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第4話:ラクスの目的
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「……ち、違うのか?」
「うん、違うね」
「……ならばお主、いったいこの地に何をしに来たのだ?」
「何をしにって、魔王と話をしに来たんだけど?」
「…………はああああああぁぁぁぁ?」
まさか魔王を滅ぼすでもなく、その存在を利用するでもなく、単に話をしに来ただけだとラクスは語った。
その答えにエミリスタは盛大なため息を漏らし、そして全身から力が抜けてしまう。
「……はは、なんだ、緊張していたのは我だけだったというわけだな」
「あー、なんだかごめんね。たぶん僕が特殊なんだ」
苦笑するエミリスタを見ながらラクスは苦笑いを浮かべて頬を掻く。
とはいえ、ラクスの言う通り彼が特殊なのであり、普通の人族であれば魔王は絶対悪であり、滅ぼすべき相手でもある。
エミリスタがラクスの登場を受けて殺されると勘違いしても仕方のないことだった。
「だが、話をしに来たというのは冗談であろう?」
「いや、本当だけど?」
「……本当に、話をしに来ただけなのか?」
「うん。というか僕、指名手配されてるしね」
「……んんんん? ちょっと待て、どういうことなのだ?」
「これ、見てみる?」
話の流れが全く分からないエミリスタは眉間に指を当てながら険しい顔を浮かべると、ラクスが自身の手配書を彼女に差し出す。
「……のう、ラクスよ」
「なんですか?」
「人族の王というのは……その、なんだ……バカなのか?」
どうにか言葉を繕おうとしたエミリスタだったが、適当な言葉が思い浮かばずにストレートに言い放つ。
「どうなんだろうね。まあ、僕としては王都から離れてゆっくりしたかったし、あの勇者パーティと一緒に行動するのは限界だったし、ちょうどよかったよ」
「……お主、どうしてあのような者たちと行動を共にしていたのだ? あの勇者、正直に言ってザコであろう?」
エミリスタは勇者のことをザコだと言い切った。それは彼の攻撃をその身に受けたことで確証を得るに至っての発言でもある。
だからこそ彼女はラクスと再会した際、人族最強の男と評したのだ。
「まあ……一応、勇者だからね」
「お主が勇者と言われた方が我は納得するのだがなぁ」
「僕はあくまでも英雄さ。取って代わられることができる、ただの英雄。だけど、勇者はそうじゃないんだよ」
「人族にはおかしなしきたりがあるのじゃのう」
「あはは、しきたりってわけじゃないと思うんだけどね。でもまあ、そういうことで」
ラクスが笑って流してしまったので、エミリスタもこれ以上の追及をしようとは思わなかった。
それに、せっかくの再会である。
勇者の話よりも、今はお互いの話をする方がどちらにとっても有益であると分かっていた。
「して、ラクスよ。我と話をして、その後はどうするつもりなのだ?」
「うーん、実は特に何も考えていなかったんだよね」
「……お主、本当に人族最強の男なのだろうなぁ?」
「いや、それを決めたのは魔王だからね? 僕が自分でそう言ったわけじゃないからね?」
ラクスがそう答えると、エミリスタはそれもそうかと思ったのか小さく笑った。
「やっぱりね」
「ん? 何がやっぱりなのだ?」
「魔王って、悪い人じゃないよね」
「そもそも人ではないのだが?」
「それもそうか。でも、根っからの悪者じゃないでしょ?」
柔和な表情を浮かべながらラクスがそう問い掛けると、エミリスタはバツの悪そうな顔でそっぽを向いた。
「ふん! 人族から見れば、魔族は誰も彼も悪者なのだろう」
「普通の人族からすればそうかもね。でも、僕はほら、普通じゃないから」
「……お主、本当に何をしに来たのだ? 何か目的があってここまで来たのではないのか?」
ラクスの目的が見えず、エミリスタはやや強い語調でそう告げた。
「最初は本当に魔王と話をするだけの目的だったんだ。でも、その過程からただの悪者じゃないって分かったからね、次の目的に移っていこうかなって思ってる」
「だから、その目的を聞いているのだが?」
少しばかり面倒になったのか、エミリスタはため息交じりにそう口にした。
「僕と一緒に行かないか? 魔王エミリスタ」
「…………お主、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「もちろん、分かっているよ。僕は魔王と……いいや、エミリスタと一緒にいることを願っているんだよ」
まさかの答えに、エミリスタは唖然としたまま固まってしまった。
「うん、違うね」
「……ならばお主、いったいこの地に何をしに来たのだ?」
「何をしにって、魔王と話をしに来たんだけど?」
「…………はああああああぁぁぁぁ?」
まさか魔王を滅ぼすでもなく、その存在を利用するでもなく、単に話をしに来ただけだとラクスは語った。
その答えにエミリスタは盛大なため息を漏らし、そして全身から力が抜けてしまう。
「……はは、なんだ、緊張していたのは我だけだったというわけだな」
「あー、なんだかごめんね。たぶん僕が特殊なんだ」
苦笑するエミリスタを見ながらラクスは苦笑いを浮かべて頬を掻く。
とはいえ、ラクスの言う通り彼が特殊なのであり、普通の人族であれば魔王は絶対悪であり、滅ぼすべき相手でもある。
エミリスタがラクスの登場を受けて殺されると勘違いしても仕方のないことだった。
「だが、話をしに来たというのは冗談であろう?」
「いや、本当だけど?」
「……本当に、話をしに来ただけなのか?」
「うん。というか僕、指名手配されてるしね」
「……んんんん? ちょっと待て、どういうことなのだ?」
「これ、見てみる?」
話の流れが全く分からないエミリスタは眉間に指を当てながら険しい顔を浮かべると、ラクスが自身の手配書を彼女に差し出す。
「……のう、ラクスよ」
「なんですか?」
「人族の王というのは……その、なんだ……バカなのか?」
どうにか言葉を繕おうとしたエミリスタだったが、適当な言葉が思い浮かばずにストレートに言い放つ。
「どうなんだろうね。まあ、僕としては王都から離れてゆっくりしたかったし、あの勇者パーティと一緒に行動するのは限界だったし、ちょうどよかったよ」
「……お主、どうしてあのような者たちと行動を共にしていたのだ? あの勇者、正直に言ってザコであろう?」
エミリスタは勇者のことをザコだと言い切った。それは彼の攻撃をその身に受けたことで確証を得るに至っての発言でもある。
だからこそ彼女はラクスと再会した際、人族最強の男と評したのだ。
「まあ……一応、勇者だからね」
「お主が勇者と言われた方が我は納得するのだがなぁ」
「僕はあくまでも英雄さ。取って代わられることができる、ただの英雄。だけど、勇者はそうじゃないんだよ」
「人族にはおかしなしきたりがあるのじゃのう」
「あはは、しきたりってわけじゃないと思うんだけどね。でもまあ、そういうことで」
ラクスが笑って流してしまったので、エミリスタもこれ以上の追及をしようとは思わなかった。
それに、せっかくの再会である。
勇者の話よりも、今はお互いの話をする方がどちらにとっても有益であると分かっていた。
「して、ラクスよ。我と話をして、その後はどうするつもりなのだ?」
「うーん、実は特に何も考えていなかったんだよね」
「……お主、本当に人族最強の男なのだろうなぁ?」
「いや、それを決めたのは魔王だからね? 僕が自分でそう言ったわけじゃないからね?」
ラクスがそう答えると、エミリスタはそれもそうかと思ったのか小さく笑った。
「やっぱりね」
「ん? 何がやっぱりなのだ?」
「魔王って、悪い人じゃないよね」
「そもそも人ではないのだが?」
「それもそうか。でも、根っからの悪者じゃないでしょ?」
柔和な表情を浮かべながらラクスがそう問い掛けると、エミリスタはバツの悪そうな顔でそっぽを向いた。
「ふん! 人族から見れば、魔族は誰も彼も悪者なのだろう」
「普通の人族からすればそうかもね。でも、僕はほら、普通じゃないから」
「……お主、本当に何をしに来たのだ? 何か目的があってここまで来たのではないのか?」
ラクスの目的が見えず、エミリスタはやや強い語調でそう告げた。
「最初は本当に魔王と話をするだけの目的だったんだ。でも、その過程からただの悪者じゃないって分かったからね、次の目的に移っていこうかなって思ってる」
「だから、その目的を聞いているのだが?」
少しばかり面倒になったのか、エミリスタはため息交じりにそう口にした。
「僕と一緒に行かないか? 魔王エミリスタ」
「…………お主、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「もちろん、分かっているよ。僕は魔王と……いいや、エミリスタと一緒にいることを願っているんだよ」
まさかの答えに、エミリスタは唖然としたまま固まってしまった。
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