職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
51 / 56
第1章:異世界転生

冒険者ギルドでのやり取り

しおりを挟む
 その後、俺たちは縛り上げた冒険者三人を引きずりながらゼルジュラーダへと戻っていった。
 冒険者ギルドにいた者は皆が驚いていたものの、リリアーナが事情を説明するとギルドも含めて全員が納得していた。
 これが俺の言葉であれば誰も納得しなかっただろうから、上級冒険者の言葉の重みは相当なものだと理解してしまう。
 ゼルジュラーダが滅んでいたかもしれない重大な事件だったこともあり、ギルマス直々の対応が決定した。

「ところで、そこのお嬢ちゃんはどちら様だ?」

 ギルマスは俺とリリアーナの後ろからついて来ていたレイチェルに視線を向ける。
 ここで嘘をつけば変に怪しまれる可能性もあるので、事前にリリアーナとも話をしていたのでギルマスにだけはレイチェルのことを話すことにした。

「……できれば個室で話をしたいんですけど」

 俺がそう言うと、有無を言わさずギルマスの部屋に通された――ではなく、連行されてしまった。

「さて、それでは説明してもらおうか。まあ、薄々は気づいているがな」
「気づいているって、そうなんですか?」
「あぁ。そのお嬢ちゃんは、あのドラゴンなんだろう?」
「――!」

 レイチェルの表情が緊張に包まれる。
 俺はレイチェルを庇うようにして背中の方へと移動させた。

「いや、取って喰おうと思っているわけじゃないぞ! あぁぁ、怖がらせたのなら謝る! こ、これは、アマカワがすぐに説明しないのがいけないんだぞ!」
「……ギルマス、その態度の変化はなんですか?」
「えっと、師匠はかわいいものが大好きだから、レイチェルをもっと見ていたいんだと思うよ」
「……私は、かわいくないわ」
「何を言っているのよ! お嬢ちゃん……レイチェルちゃんはとってもかわいいわよ! アマカワは規格外としてね!」
「おい、なんだか聞き捨てならない発言があったんだが――」
「確かに」
「アマカワさんは例外ですね」

 ……えっ、二人もそんなこと言うの?

「……は、話を戻してもいいですか?」
「うー……まあ、仕方ないわね」
「はぁ。えっと、ギルマスが言う通り、レイチェルはあのドラゴンです。先ほどもリリアーナが説明しましたが、捕らえた三人が誰かの依頼を受けてレイチェルが暮らしていた森に毒を撒きました。毒を撒いたのはデブの冒険者です」
「らしいな。アマカワが提供してくれた毒から解毒剤を調合中だから、それが出来上がったらすぐに出発してくれるか?」
「もちろんです。リリアーナも構わないか?」
「同然よ! レイチェルを助けるのは私たちなんだからね!」

 俺たちが黙々と話を進めていく様子を見て、レイチェルは困惑顔を浮かべていた。

「ん? どうしたんだ?」
「あの、どうして誰も私のことを疑わないのですか?」
「疑わないも何も、嘘を言っていないからな」
「……言っていたら?」
「言っていないんだろう?」
「それは、そうですけど……その、ギルドマスターさんまで信じてくれているので、不思議に思ったんです」
「私はかわいい子を疑ったりはしないわよ!」

 ウインクをしながらそう口にしたギルマスを見たレイチェルは若干だが引いている。

「……ギルマス」
「まあ、冗談はさておき! 私は冒険者ギルドのギルドマスターとして真実を見抜かなければならない。最初に駆け込んできた冒険者の話を聞いたけど、それだけで全てを判断するわけにはいかないわ」
「でも、冒険者ギルドは冒険者の味方ではないのですか?」
「基本はその通り。でも、疑うことをせずに信じることはしない。それでは真実を見失ってしまうからね。駆け込んできたのは長髪の冒険者だったが、あいつはブレスで仲間が灰にされたと言っていたが、実際は違ったわね。その時点で、私は長髪の情報を信じるに値しないものだと判断したわ」
「それで、次に情報を持ち込んだのが俺たちだったってことか」
「その通り。そして、その情報は間違いないと判断したわ。ちなみにレイチェルちゃんは、体の一部だけをドラゴンに変化させたり、この部屋に収まるサイズで全身を変化させることはできる?」
「一部の変化なら、問題ないと思います」
「それができれば完全に信用できるわ。お願いできるかしら?」
「……分かったわ」

 おぉ、そんなこともできるのか。
 俺たちは壁際に移動してレイチェルを見守る。
 すると、レイチェルの右腕がドラゴンだった時と同じ漆黒の鱗を持った腕に変化した。

「これで、どうかしら?」
「うん、これで完全にレイチェルちゃんのことを信用するわ。それにしても、体の一部を変化させるドラゴンか、凄いわね」
「これはそんなに凄いことなのか?」
「そうよ。一部の変化はドラゴンのなかでも上位種にしかできないものと言われているの。そもそも、人間体に変化できるドラゴンが少ないのだから、レイチェルちゃんは相当位の高いドラゴンなんじゃないかしら」

 ギルマスの言葉を受けて俺はレイチェルに視線を向けたのだが、当の本人は首を傾げている。

「……えっ、知らないのか?」
「う、うん。もう長いこと森の中で暮らしていたから」

 そんなことって、あるのか?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...