上 下
103 / 183
オレノオキニイリ

神様とは?

しおりを挟む
 廻が目を覚ますと、目の前にはエルーカの顔がありとても困惑した様子だった。

「どうしたの、エルーカさん?」
「いえ、あの、扉の外から何度もお呼びしたのですがお返事がなかったので、フタスギ様が心配されていたんです」
「あー、そうだよね、ごめんなさい。ちょっと夢の中で神様と話してたの」
「……へっ? か、神様?」
「うん。たぶん、二杉さんなら知ってると思うけど……ご飯だったよね、行こうか」
「……は、はぁ」

 いつもと変わらない廻の様子にホッとしたような、それでいて困惑しているエルーカと共に部屋を後にした廻は食堂へと向かった。

 ※※※※

 廻達が食堂に着くと他の面々はすでに揃っていた。

「三葉、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「……本当か?」

 先ほどまでとは打って変わり反応が芳しくない廻を見て二杉は心配そうに声を掛ける。
 その様子に気づいたのか、廻は早速神様に着いて聞いてみることにした。

「……二杉さんは転生した時のことを覚えていますか?」
「転生した時のこと? ……いや、俺は自分が死んだと思って意識を失い、気がついたらこの経営者の部屋マスタールームにいたんだ」
「……えっ?」

 予想外の答えに今度は廻が困惑する。

「あの、神様には会いましたよね?」
「神様だと? そんな存在には会ったことがないぞ。神の使いのことではないのか?」
「……うそ」
「あの、メグル様。神様っていうのは、よく話に出てきたあの神様ですか?」
「う、うん。私はてっきり転生者は全員会っているものと思っていたんだけど……」

 二杉は会っていないと口にする神様という存在。
 神の使いがいるのだから神様が存在するのも間違いはないはずなのだが、いったいどういうことなのだろうか。

「……そ、それじゃあ、真っ白な空間については?」
「それも知らんな。経営者の部屋は真っ暗だし違うんだろう?」
「ち、違います! ……それじゃあ、私は誰に会って、どこにいたの?」

 廻は神様の存在に疑問を抱くようになってきていた。

「……どうでしょう。気分を変えるためにもそろそろ食事を始めませんか?」

 ラスティンは廻の様子を見て気を利かせて、二杉もこの提案に乗っかり食事を運ばせることにした。
 気落ちしていた廻だったが、並べられていく食事を目にして徐々に気持ちが浮上してきたのか曲がってした背筋がまっすぐになっていく。
 そして、最後に登場した鳥の丸焼きを目にした途端に両手を上げて歓喜の声を上げていた。

「肉ー!」
「……よ、喜んでもらえて光栄だ」
「二杉さん、ありがとうございます! しかも丸焼きですよ、こんなもの日本でもなかなか食べたことないですよ!」

 しかしあまりの喜びように二杉は引き気味になってしまう。
 そんなことはお構いなしの廻の視線は鳥の丸焼きに釘付けで他の料理には目もくれていない。

「……ミツバ様、ちゃんと前菜から食してくださいませ」
「うっ! ……ラスティンさん、私は食べたいものから──」
「ダメでございます。食事はバランスが大事なのであり、フタスギ様にもバランスよく食べていただいております」
「私はお客様であって──」
「ダメです」
「……」
「あー、三葉。こうなったラスティンは俺が言っても譲らないから前菜から食べてくれ」

 表情は笑顔なのだが、目が笑っていないラスティン。
 経営者である二杉の言葉にも譲らないと言っているのだから廻の我儘を許すとも思えない。

「……分かりました」
「ありがとうございます」
「で、でも! 鳥の丸焼きは少し多めに食べさせてください! ものすごく食べたいんです!」
「かしこまりました」
「本当ですか!」
「その分、他の料理も食べていただきますね」
「……いや、そういうことではなくてですね?」
「食べ盛りというのは良いものですねぇ」
「……もうそれでいいです。頑張って食べます」
「……三葉、何だかすまんな」

 何故だか二杉が謝る羽目になってしまったものの、そのまま食事は始まった。
 最初は落ち込んでいた廻だったが前菜を口にした途端にさっきまでの態度はどこへやら、あまりの美味しさに手が止まらなくなっていた。

「うわあ! これ、素材の味がとても濃厚ですね!」
「食事にはこだわっているからな。当然、材料から新鮮なものを取り寄せている」
「うぅーん! スープも美味しいわ! これ、ものすごく時間を掛けて煮込んでいますね!」
「分かるのか?」
「もちろんですよ! これでも日本にいた頃は色々なバイトを掛け持ちしてましたからね! 飲食店のバイトもその一つでよく厨房の手伝いもしていたんですよ」
「そういえばメグル様の料理も美味しかったですね」
「うふふ、ありがとうロンド君」

 カナタ達を助けた時に行われたお疲れ様会で振る舞われた料理の中には廻お手製の料理も含まれていた。
 簡単な手の込んでいない料理ではあったものの褒められると嬉しいもので、廻は自然と笑みをこぼしていた。

「経営者が料理とか、普通はしないんだがな」
「でも、二杉さんだって日本の料理が食べたくなる時ってありませんか? 私はありますよ。だからニーナさんにお願いしてたまーに厨房を貸してもらっているんです」
「えっ! あの時だけじゃなかったんですか?」
「私が食べたい時に私だけが食べてるからね。もしかして、ロンド君も食べたかったの?」
「……はい。あまり食べたことのない味付けでしたけど、とても美味しかったので」

 ロンドの言葉に本気で照れてしまった廻を頬を少しだけ紅く染めている。
 二杉はというと、この世界の料理に慣れてはきたものの廻の言う通り日本の味付けを食べたいと思ったことが時折あった。
 しかし自分が料理をできないこともあり諦めていたのだ。

「……も、もしよかったら、うちの料理長に日本の味付けを教えてくれないか? いや、無理ならいいんだ。忘れそうになるが、三葉も経営者なんだからな」
「全然構いませんよ」
「本当か!」
「もちろんですよ。この世界の料理も美味しいですけど、たまには懐かしい味に舌鼓を打つのもいいものですよね」

 笑顔の廻に対して、二杉は顔を真っ赤にして何度も頷いている。

「だけど、私なんかの味付けでいいんですかね? バイトはしていたと言いましたけど料理人ってわけじゃないですよ?」
「構わん! むしろ庶民の味付けの方がいいに決まっている!」
「そうですか? それなら安心しました」

 それからはみんなが料理に舌鼓を打ち、廻も待望の鳥の丸焼きに辿り着いたことでひたすらに食べ進めていく。
 最初は緊張していたアークスも廻と二杉の会話を聞いてほぐれてきたのか普段と変わらない様子で食事を楽しみ、ロンドとも普通に会話をしていた。

「……うぅ、お腹が痛いです」

 二杉に声を掛けられて日が浅いエルーカだけが唯一緊張しており、そんな言葉を落としていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...