう?」
「そ、その通りなの、エミリーちゃん! ……でも、どうして分かったの?」

 エミリーの言葉に身振り手振りを加えながら返事をしたニアだったが、すぐに首をコテンと横に倒してしまった。

「ニアの中には魔力がほとんど存在しておらん。初級魔法を一発か二発、放てればいい程度であろうな」
「……すごい、本当にすごいは、エミリーちゃん! そう、その通りなの!」
「いや、そこは自信満々に言っていいことではないと思うのだが?」
「はっ! ……そ、そうよね、ごめんなさい」

 少し恥ずかしそうにしながらエミリーに答えたニアだったが、彼女の言葉を受けてマギスはやや思案する。

(うーん、僕が全てを請け負ってもいいものだろうか。指導すること自体は問題ないんだけど、それを子供たちが受け入れてくれるのかどうかも分からないんだよなぁ)

 そんなことを考えていると、高台に到着してしまい、子供たちがニアめがけて走り出した。

「どりゃああああっ!」
「ええええぇぇっ!?」

 しかし、その中でも先頭を走ってきた少年は、抱き着くのではなく、頭突きをする勢いで飛び込んできた。
 気合いの声を発した少年と、悲鳴にも似た声をあげながら目を閉じたニアを見て、マギスは仕方がないと言わんばかりに地面を踏みしめた。

「はい、ストーップ」
「ぐえっ!?」
「……えっ? 痛く、ない?」

 後ろにいたはずのマギスの声が正面から聞こえたかと思えば、少年の苦しそうな声が聞こえ、ニアはゆっくりと目を開いた。

「……ま、マギスさん!?」
「今のはちょっと危なかったかな。気をつけるように」

 驚いているニアを横目に、マギスは首根っこを掴まえていた少年をゆっくりと地面に降ろした。
 ポカンとしていた少年だったが、その表情は徐々に明るいものとなり、気づけばマギスを尊敬のまなざしで見つめていた。

「……す、すげええええっ! 兄ちゃん、すげぇなあっ!」
「ありがとう。そう思ってくれるなら、もう危ない真似はしないようにね」
「分かったぜ!」

 再会してから一分も経たずして、マギスは少年の心を鷲掴みにしていた。
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