異世界ダンジョン経営 ノーマルガチャだけで人気ダンジョン作れるか!?

渡琉兎

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噂の広がり

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 換金所ではアルバスをはじめ、多くの冒険者が廻のことを待っていた。
 何事だろうと思いアルバスの横まで移動して理由を伺う。

「こいつらが明日のイベントに参加する冒険者だ」
「えっ! ……こ、こんなにですか?」

 ヤダンをはじめ多くの冒険者がイベント参加を表明しており、その数は二〇人を超えている。
 先ほどアークスに武器を研いでもらっていた冒険者もいたので、少なからず廻も貢献していた。

「俺が倒したモンスターのドロップアイテムはこいつらにやるつもりだ」
「それでいいんですか?」
「せっかく参加するのに旨味がなかったら意味がないからな」

 冒険者ランキングが低い人達は苦笑しながらも頭を軽く下げている。

「上位にいる奴らは自分で狩って、自分でアイテムを確保してもらう。まあ、場合にもよるがランダムやボスモンスターは任せるつもりだから、上質なアイテムはそいつらに渡るだろうな」

 そこも貢献度という点に反映されるのだろう。
 実力が低い冒険者にはアルバスが討伐したオートの質の低いドロップアイテムが渡る。
 実力が高い冒険者にはオートやランダムを狩らせて質の高いドロップアイテムが渡る。
 もちろんアルバスがオートやランダムを狩る場面も出てくるだろうが、その時は実力が低い冒険者の運が良かったと思えばいい。

「もちろん順番も決めているから、そこは争わないように言い聞かせている」

 アルバスのドロップアイテムは、実力が低いとされた冒険者の中でもランキングの高い順番から渡るようになっている。
 一番弱いとされた冒険者にたまたま質の高いドロップアイテムが渡ることもあるが、そこは運なので何も言わせない。
 そもそもアルバスが率いるパーティになるので文句を言える冒険者がいないのだが。

「それでだ。小娘にはその間、経営者の部屋マスタールームで俺達の戦いを見守っていてほしい」
「どうしてですか?」

 見守るのは構わないが、それをあえてアルバスが口にするということに違和感を覚えていた。

「小娘は俺やロンドの戦いしか見ていないだろう。せっかくの機会だ、他の冒険者がどういった感じでダンジョンに潜り、モンスターと戦い、命のやり取りをしているのかを見てもらった方がいいと思ってな」

 命のやり取り、というところで廻はゴクリと唾を飲み込んだ。
 アルバスの指摘通り、二人が潜っている姿はモニター越しに何度も見ていたが、他の冒険者の戦いぶりはカナタ達以外で見たことがなかった。

「それを見て、私はどうしたらいいんですか?」
「……小娘は他の経営者と違うと俺は思っているし、こいつらも思っている。だから、こいつらの戦いぶりを見て何か感じるものがあればと思っている」

 アルバスはおちょくるでもなく、ふざけているわけでもなく、あまり見せてこなかった真面目な表情で、廻を真っ直ぐに見つめながらそう告げてくる。
 いろいろと経営者には思うところがあったのだろう。それはアルバスだけではなく他の冒険者や住民も同じはず。
 そんな経営者とは違うとアルバスははっきりと口にした。それは廻にも成長してほしいと願ってのことだった。
 アルバスの真意をしっかりと理解し、受け止めた廻は集まった冒険者を眺めた後、大きく頷いた。

「分かりました。それじゃあ、明日の換金所はお休みですね」

 そんな一言に、緊張していた冒険者達からは笑いが生まれた。
 アルバスもホッとしたのか苦笑を浮かべている。
 廻としてはこんなことをしなくても、しっかりと説明してくれればちゃんと見るのにと思ってしまう。
 そんな廻の思いに気づいたのか、アルバスは頭を掻きながら今回のような面倒な事をした理由を教えてくれた。

「冒険者ってのは、必ずどこかで経営者に悪いようにされている奴が多いんだ。小娘がこいつらの前で示してくれることが大事だったんだよ」
「そう、ですか」

 現冒険者ランキング1位であるジギルですら経営者には思うところがあるようなので、経営者があれをやる、これをやる、と実際に見せることが大事だとアルバスは言う。

「本当は先に小娘に伝えておくべきだったんだが……すまんな」
「どうして謝るんですか?」
「こいつらの前で宣言してくれただろう。これは小娘を縛る行為だ。絶対にやらなければならなくなる」

 事前通告なしで経営者をはめるような行為だったとアルバスは言うが、廻の考えは違っていた。

「アルバスさんが必要と思ったからやったんですよね。だったらいいじゃないですか」
「……そうは言うがなぁ」
「私はアルバスさんを信じてますよ。私よりも知識があって経験がある。そんな人を信じられなかったら経営者なんてやってられませんよ」

 淡々とそう告げる廻に対して、アルバスは大きく息を吐き出した。そして──

「……絶対に成功させてやるよ」
「それよりも、絶対にみんなで戻ってきてくださいね?」
「それも任せろ」

 見上げる廻が満面の笑みを浮かべ、見下ろすアルバスは苦笑を浮かべる。
 対象的な表情の二人だったが、思いは同じだった。
 冒険者達も二人の様子を見てやる気を出しており、研ぎ師のアークスのところに突進していくものまでいた。
 士気は上々、これなら問題はないだろうとアルバスは口にする。

「そういえば、ロンド君とカナタ君達はいないんですか?」

 換金所に四人の姿がないことに気がついた廻がそんな疑問を口にする。

「三人組はダンジョンだからな、後で声を掛けるつもりだ」
「ロンド君は?」
「宿屋の手伝いがあるだろう」
「あー、そっか。私が手伝えないんじゃあ大変ですもんね」

 名前の出てこないポポイが手伝えれば一番いいのだが、廻もアルバスもポポイには宿屋の接客は無理だろうと考えている。
 道具屋としての対応は申し分ないのだが、それ以外では自分が興味を持ったことに突っ走ってしまう傾向があるので、変に刺激を与えてはいけないと却下された。

「あっ! ボッヘルさんとリリーナさんがいるじゃないですか!」
「家を作る方が先決だろう」
「もう出来てますよ?」
「……は?」
「だから、もう出来てるんですってば」

 この世界では大工も魔法を使う、それは常識として伝わっている。当然ながらアルバスも知っていることだ。
 それでも一日で二軒を短時間で造ってしまう腕前までは想像していなかった。

「……あー、そうか。うん、それなら大工の二人には小娘から声を掛けてくれるか?」
「分かりました。それじゃあロンド君にはアルバスさんがお願いしますね。それと──」

 そこまで言って、まだ何かあるのかとアルバスは首を傾げている。

「この人達、どうにかして落ち着かせてくださいね?」

 やる気に満ち溢れている冒険者達は、士気としてはとても良いのだが、これ以上換金所でドタバタされると何かしら損害が出る恐れがある。
 廻では止めることができないので、それをアルバスにお願いしたのだ。

「……あー、そうだな。俺がやっとくから小娘は大工のところに行ってくれ」
「はーい」

 廻が換金所を出てから数秒後──

「てめえら! おとなしくしやがれええええええぇっ!」

 アルバスの怒声が聞こえてきたので、廻は安心してジレラ夫妻のもとに向かった。
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