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希少種

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 アルバスの驚きの声に、廻の方が驚いていた。
 いつも飄々としており、時に真面目に注意をする、どこか冷静に回りを見ているアルバスから出た驚きの声を始めて聞いたからだ。
 視線をニャルバンに向けると、廻と同様に驚いている。

「あの、アルバスさん。グランドドラゴンってなんですか? レア度3ですよね?」

 レア度が4でも5でもないモンスターにこれ程驚くものだろうか。

「……こいつは、希少種だ」
「希少種? ニャルバンは知ってる?」
「聞いたことはあるけど始めてみるのにゃ」

 モンスターの中にはレア度が存在する。
 その中でもさらにレアな存在、それが希少種だ。
 同じレア度同士でも見た目に大きな違いはあるものの、最終的な能力はだいたい同じになる。
 だが希少主は違う。同じレア度であっても最終的な実力は一つ上のレア度に匹敵すると言われていた。

「でも、それだったらレア度4にしてもいいんじゃないですか?」

 廻の疑問に答えたのはニャルバンだ。

「レア度の設定は進化できる回数で決められているにゃ」
「そうなの?」
「グランドドラゴンがレア度3なのは、あと二回進化できるからなのにゃ。レア度5が最高なのに変わりないのにゃ」
「……できるかは分からんが、こいつがレア度5までいったら、最高のダンジョンが出来上がるんじゃないか?」

 興奮するアルバスを見て、廻は徐々に嬉しさが込み上げてきた。
 当初はレア度3しか出なかったと落ち込んでいたのだが、実質レア度4相当の実力を秘めているグランドドラゴンがいればオレノオキニイリに負けないダンジョンになると自信を持てるからだ。

「──にゃにゃ? メグルー、また特典が手に入ったにゃー!」
「えっ? このタイミングで特典って、何の特典?」
「えっとー……レア度3の獲得数五匹突破なのにゃ!」
「そういえば獲得数とかあったわね」

 どのような条件で特典が手に入るのかよりも、特典が何なのかが気になっている廻。
 ニャルバンから特典の内容を聞くと、それは今までの特典の中でも最上級に嬉しい代物だった。

「特典は──レア度3進化フードなのにゃ!」
「……進化、フード?」
「……なんだそりゃ?」
「名前通りなのにゃ! レア度3のモンスターに食べさせたら、レベルに関係なくレア度4に進化できるのにゃ!」
「「…………はあっ!?」」

 あまりにも衝撃的な特典に廻だけではなくアルバスも素っ頓狂な声をあげていた。

「ま、待て待て、レア度4ってのはどういうことだ? 昇華をして、レベルを最大まで上げてようやく進化だろ?」
「普通はそうだにゃ。だけどこの道具を使えばすぐに進化できる素晴らしい道具なのにゃ!」
「……そ、そんな道具があるなら早くちょうだいよ!」
「これは神様からの特典だから僕があげてるわけじゃないのにゃー」

 廻もいきなり進化できるなんて便利な道具があるとは思わず、驚くとともに憤慨していた。
 今までの頑張りはなんだったのかと。
 だが、レア度3進化フードの有用性は誰が見ても分かるので、神様への怒りは一旦納めることにした。

「だったら、これを使ってグランドドラゴンをレア度4に進化させれば良いってことですよね!」
「……いや! ちょっと待て!」

 そこに待ったをかけたのはアルバスだった。

「どうしたんですかアルバスさん。迷う必要はないと思いますけど?」
「グランドドラゴンを進化させるのは決定事項だ。その前にダンジョンをどうするかを考えないといかん」
「ダンジョンを? ……あー、階層と配置ですね?」

 現在は一〇階層まで開放しており、モンスターはストナのレベル上げに使用して数が少なくなっている。
 グランドドラゴンを配置する為に一五階層まで開放した場合、ランダムと他の階層ボスをどうするかが問題になってしまう。

「今日のノーマルチケットも使ってますし、モンスターを増やすにはどうしたら……」
「1000ゴルでノーマルガチャだったら引けるのにゃ!」
「ゴルかよ! ……って、引けるのか?」

 ゴルで引けることを知らなかったアルバスがニャルバンに詰め寄る。

「ひ、引けるのにゃ! メグルにもちゃんと伝えてるのにゃ!」
「聞いてるわよ。だけどゴルも少ないんだし引けるわけないじゃないの!」
「いやいや、少ないわけないだろ。ここ最近は冒険者達も集まって潜ってるんだぞ?」
「……言われてみるとそうですね。ここに来て最初の頃に言われたから、ゴルはないって思ってましたよ」
「……て、てめえなあ!」
「そ、そんなに怒らないでくださいよ! すぐに確認しますから!」

 アルバスの握りこぶしを見て慌てて確認する廻。
 メニューを開いてダンジョン画面から所持ゴルを確認する。

「えっとー……んっ? もう一回……あれ? んんー?」
「何やってんだ? まさかゴルを数えられないとか言わねえよなあ?」
「ち、違いますよ! ちょっと、予想外に多かったから数え直してるんです!」
「予想外に多かった? それは良いことじゃねえか」
「そうなんですけどね……えっとですね、25350ゴルあります」

 ダンジョンを開放してからもうすぐ一ヶ月と二週間が経過しようとしている。
 その間、多くの冒険者がダンジョンに潜り換金所を利用してくれている。換金されたアイテムの価値に合わせて一定の資金がダンジョンに入ることは廻も知っていた。
 だが知らないこともあった。それは廻が直接契約しているニーナやポポイが働く宿屋や道具屋の売上の一部もダンジョンの資金──つまり、廻のお金になることだった。

「これなら問題なくガチャってやつを回せるのか?」
「まあ、一応。でもゴルもいくらかは残しておきたいですね。ニャルバン、月のゴルはどれくらい残してた方がいいとか分かる?」
「よく分からないのにゃー」
「……そうだよね」
「ご、ごめんなのにゃ」

 とても申し訳なさそうにしているニャルバンは置いておき、廻はとりあえず五回ノーマルガチャを引くことにした。

「五回引いて、その後に追加で引くかを考えます」
「いいんじゃないか」
「引いてみるのにゃ!」
「……それで、どうやって引くのかしら? ガチャチケットでしか引いたことがないんだけど?」

 廻の言葉にニャルバンが慌ててゴルでガチャを引く方法を説明し始めた。

「ダンジョンの項目の中にガチャがあるのにゃ! そこを押して、1000ゴルの使用に許可してくれたら引けるのにゃ!」
「へぇー。あっ、まとめて一〇回までは引けるのね。それじゃあとりあえず5000ゴルっと。これで許可だね……よしできた!」

 廻の声に合わせて目の前に六芒星の魔法陣が五つ現れる。
 そのうち二つが青色、一つが黄色に変わり廻はドキドキしていた。

「ま、またレア度3だわ!」
「なんだ、普通に出るじゃねえか」

 一カ月以上もレア度3が出てこなかったノーマルガチャだったが、ここに来て二回も出てくるとは夢にも思っていなかった。
 アルバスの溜息混じりの言葉には気も留めずにどんなモンスターが出てくるかを今か今かと待ち望む。
 最初に姿を現したのはレア度1のマジシャンとゴブリン。
 次に姿を現したのはレア度2のハイゾンビとゴーストナイト。
 最後にレア度3のシルエットが露わになる。

「み、見たことないシルエットですよ!」

 興奮がピークに達した廻が見たレア度3、それは――とても愛らしいマスコット的なモンスターだった。

「何このモンスター! 超可愛いんですけど! もふもふでくりっくりだわ!」

 純白の体毛に大きな瞳。体長は廻の膝あたりまでしかなく、レア度3とは思えない程にか弱く見える猫のような見た目のモンスター。

「希少種ではないが、こいつもあまり見ないモンスターだな」
「アウリーラウだにゃ!」
「アウリーちゃんに決定だわ!」

 アウリーを抱きしめながら廻は完全に頬が緩んでいる。

「……あー、言っちゃあ悪いが、アウリーラウの一番の攻撃は──おならだぞ?」
「可愛い! あー、もふもふだよー。おならもきっと可愛いんですよねー」
「……超臭い」
「そうなんですねー、超臭いんですねー……えっ?」
「最大の攻撃手段が、その超臭いおならだ」
「……ええええええぇぇっ! 嫌です、そんなの嫌ですよ! こ、こんなに可愛いのに!」
「アウリーラウもモンスターなのにゃ。だから仕方ないのにゃ」
「し、仕方なくありませんよー!」
「……キュキュ?」

 可愛い鳴き声を出すアウリーに身悶える廻を見て、アルバスとニャルバンを溜息をつく。
 だが、五回のノーマルガチャのおかげで累計モンスター獲得数の特典として更に経験値の実を手に入れられたことは良かったとアルバスは呟いていた。
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