79 / 183
勝負の結果
誤解と和解
しおりを挟む
廻はジーンの言葉と二杉のリアクションを見て、これが事実なのだと判断した。
「二杉さん! ジーンさんのことを大事にしているとか言っておきながら、替え時とはどういうことですか!」
「いや待て! これは何かの誤解だ!」
「誤解ではありません! フタスギ様は確かに仰いました!」
「ジーンも落ち着け! 確かに言いはしたが、それは──」
「言ったんですか! 今確かに言いましたね! 自分の口ではっきり──」
「まずは小娘が黙れ!」
──ごちんっ!
興奮していた廻の脳天にアルバスのげんこつが炸裂した。
あまりの音に二杉とジーンも目を丸くして廻を見ている。
「い、痛いじゃないですか、アルバスさん!」
「お前が話を引っ掻き回すからだろう! とりあえず二人の話を聞け!」
「で、でも、二杉さんは確かに言ったって──」
「だから話を聞けと言っているだろう! とりあえず黙れ、いいな!」
「……はぃ」
経営者にげんこつを落としたアルバスにも驚いていたのだが、住民であるアルバスの言葉に従っている経営者の廻にも驚いていた。
本来ならば経営者が住民に指示を出したり叱り飛ばす立場だからだ。
「……あー、それでだ。そっちの経営者様はどうしてそんなことを言ったんだ? 誤解だと言っていたが、何か理由があるんだろう?」
アルバスに促されて、二杉は困惑しながらもジーンの誤解を解く為に口を開いた。
「あ、あの時に口にしたのは、ジーンのことでは一切ない」
「……そ、それでは、何を言っていたのですか?」
「あれは──都市の入口に設置している大扉の話だ」
「…………へっ?」
「いや、あれの建付けが悪くなっていただろう? 住民からギーギー音がしてうるさいと。いくら油を差しても直らないし、それならいっそ取り換えてしまった方がいいと思ってだな……」
「……それで、替え時?」
「……すまん、あの時に言う言葉じゃなかったな」
あの時、というのは二杉が勝負の条件にアークスを戻すということと、アルバスをオレノオキニイリに移住させると言ったからだ。
ジーンはその際に反発しており、二杉の発言を自身のことと思っても仕方ないと反省していた。
「……えーっと、ということは、これで解決?」
「その通りだ。小娘が引っ掻き回すから変に時間が掛かったがな」
「……す、すいません」
「うふふ、メグルさんはジーンさんのことを心配していたからこそではないですか」
「……私のことを、心配?」
他の都市の経営者に心配されるなんてことはあり得ない、というのがこの世界に暮らす人間の考え方である。そもそも暮らしている都市の経営者にも心配されることが少ないのだから当然なのかもしれない。
「だって、最初に会った頃からジーンさんの表情があまり冴えなかったから、少し心配で……ごめんね、逆に掻き回しちゃって」
そしてすぐに謝ってくる経営者もまた新鮮だったのだろう。
二杉との間には信頼があるから分かるのだが、廻とは敵対していた相手同士なのだ。
「……み、三葉」
「……」
「……おい、三葉廻!」
「あっ! 私ですね。名字で呼ばれることがなかったから忘れそうでした」
「……すまなかったな、騒がしてしまって。アルバスにも嫌な思いをさせてしまった」
「俺は別に構わんぞ。小娘にもいい勉強になっただろうしな」
「アルバスさんの言い方はどうかと思いますが、私も気にしていませんから。ジーンさんと仲直りができてよかったですね」
二人の態度を見て、二杉は次にニーナへ視線を向ける。
「ニーナの言葉も、今になってようやく理解ができた。俺は自分の発言がどれだけの影響を及ぼすのか、それを考えていなかったんだな。本当にすまなかった」
「出過ぎた言葉でした。ですが、あの時の言葉がフタスギ様の中で何かを変えたのなら、言ったかいはありましたね」
「……ここの住民は、皆がこのような人達なのか?」
敵対していた経営者に掛ける言葉ではない。それにもかかわらずアルバスもニーナも二杉に対して普通に言葉を掛けてくれる。
廻という経営者がいるからこそなのだが、そのことを二杉はまだ知らない。
「そうですよ。私は住民みんなが笑顔で暮らせる都市を目指しています。私も都市に色々と関わってますし、だからこそ分からなかったことを知ることができました」
「……そうだな。俺もこの世界のことは今でも知らないことが多すぎる」
「知らないなら、知っている人に習えばいいんです」
「……習う、か。そういえば、この世界に来てからは気持ちも大きくなって、聞くことはあっても習うことはなかったかもしれない」
「聞くだけと習うでは大きく違いますからね」
相手から忠告されたり、こうした方がいいという意見では、ただ聞くだけになることが多い。
自分の意思で質問し、それに対して答えをもらい、その答えを実行する。
ただ聞くだけではなく、習い実行することが大事なのだ。
「……あのー、それとですねぇ」
「なんだ、どうした?」
「一応大事なことなので確認なんですけど、アークスさんの移住は問題なく認めていただけるんですよね?」
廻はアークスのことが一番気になっていた。
そもそもの勝負のきっかけがアークスの移住だったので、勝負に勝利したとはいえそこは言質を取っておきたかったのだ。
「当然だろう。勝負に負けて、約束を反故にするほど俺も落ちぶれてはいないぞ」
「……よ、よかったー! アルバスさん、やりましたよ!」
「おう。これでジーエフはさらに良くなるだろうな」
「……なあ、俺がこんなことを聞くのはお門違いかもしれないが、アークスはうまくやっているのか?」
二杉の質問に、廻はアークスがどれだけ優秀であり、アルバスの大剣も研いでみせたことを説明した。
どれだけ凄いのか二杉にはあまり伝わらなかったが、ボルキュラの名前を聞いて驚いていたジーンの反応から、ようやくアークスの腕前を認識したようだ。
「……俺は、もったいないことをしたみたいだな」
「若い人にも腕の良い鍛冶師はいるんですよ」
「そうだな。都市に戻ったら、鍛冶師達の腕前をもう一度確認するのも悪くないか」
二杉にも思うところがあったのか、これからの経営に今日の経験を活かす為に考え始める。そして、こんな提案を口にした。
「三葉、俺がこんなことを言える立場じゃないんだが──友好ダンジョン都市を結ばないか?」
二杉の提案を受けた廻は──
「……友好ダンジョン都市って、なんですか?」
初めて聞く言葉に首を傾げながらそう答えた。
「二杉さん! ジーンさんのことを大事にしているとか言っておきながら、替え時とはどういうことですか!」
「いや待て! これは何かの誤解だ!」
「誤解ではありません! フタスギ様は確かに仰いました!」
「ジーンも落ち着け! 確かに言いはしたが、それは──」
「言ったんですか! 今確かに言いましたね! 自分の口ではっきり──」
「まずは小娘が黙れ!」
──ごちんっ!
興奮していた廻の脳天にアルバスのげんこつが炸裂した。
あまりの音に二杉とジーンも目を丸くして廻を見ている。
「い、痛いじゃないですか、アルバスさん!」
「お前が話を引っ掻き回すからだろう! とりあえず二人の話を聞け!」
「で、でも、二杉さんは確かに言ったって──」
「だから話を聞けと言っているだろう! とりあえず黙れ、いいな!」
「……はぃ」
経営者にげんこつを落としたアルバスにも驚いていたのだが、住民であるアルバスの言葉に従っている経営者の廻にも驚いていた。
本来ならば経営者が住民に指示を出したり叱り飛ばす立場だからだ。
「……あー、それでだ。そっちの経営者様はどうしてそんなことを言ったんだ? 誤解だと言っていたが、何か理由があるんだろう?」
アルバスに促されて、二杉は困惑しながらもジーンの誤解を解く為に口を開いた。
「あ、あの時に口にしたのは、ジーンのことでは一切ない」
「……そ、それでは、何を言っていたのですか?」
「あれは──都市の入口に設置している大扉の話だ」
「…………へっ?」
「いや、あれの建付けが悪くなっていただろう? 住民からギーギー音がしてうるさいと。いくら油を差しても直らないし、それならいっそ取り換えてしまった方がいいと思ってだな……」
「……それで、替え時?」
「……すまん、あの時に言う言葉じゃなかったな」
あの時、というのは二杉が勝負の条件にアークスを戻すということと、アルバスをオレノオキニイリに移住させると言ったからだ。
ジーンはその際に反発しており、二杉の発言を自身のことと思っても仕方ないと反省していた。
「……えーっと、ということは、これで解決?」
「その通りだ。小娘が引っ掻き回すから変に時間が掛かったがな」
「……す、すいません」
「うふふ、メグルさんはジーンさんのことを心配していたからこそではないですか」
「……私のことを、心配?」
他の都市の経営者に心配されるなんてことはあり得ない、というのがこの世界に暮らす人間の考え方である。そもそも暮らしている都市の経営者にも心配されることが少ないのだから当然なのかもしれない。
「だって、最初に会った頃からジーンさんの表情があまり冴えなかったから、少し心配で……ごめんね、逆に掻き回しちゃって」
そしてすぐに謝ってくる経営者もまた新鮮だったのだろう。
二杉との間には信頼があるから分かるのだが、廻とは敵対していた相手同士なのだ。
「……み、三葉」
「……」
「……おい、三葉廻!」
「あっ! 私ですね。名字で呼ばれることがなかったから忘れそうでした」
「……すまなかったな、騒がしてしまって。アルバスにも嫌な思いをさせてしまった」
「俺は別に構わんぞ。小娘にもいい勉強になっただろうしな」
「アルバスさんの言い方はどうかと思いますが、私も気にしていませんから。ジーンさんと仲直りができてよかったですね」
二人の態度を見て、二杉は次にニーナへ視線を向ける。
「ニーナの言葉も、今になってようやく理解ができた。俺は自分の発言がどれだけの影響を及ぼすのか、それを考えていなかったんだな。本当にすまなかった」
「出過ぎた言葉でした。ですが、あの時の言葉がフタスギ様の中で何かを変えたのなら、言ったかいはありましたね」
「……ここの住民は、皆がこのような人達なのか?」
敵対していた経営者に掛ける言葉ではない。それにもかかわらずアルバスもニーナも二杉に対して普通に言葉を掛けてくれる。
廻という経営者がいるからこそなのだが、そのことを二杉はまだ知らない。
「そうですよ。私は住民みんなが笑顔で暮らせる都市を目指しています。私も都市に色々と関わってますし、だからこそ分からなかったことを知ることができました」
「……そうだな。俺もこの世界のことは今でも知らないことが多すぎる」
「知らないなら、知っている人に習えばいいんです」
「……習う、か。そういえば、この世界に来てからは気持ちも大きくなって、聞くことはあっても習うことはなかったかもしれない」
「聞くだけと習うでは大きく違いますからね」
相手から忠告されたり、こうした方がいいという意見では、ただ聞くだけになることが多い。
自分の意思で質問し、それに対して答えをもらい、その答えを実行する。
ただ聞くだけではなく、習い実行することが大事なのだ。
「……あのー、それとですねぇ」
「なんだ、どうした?」
「一応大事なことなので確認なんですけど、アークスさんの移住は問題なく認めていただけるんですよね?」
廻はアークスのことが一番気になっていた。
そもそもの勝負のきっかけがアークスの移住だったので、勝負に勝利したとはいえそこは言質を取っておきたかったのだ。
「当然だろう。勝負に負けて、約束を反故にするほど俺も落ちぶれてはいないぞ」
「……よ、よかったー! アルバスさん、やりましたよ!」
「おう。これでジーエフはさらに良くなるだろうな」
「……なあ、俺がこんなことを聞くのはお門違いかもしれないが、アークスはうまくやっているのか?」
二杉の質問に、廻はアークスがどれだけ優秀であり、アルバスの大剣も研いでみせたことを説明した。
どれだけ凄いのか二杉にはあまり伝わらなかったが、ボルキュラの名前を聞いて驚いていたジーンの反応から、ようやくアークスの腕前を認識したようだ。
「……俺は、もったいないことをしたみたいだな」
「若い人にも腕の良い鍛冶師はいるんですよ」
「そうだな。都市に戻ったら、鍛冶師達の腕前をもう一度確認するのも悪くないか」
二杉にも思うところがあったのか、これからの経営に今日の経験を活かす為に考え始める。そして、こんな提案を口にした。
「三葉、俺がこんなことを言える立場じゃないんだが──友好ダンジョン都市を結ばないか?」
二杉の提案を受けた廻は──
「……友好ダンジョン都市って、なんですか?」
初めて聞く言葉に首を傾げながらそう答えた。
10
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる