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第2章:新たな出会い
談笑と移住?
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ジギルも吹っ切れたのか、その後は食事を楽しみながら三人で談笑を行い、我慢しきれなくなったポポイが宣伝をしに突っ込んできた。
「わ、私の火炎瓶はいかがでしょうか!」
何事かとジギルは怪訝な表情を浮かべていたのだが、ポポイの説明を聞いていく中で表情が一変し、興味を持ったのかそのまま道具屋へと二人で移動してしまう。
手伝いを終えたロンドが戻ってくると、ジギルとのやり取りについて説明がされて一人ホッと胸をなでおろしていた。
「アルバス様がいなくなったらと思うと、気が気じゃなかったんですよ」
「まあ、内心では私もそうだったけどね」
「そうなのか?」
全く気づいていなかったアルバスは疑問の声を上げる。
「当然じゃないですか! アルバスさんが抜けちゃったらジーエフは潰れますよ」
「だったらなぁ……」
「でも、縛れないと言ったのも本音です。もしそうなっていたら、意地でもなんとかしますから。アルバスさんが抜けたから都市が一つ潰れたなんて変な噂が流れてほしくもないですからね」
「……へぇへぇ、そうですか」
「な、なんですかその気のない返事は! 酷いですよー!」
少しの恥ずかしさをひた隠しながら、アルバスはおどけた様子で口にする。
「本当に、二人とも仲が良いですね」
「「良くない!」」
「うふふ、本当にねぇ」
ニーナが参戦してくると二人は何も言い返すことができずに黙ったままお互いに睨み合っている。
その光景がまた面白く、ロンドとニーナは笑ってしまった。
そこに戻ってきたポポイとジギルは首を傾げている。その手には大量の火炎瓶と影縫いを抱えていた。
「何々、どうしたんですか?」
「私達も仲間に入れなさいよ!」
二人のやり取りをニーナが説明して、さらなる笑いが生まれる。
この日の食堂は、とても賑やかだった。
※※※※
結局、ジギルは宿屋に泊まり翌朝にはジーエフを経つことになった。
ダンジョンに潜らないのかと廻が聞いていたが、アルバスが止めていた。
「こいつ、現冒険者ランキングトップの女だぞ?」
その一言で皆が潜らないことを納得した。
たかだかレア度2のモンスターでは一瞬で蹴散らされ、準備運動にもならずあっという間に攻略されてしまうだろう。
ジギルもそのことを理解しており、ダンジョンに潜ることはしなかった。
その代わりではないのだが、こんなことをポツリと呟いていた。
「──私もここに移住しようかしら」
廻は諸手を挙げて喜ぼうとしたのだが、それをアルバスがもの凄い勢いで止めていた。
「おま、アホか! ジーエフを潰す気かよ!」
「バカね、私もすぐにってわけじゃないわよ。それくらい分かってるんだから」
一人だけ置いてけぼりの廻が首を傾げていると、隣からロンドが説明してくれた。
「ジギル様ほどの方が移住となると、元々暮らしていた都市からの反感が強くなるんです。さらに上の都市への移住なら穏便に住むこともありますけど、格下の都市へ移住となればこちらを潰そうという動きがあってもおかしくないんですよ」
「そ、そうなんだ。自由に移住できないなんて、世知辛い世の中ですね」
「……どこでそんな言葉を覚えてきたのかしらね」
「……中身は大人らしいから、まあどっかで覚えてきたんじゃないか」
「そうなの?」
「そうなのです」
今度はジギルが首を傾げ、廻がない胸を張りながらドヤ顔を浮かべる。
「まあ、私は見た目の可愛さ重視だから気にならないけどねー」
「うふふー、くすぐったいですよジギルさーん」
現在、ジギルが隣に座っている廻を両手で抱きしめている。
アルバスもジギルが可愛いもの好きだったことを知らなかったようで呆れ顔を浮かべながらの会話になっていた。
「でも、ジギルさんが将来的にこっちに移住するとしたらどれくらいのランキングまで上がればいいんでしょうね?」
「そうねぇ。私が居るところがランキング53位だから、せめて100位以内に入ってもらわなきゃかな」
「絶対に無理ですね!」
「諦めるの早いな!」
廻の潔さにアルバスが素早くツッコミを入れた。
「だって、まだ1013位なんですよ! 無理に決まってるじゃないですか!」
廻の言い分も理解できる。
現状、五階層までのダンジョンでモンスターの最高レア度は2、冒険者からは可もなく不可もなくといった評価である以上、100位以内を目指すのが遠い先になると誰もが分かっていることだった。
「ギリギリ500位だったらいけるけど、それだと少しいざこざが起こる可能性もあるからね」
「500位でも遠いですよ!」
「でも、どうして500位ならギリギリなんですか?」
疑問を口にしたのはロンドだった。
「移住の場合、最低でも順位差が50位内であれば比較的スムーズに移住が成立するの。上の順位の方が固辞すると揉めることもあるけど、あまり聞かないわね。その中で順位の十倍まで、53位であれば細かく言うと530位までなら移住は認められているわ。だけど、それだと順位の開きが大きいから上位の都市から色々と条件を付けられちゃうのよね」
移住にも様々な条件があることに廻は驚いていた。自分だったら自由に言ってきていいよと言ってしまいそうだが、それではダメなようだ。
「あれ? でも他の人達もみんな50位以上放れたランキングの都市に住んでたよね? 移住と契約はまた違うのかな?」
「経営者の話? もしそうなら私にも分からないわよ?」
「まあ、そうですよね。後でニャルバンにでも聞いてみようかしら」
一人で首を傾げる廻を見ながら、ジギルが話を戻すために口を開く。
「もし500位とかで移住するなら私もなるべくは口出ししてジーエフが不利にならないよう努力するけど、多少の要求は飲まなきゃ無理ね」
「そんな条件付きなんて嫌ですよー。……いつになるか分かりませんけど、ジギルさんが生きているうちに移住できたらいいですね」
「ちょっと、不吉なこと言わないでよ」
「だって、寿命って誰にでもあるじゃないですか」
「あー、そういうことね」
「んっ? どういうことですか?」
廻は平和な世界で生きてきた。世界規模で見れば戦争だったり、テレビの中では殺人のニュースなども流れていたものの、廻の身近では物騒な事件というのは起きてこなかった。
そして、ジーエフでも解放から今日までの間で人死は出ていない。そのせいか、殺されるという可能性を自然と排除して会話してしまうのだ。
「私達冒険者はダンジョンに殺されることもあるからさ。そういった意味で不吉なことって言ったのよ」
「あっ! そ、その、ごめんなさい! そういった意味で言ったんじゃなくて、その……」
「大丈夫、分かってるからさ。なんでかな、メグルちゃんからは悪意ってのが伝わってこないんだよね。経営者なのにさ」
ジギルほどの冒険者からも経営者批判にも似た言葉が呟かれる。
53位の都市ともなればきっと大都市なのだろう。繁栄もしておりそこに暮らす住民も幸せを享受していると思っていたのだが、そうではないのだろうか。
「ねえアルバス。私は本当に宿屋に泊まらなきゃダメなの?」
「他に泊まるところがないからな」
「あんたの家に泊めてくれたらお金が浮くんだけど?」
「しっかりとお金を落としていってくれ」
「じゃあ、お金は払うからそっちに泊めてよ」
「絶対にダメだからな! っていうかガキ共の前でそんな話してんじゃねえよ!」
「そんな話ってどんな話よ?」
「あー、私は構いませんよ? アルバスさんが女遊びをしてるのは知ってますし」
「……へぇ?」
「あっ! て、てめえ、あれは冗談であってだなあ!」
「アルバース、ちょっとこっちおいでー?」
氷のような視線を向けるジギルに何も言えなくなったのか、アルバスは無言のまま立ち上がり外に出て行った。
「……メ、メグル様、あれって大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないの? 人の好意を無下にする人じゃないと思うしさ」
「うふふ、メグルさんは人を見る目がおありのようですね」
「やだ、褒めないでよニーナさん」
一人置いていかれているロンドは視線をポポイに向けたのだが──
「ぐふふっ、沢山売れたわよ! これで私の商品が有名になるわ!」
金の亡者──いや、道具の亡者は自身が開発した商品が売れたことを一人笑みを浮かべながら喜んでおり、ロンドが声を掛けられる雰囲気ではなかった。
「……僕、もう寝よっかな?」
誰も聞いていないだろう呟きをこぼしながら、ロンドは目の前にある晩ご飯を一人黙々と食べていくのだった。
「わ、私の火炎瓶はいかがでしょうか!」
何事かとジギルは怪訝な表情を浮かべていたのだが、ポポイの説明を聞いていく中で表情が一変し、興味を持ったのかそのまま道具屋へと二人で移動してしまう。
手伝いを終えたロンドが戻ってくると、ジギルとのやり取りについて説明がされて一人ホッと胸をなでおろしていた。
「アルバス様がいなくなったらと思うと、気が気じゃなかったんですよ」
「まあ、内心では私もそうだったけどね」
「そうなのか?」
全く気づいていなかったアルバスは疑問の声を上げる。
「当然じゃないですか! アルバスさんが抜けちゃったらジーエフは潰れますよ」
「だったらなぁ……」
「でも、縛れないと言ったのも本音です。もしそうなっていたら、意地でもなんとかしますから。アルバスさんが抜けたから都市が一つ潰れたなんて変な噂が流れてほしくもないですからね」
「……へぇへぇ、そうですか」
「な、なんですかその気のない返事は! 酷いですよー!」
少しの恥ずかしさをひた隠しながら、アルバスはおどけた様子で口にする。
「本当に、二人とも仲が良いですね」
「「良くない!」」
「うふふ、本当にねぇ」
ニーナが参戦してくると二人は何も言い返すことができずに黙ったままお互いに睨み合っている。
その光景がまた面白く、ロンドとニーナは笑ってしまった。
そこに戻ってきたポポイとジギルは首を傾げている。その手には大量の火炎瓶と影縫いを抱えていた。
「何々、どうしたんですか?」
「私達も仲間に入れなさいよ!」
二人のやり取りをニーナが説明して、さらなる笑いが生まれる。
この日の食堂は、とても賑やかだった。
※※※※
結局、ジギルは宿屋に泊まり翌朝にはジーエフを経つことになった。
ダンジョンに潜らないのかと廻が聞いていたが、アルバスが止めていた。
「こいつ、現冒険者ランキングトップの女だぞ?」
その一言で皆が潜らないことを納得した。
たかだかレア度2のモンスターでは一瞬で蹴散らされ、準備運動にもならずあっという間に攻略されてしまうだろう。
ジギルもそのことを理解しており、ダンジョンに潜ることはしなかった。
その代わりではないのだが、こんなことをポツリと呟いていた。
「──私もここに移住しようかしら」
廻は諸手を挙げて喜ぼうとしたのだが、それをアルバスがもの凄い勢いで止めていた。
「おま、アホか! ジーエフを潰す気かよ!」
「バカね、私もすぐにってわけじゃないわよ。それくらい分かってるんだから」
一人だけ置いてけぼりの廻が首を傾げていると、隣からロンドが説明してくれた。
「ジギル様ほどの方が移住となると、元々暮らしていた都市からの反感が強くなるんです。さらに上の都市への移住なら穏便に住むこともありますけど、格下の都市へ移住となればこちらを潰そうという動きがあってもおかしくないんですよ」
「そ、そうなんだ。自由に移住できないなんて、世知辛い世の中ですね」
「……どこでそんな言葉を覚えてきたのかしらね」
「……中身は大人らしいから、まあどっかで覚えてきたんじゃないか」
「そうなの?」
「そうなのです」
今度はジギルが首を傾げ、廻がない胸を張りながらドヤ顔を浮かべる。
「まあ、私は見た目の可愛さ重視だから気にならないけどねー」
「うふふー、くすぐったいですよジギルさーん」
現在、ジギルが隣に座っている廻を両手で抱きしめている。
アルバスもジギルが可愛いもの好きだったことを知らなかったようで呆れ顔を浮かべながらの会話になっていた。
「でも、ジギルさんが将来的にこっちに移住するとしたらどれくらいのランキングまで上がればいいんでしょうね?」
「そうねぇ。私が居るところがランキング53位だから、せめて100位以内に入ってもらわなきゃかな」
「絶対に無理ですね!」
「諦めるの早いな!」
廻の潔さにアルバスが素早くツッコミを入れた。
「だって、まだ1013位なんですよ! 無理に決まってるじゃないですか!」
廻の言い分も理解できる。
現状、五階層までのダンジョンでモンスターの最高レア度は2、冒険者からは可もなく不可もなくといった評価である以上、100位以内を目指すのが遠い先になると誰もが分かっていることだった。
「ギリギリ500位だったらいけるけど、それだと少しいざこざが起こる可能性もあるからね」
「500位でも遠いですよ!」
「でも、どうして500位ならギリギリなんですか?」
疑問を口にしたのはロンドだった。
「移住の場合、最低でも順位差が50位内であれば比較的スムーズに移住が成立するの。上の順位の方が固辞すると揉めることもあるけど、あまり聞かないわね。その中で順位の十倍まで、53位であれば細かく言うと530位までなら移住は認められているわ。だけど、それだと順位の開きが大きいから上位の都市から色々と条件を付けられちゃうのよね」
移住にも様々な条件があることに廻は驚いていた。自分だったら自由に言ってきていいよと言ってしまいそうだが、それではダメなようだ。
「あれ? でも他の人達もみんな50位以上放れたランキングの都市に住んでたよね? 移住と契約はまた違うのかな?」
「経営者の話? もしそうなら私にも分からないわよ?」
「まあ、そうですよね。後でニャルバンにでも聞いてみようかしら」
一人で首を傾げる廻を見ながら、ジギルが話を戻すために口を開く。
「もし500位とかで移住するなら私もなるべくは口出ししてジーエフが不利にならないよう努力するけど、多少の要求は飲まなきゃ無理ね」
「そんな条件付きなんて嫌ですよー。……いつになるか分かりませんけど、ジギルさんが生きているうちに移住できたらいいですね」
「ちょっと、不吉なこと言わないでよ」
「だって、寿命って誰にでもあるじゃないですか」
「あー、そういうことね」
「んっ? どういうことですか?」
廻は平和な世界で生きてきた。世界規模で見れば戦争だったり、テレビの中では殺人のニュースなども流れていたものの、廻の身近では物騒な事件というのは起きてこなかった。
そして、ジーエフでも解放から今日までの間で人死は出ていない。そのせいか、殺されるという可能性を自然と排除して会話してしまうのだ。
「私達冒険者はダンジョンに殺されることもあるからさ。そういった意味で不吉なことって言ったのよ」
「あっ! そ、その、ごめんなさい! そういった意味で言ったんじゃなくて、その……」
「大丈夫、分かってるからさ。なんでかな、メグルちゃんからは悪意ってのが伝わってこないんだよね。経営者なのにさ」
ジギルほどの冒険者からも経営者批判にも似た言葉が呟かれる。
53位の都市ともなればきっと大都市なのだろう。繁栄もしておりそこに暮らす住民も幸せを享受していると思っていたのだが、そうではないのだろうか。
「ねえアルバス。私は本当に宿屋に泊まらなきゃダメなの?」
「他に泊まるところがないからな」
「あんたの家に泊めてくれたらお金が浮くんだけど?」
「しっかりとお金を落としていってくれ」
「じゃあ、お金は払うからそっちに泊めてよ」
「絶対にダメだからな! っていうかガキ共の前でそんな話してんじゃねえよ!」
「そんな話ってどんな話よ?」
「あー、私は構いませんよ? アルバスさんが女遊びをしてるのは知ってますし」
「……へぇ?」
「あっ! て、てめえ、あれは冗談であってだなあ!」
「アルバース、ちょっとこっちおいでー?」
氷のような視線を向けるジギルに何も言えなくなったのか、アルバスは無言のまま立ち上がり外に出て行った。
「……メ、メグル様、あれって大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないの? 人の好意を無下にする人じゃないと思うしさ」
「うふふ、メグルさんは人を見る目がおありのようですね」
「やだ、褒めないでよニーナさん」
一人置いていかれているロンドは視線をポポイに向けたのだが──
「ぐふふっ、沢山売れたわよ! これで私の商品が有名になるわ!」
金の亡者──いや、道具の亡者は自身が開発した商品が売れたことを一人笑みを浮かべながら喜んでおり、ロンドが声を掛けられる雰囲気ではなかった。
「……僕、もう寝よっかな?」
誰も聞いていないだろう呟きをこぼしながら、ロンドは目の前にある晩ご飯を一人黙々と食べていくのだった。
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