英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

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第12話:アクシアでの夜

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 賑やかなお肉パーティはいまだ続いている。
 その中で眠気が出てきたマギスとエミリーは先に会場を離れることにした。

「主役を差し置いて盛り上がってしまうなど……」
「構いませんよ。久しぶりのお肉なんでしょう?」
「……重ね重ね、ありがとうございます」
「しっかりとマギスに礼を尽くすのじゃぞ!」
「もちろんです。マギスさん、エミリーちゃん、本当にありがとう」

 二人の見送りに来ていたアボズとニアと言葉を交わし、マギスとエミリーは歩き出した。
 事前に屋敷の場所は聞いており、お肉パーティの前には村人が掃除も済ませてくれている。
 すぐに寝られるのはありがたく、それも野宿ではないというのが二人にとってはとても嬉しいことだった。
 そして、それを屋敷の前に到着して改めて実感しているところだ。

「……見てくれよ、エミリー」
「……うむ、屋根があるのう」
「「…………そして、壁もある!!」」

 マギスとエミリーはあまりの感動にガシッと両手を重ね合わせた。

「これはゆっくり休めるぞ」
「そうだね。掃除もしてくれているみたいだし、アボズさんには本当に感謝だよ」
「なんじゃ、マギスよ。お主の方がアボズや村の者に貢献しておるであろう」

 今も行われているお肉パーティだけでなく、ニアを助けたこともアクシアにとって大きな貢献だろうとエミリーは指摘する。
 それでもマギスは柔和な笑みを浮かべながら首を横に振った。

「ゆっくり暮らせる場所を提供してくれることほど、嬉しいことはないんだよ、エミリー」
「それはまあ、そうじゃが……」
「俺もお前も、そのことを十二分に理解しているじゃないか」
「……うむ」

 マギスの言葉にエミリーは深刻そうな表情で頷いた。
 そんな彼女の頭を優しく撫で、そっと背中を押して家の中に促す。
 そうして中に入った二人は、きれいに掃除された室内を見て自然と笑みを浮かべる。

「寝るか、エミリー」
「そうじゃな、マギス」

 すぐに寝られるようにと布団も敷かれており、二人は大きく伸びをしてから布団に入る。
 すでに眠気がピークに達していたのか、エミリーは布団に入るや否や大きな欠伸をして、だんだんと瞼が閉じていった。そして――

「……すー……すー……」
「中身は魔王なのに、体はやっぱり子供なんだなぁ」
「……むにゃむにゃ……お腹……いっぱい……じゃぁ……すー……」
「……はは、夢の中でも肉を食べているのか? お前はここに来る間も結構食べていただろうに」

 魔王だからそんなことはないと勝手に思っていたが、もしかするとエミリーも久々にマギス以外の相手と触れ合えたことが楽しかったのかもしれない。
 そう思うと、マギスは未開地の森でニアを助け、アクシアに連れてきてもらえたことに大きな幸運を感じていた。

「……このままアクシアに腰を据えるのもありかもしれないな。旅のためとはいえ、戦うのにも疲れてきたしなぁ」

 エミリーの寝顔を見つめながらそう口にしたマギスも、抑えきれない欠伸をする。

「……寝るかぁ」

 最後にそう呟いたマギスも瞼を閉じて眠りについた。

 ――この日の二人は、英雄だった時よりも、魔王だった時よりも、深く穏やかな眠りにつくことができたのだった。
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