英雄はその後、教師になる ~魔王よりも子供たちの方が強敵でした~

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
8 / 64

第8話:未開地の村アクシア

しおりを挟む
 ニアの案内で訪れた未開地の村――アクシア。
 彼女が村の外から人を連れてきたということはすぐに知れ渡り、遠目からマギスとエミリーに視線が集まっている。

「お二人とも、すみません。みんな、村の外の人が気になって仕方がないんです」
「外の人がアクシアを訪れたことはなかったのかな?」

 ニアの言葉にマギスが問い掛けると、彼女はすぐに頷いた。

「少なくとも、私は見たことがありません」
「まあ、ここは未開地だからのう。外の人間が足を踏み入れられる場所ではないわ」
「あの、先ほども仰っていましたが、ここは未開地なんでしょうか? その、私たちはずっとこの地で生活をしていますので、未開地と言われても実感が湧かなくて……」

 この地で暮らしてきたニアからすれば、当然の疑問だろう。
 そもそも、未開地と名付けたのは未開地の外にいる者たちであり、そこで暮らしている者からすれば理解できないのも当然だ。

「この辺りの害獣はとても強い個体が多くて、外の人間ではほとんど太刀打ちができないんだ。だから未開地と名付けて、いつの日か開拓できるのを願っているんだよ」
「でも、マギスさんは来てくれましたよね?」
「我を忘れるでないぞ?」
「うん、エミリーちゃんもね」

 言葉遣いだけを聞けばおばあちゃんと言われても納得なのだが、見た目が幼女であることが大きくニアはエミリーをちゃん付けで呼んでいる。
 本当は魔王であるエミリーはちゃん付けに憤るかもしれないとマギスは思っていたのだが、思いのほか気に入ったのか彼女は素直に受け入れていた。

「うむうむ、エミリーちゃんも忘れるでない」
「うふふ。でも、今の話を聞くと、マギスさんとエミリーちゃんはとっても強い方々なんですか?」

 害獣が強いから外の人間は足を踏み入れないということで、そこに入ってきた二人が強いと思うのは当然の結果だろう。
 実際に人族最強の男と魔王である。
 両種族の最強が共にいるのだから強いのは当然だが、マギスは柔和な笑みを浮かべて首を横に振った。

「いいや、僕はそこまで強くないよ」
「何を言っておるの――ばふぁ!?」

 彼の言葉を否定しようとしたエミリーだったが、その口をマギス本人がふさいでしまう。

「あの、どうしたんですか?」
「ん? いや、なんでもないよ。僕はそこそこ強い程度なんだよね」
「でも、先ほどは害獣を圧倒していましたよね?」
「あれは特別弱い個体だったんじゃないかな。僕でも倒せたくらいだからね」
「そうなんですか? ……うーん、そうだったのかなぁ?」

 実際はマギスでなければニアを助けることはできなかったはずだが、彼としては自分が特別強いと思われるのは避けたかった。

「……ぷはっ! ……おい、マギス! 貴様、どうして嘘をつくのじゃ!」

 マギスの言葉に思案を始めたニアを見て、エミリーが小声で話し掛けてきた。

「……強いと思われると面倒ごとになりそうだろう?」
「……ならば助けなければよかったであろう」
「……いや、さすがにあそこで見て見ぬふりはできないよ」

 こそこそ話をしていると、思案を終えたニアが顔を上げたのが見えたのもあり、二人は会話を中断した。

「そういえば、マギスさんたちはどうして旅をなさっているんですか?」
「僕はエミリーと一緒に一年間旅をしていて、そろそろどこかに腰を落ち着けられないかなって思っているんだ」
「それじゃあ、今はその場所を探しているんですね?」
「そうだね」

 エミリーと辺境の地を一年間見て回ったマギスだったが、この一年で地図に載っている場所は全て回ってしまい、その過程から未開地へ足を延ばしている。
 とはいえ、王城で語っていた田舎に引っ込みたいという思いも心の片隅にはずっと残っており、エミリーを助けることができた以上、その選択肢を選んでもいいのかなと思うようになっていた。

「……我は聞いておらんかったぞ?」
「まあまあ、いいじゃないか。……エミリーもゆっくりと力を取り戻せた方がいいだろう?」
「……まあ、そうじゃがのう」
「どうしたんですか?」
「いいや、なんでもないよ」

 後半は小声になったのでニアが声を掛けてきたが、マギスは誤魔化すように笑う。
 軽く首を傾げた彼女だったが、目的の場所に到着したからか話題はそちらへ変わっていった。

「お待たせいたしました。こちらがアクシアの村長のお屋敷になります」
「「……村長?」」
「はい! 外からの来客なんて初めてですから、まずは村長にご紹介できればと思いまして!」

 軽く食事をごちそうしてもらえる程度に考えていた二人にとって、突然の村長との対面は予想外のイベントになってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...