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第3章:外の世界

設置の結果

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 ─@その後、あっという間に一五階層の安全地帯セーフポイントまでやって来たアルバス達は、看板をボスフロアに向かう通路の手前に突き刺した。
 その前にリリーナが立ち、固定魔法を発動する為の杭を打ち込んでいく。

「──これでいいかしら」

 ぼそりと呟きを落とすのと同時に杭が激しく発光し、杭同士を結ぶ光の線が現れた。

「固定魔法って、こうなってるんですね」
「僕も初めて見たよ」
「大工の仕事を見る機会なんて、なかなかないからな」

 それぞれが感想を口にする中、リリーナは集中しており言葉を発しない。
 杭から杭へと繋がる光が看板に届くと、全ての光が吸収されていき、そして消えていく。
 光が消えた直後には、金属を打ち合わせたような甲高い音が安全地帯に響き渡った。

「……では」

 そして、リリーナは双剣を抜くと素早く斬りつけた。

「ちょっと!」
「リリーナ様! ……って、傷ついて、ない?」
「ほぉ、これが固定魔法か」

 トーリが驚きの声を上げ、ロンドが困惑声を漏らす。
 唯一、アルバスだけが平静を保ちながら声を出していた。

「アルバス様が本気で斬れば斬れてしまうと思いますが、私程度なら大丈夫ですね」
「そうか……小僧、本気で斬ってみろ」
「えっ! ぼ、僕ですか!」
「そうだ。自分の実力を、こいつで感じてみろ」

 よく理解できない、という表情を浮かべながらも、ロンドはショートソードを抜く。深呼吸をしてから、渾身の力で振り抜いた。

 ──ガキンッ!

「いったああああぁぁっ!」
「だ、大丈夫か!?」

 手のしびれからショートソードを落として苦悶の表情を浮かべるロンドに、トーリが慌てて駆け寄る。
 アルバスは看板を眺めながら、ほうほうと一人で呟いていた。

「傷一つ付かないのか、凄いな」
「それが固定魔法ですから」
「……こ、これだけでは、実力を感じることも、できないんですけど」

 声を絞り出したロンドに対して、リリーナが声を掛ける。

「今の一撃で、看板はびくともしませんでしたよね。地面からピクリとも動きませんでした」

 そう言われたロンドは、杭の部分に目を向ける。
 地面に看板を突き刺した時にできたくぼみ以外には動いた形跡はない。

「おそらく、ヤダンさんが本気で攻撃したなら、傷つけることはできなくてもわずかながら動かすくらいはできるでしょう。ですが、ロンド君の場合は全く動いていません」
「……それは、僕の実力がまだまだだから、ということですね」
「アルバス様が言うように、駆け出しとしては抜きん出ているかもしれませんが、冒険者全体で見ればまだまだということです」
「そういうことだ。精進することだな」
「は、はい!」
「……看板を斬らす必要があったのか?」

 疑問の声を漏らすトーリだったが、そこには誰も突っ込まない。
 だが、そこに予想外の声が上がる。

「ああああああぁぁっ! ぼ、僕の剣が!」

 落としてしまったショートソードを手に取ったロンドだった。
 その視線は刀身を見つめており、看板に当たった部分が欠けている。

「……あー、こりゃダメだな」
「……あらあら、これはダメですね」
「そ、そんなあっ!」
「アルバス様が看板を斬れって言ったのに!」

 アルバスとリリーナが仕方ないといった感じで口を開き、ロンドとトーリが困惑声を発した。
 さすがのアルバスも申し訳ないと思ったのか、一つの提案を口にした。

「確か、以前にライガーの親爪と魔石を換金しただろう。それを使って、アークスに小僧の剣を打ってもらったらどうだ?」
「で、でも、あれは換金して僕の手元には無いですよ?」
「そこは小娘にお願いしたらいいだろう。あいつなら、ホイホイと素材を提供してくれると思うぞ」
「そこまでお世話になるわけにはいきませんよ!」

 アルバスの確証もない意見に、ロンドは慌てて首を横に振る。
 だが、アルバスの考えは変わらないようで、ダンジョンを出たら一度聞いてみろと何度も口にした。

「聞くだけならタダだからな。小僧が嫌なら、換金した時の金を使って購入するって形でもいいんじゃないか?」
「……こ、購入するなら、いいのかな?」
「小娘が小僧から金を受け取るかは別だがな!」
「それじゃあ意味がありませんよ! それに、アークスさんにもお金を払わないといけませんし!」
「……なあ、その話ってここでやらなきゃいけないことか?」
「ランドンには挑戦しないわけですし、そろそろ戻りませんか?」

 トーリとリリーナの提案を受けて、アルバスは笑いながら足を進めていく。
 その後ろをリリーナが続き、ロンドはトーリに肩を叩かれながら戻って行った。

 ※※※※

 時間にして往復一時間の行程だった。
 ランドンへ挑んだ時には片道四〇分以上掛かったことを考えると、相当な速度でダンジョンを突き進んだことになる。
 入口にはすでに廻が待っており、ロンド達を労っていた。

「皆さんお疲れ様でした! 看板設置、本当にありがとうございます!」
「おうおう、もっとお礼を言ってくれていいんだぞー」
「アルバスさんは看板を運んだだけですけどね! アルバスさん以外は本当にお疲れ様ですー!」
「……もう、いい加減にしてくれ」

 二人のやり取りにトーリが溜息を漏らす。
 アルバスやリリーナと共に潜ったとはいえ、早い行程を消化したことには変わりなく、疲れが溜まっていたのだ。

「僕はもう戻ります」
「トーリ君もありがとうね! 今度、何かお礼をさせてちょうだいね!」
「……はあ」

 力なくそう呟いたトーリは、そそくさと自宅へと戻って行った。

「では、私も戻りますね。どうやら、お迎えが来たようですし」

 クスリと笑った視線の先からは、大きく手を振っているボッヘルの姿があった。
 廻達に小さく手を振ったリリーナは、少し駆け足で戻って行く。

「二人も戻りますか?」
「その前に、小僧から小娘にお願いがあるそうだ」
「ちょっと、アルバス様!」
「お願い? 何々、なんなの?」

 アルバスには購入するならと言っていたのだが、内心ではアークスの鍛冶屋で既製品を購入しようかと考えていた。
 しかし、すでに廻の視線はロンドに釘づけであり、お願いを口にしない限りは離してくれそうもない。

「……えっと、僕の剣が欠けてしまいまして、それで、以前に換金したライガーの親爪と魔石を使って、アークスさんに武器を打ってほしいんです」
「そんなこと?」
「もちろんちゃんと購入します! 足りなければ働いて返しますから!」
「購入するも何も、あげるわよ」
「……へっ?」
「ほらな、言っただろ?」

 呆気なくあげると口にした廻に、ロンドは困惑顏を浮かべ、アルバスは当然といった表情をしている。

「ダ、ダメですよ! 親爪も魔石もレアアイテムなんですから!」
「だったら、尚更誰かに使ってもらわないといけないじゃない。それがロンド君だっていうなら、私はアイテムを提供するよ」
「諦めろ、小僧。貰えるものは貰っておけ、そして恩はその後に返すんだな」
「アルバスさんもたまにはいいことを言いますね。たまには」
「なんだ、喧嘩をしたいのか?」
「そんなんじゃありませんよーで!」

 いつもの言い合いが始まるのかと思いきや、夜も遅いとあって廻はすぐに切り上げた。
 そして、ロンドへ向き直りこう告げる。

「親爪と魔石は準備しておくから、明日はアークスさんのところに行こうね!」
「……あ、ありがとう、ございます」

 これ以上は何を言っても意味がないと悟ったロンドは、渋々お礼を口にすることしかできなかった。
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