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第1章:異世界転生
ドラゴン
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冒険者ギルドの外に出ると全ての人が東の空に目を向けている。
その表情はどれも恐怖に染まり、この世の終わりでも見たような表情をしていた。
「いったい何が……お、おぉ」
「あれが、ドラゴン……!」
真っ赤な瞳、漆黒の鱗、鋭い牙と爪、そして──禍々しいオーラ。
というか、オーラって目で見えるものなんだろうか。それが見えてるってことは、こいつは相当ヤバいってことじゃないのか?
「……な、なあ、リリアーナ。あのドラゴンって、ゲビレットとかオルトロスと比べてどれくらい強いか分かるか?」
「……比べ物にならないくらいに強いと思うわよ」
「……だよなぁ」
特にヤバいのは強さとかの前に飛んでるってことだ。
魔法が使えるリリアーナならともかく、俺はドラゴンを地上に落とさないと手も足も出ない。
「どうする? 死ぬかもしれないけど──」
「行くに決まってるだろ? 考えていることもあるしな」
「……即答なのね」
「リリアーナが行くからな」
「……ありがと」
少し照れ臭そうにしているリリアーナも可愛いな……って、今はそんなことを考えている場合じゃないな。
「行こうか」
「そうだな。ゼルジュラーダに被害が出たら元も子もないし」
そして俺たちは再び走り出す。今度はゼルジュラーダの外へ、東の森の方へ。
※※※※
不思議なもので、ドラゴンは東の森の上空から動くことなくホバリングで止まっている。
俺たちはというと向かいながら元から森の中にいただろう冒険者とすれ違いながら突き進んでいた。
「これだけいて、なんで誰も立ち向かおうとしないんだ?」
「ドラゴンってのは、弱い個体でも上級冒険者じゃないと倒せないと言われているのよ。だから、どこにでもいるような冒険者じゃあ勝てるわけがないってこと!」
どこにでもいるような冒険者って……まあ、俺は新人だけどどこにでもいる奴じゃないよなぁ。
「……なあ、あのドラゴンなんだけど、こっちを見てないか?」
「こっちというより、アマカワを見ているように感じるんだけど」
「リリアーナもそう思うか?」
「……もしかして、ドラゴンの狙いって、アマカワなの?」
リリアーナがそう口にした途端、ドラゴンから再び咆哮があがった。
『グルオオオオオオオオォォォォッ!』
大きな翼を広げての咆哮は、その姿をより大きく見せて力のない相手を恐慌状態に陥れたことだろう。
しかしどうしたことか、リリアーナはともかく俺もその姿を見ても怖いとは思っても恐慌状態になることはなかった。
「……アマカワ、あなたすごいわね」
「そうか?」
よく分からないが、俺には効かないようだ。
そんなことを話していると、俺たちは東の森に足を踏み入れた。
ここまで来たらやれることはある。俺がそう考えていると、リリアーナも同じことを考えていたようだ。
「アマカワ、あなたも同じことを考えているんでしょう?」
「だろうな。っていうか、俺にはそれしかないからさ」
「分かった、お願い!」
「いくぞ――重力制御!」
俺はドラゴンがいる範囲に強力な重力磁場を発生させて重さを二倍にする。
この重力制御だが、俺自身に使う場合は重さを重くしたり軽くしたりが自由なのだが、別の対象に使う場合はそうはいかない。というか、対象を個別に選べないのだ。
できることといえば今のように重力磁場を一定範囲に作り出すこと。
今回はドラゴンがいる上空、そしてその下の方に重力磁場を作り出していた。
『グルオアッ!』
「よし、落ちてきたわね!」
「リリアーナ、いけるか!」
「当然、それじゃあぶっ放すわよ――サンライズセイバー!」
徐々に地面に近づいていくドラゴン。その頭上には光で作られた巨大な剣が顕現した。
刀身を地面に向けた形の光の剣は、身動きが取れなくなっているドラゴンめがけて突き放たれた。
『グ、グルオ、グルゴアアアアアァァッ!』
「いっけええええええぇぇっ!」
ドラゴンは重力磁場から抜け出せないと悟ったのか、首を上に向けるとサンライズセイバーめがけてブレスを吐き出した。
漆黒のブレスは光を黒く染めていくが、それでもサンライズセイバーは止まることなく地面へと近づいていき――そして、ドラゴンを貫いた。
『グギャアアアアアアアアァァァァッ!』
そのまま地面に叩きつけられたドラゴンは、サンライズセイバーの光に包まれて爆散した。
巻き上がる砂煙から目を腕で隠し、直後には衝撃波が俺の体に襲い掛かる。
しばらくその場から動けなかったのだが、衝撃が止むと静寂が辺りを包み込んでいた。
「……や、やったのか? 意外とあっけなかったけど」
「……はぁ……はぁ……はぁ……こ、これで、やれてなかったら、もう無理だわ」
「リリアーナ! だ、大丈夫か?」
「わ、私の魔力を、全部ぶち込んだからね……さすがに、疲れたかな」
額から汗が流れ落ち、体もわずかだが震えている。
「……ドラゴンの様子は俺が見てくるよ。だからリリアーナは休んでいろ」
「ダ、ダメよ、アマカワ。もし、ドラゴンがまだ生きていたら、その時は――」
『グルルルルゥゥ……』
俺もリリアーナも、弾かれたようにいまだ晴れない砂煙の先に視線を向ける。
……くそっ、どうやらまだやれるみたいだな。
その表情はどれも恐怖に染まり、この世の終わりでも見たような表情をしていた。
「いったい何が……お、おぉ」
「あれが、ドラゴン……!」
真っ赤な瞳、漆黒の鱗、鋭い牙と爪、そして──禍々しいオーラ。
というか、オーラって目で見えるものなんだろうか。それが見えてるってことは、こいつは相当ヤバいってことじゃないのか?
「……な、なあ、リリアーナ。あのドラゴンって、ゲビレットとかオルトロスと比べてどれくらい強いか分かるか?」
「……比べ物にならないくらいに強いと思うわよ」
「……だよなぁ」
特にヤバいのは強さとかの前に飛んでるってことだ。
魔法が使えるリリアーナならともかく、俺はドラゴンを地上に落とさないと手も足も出ない。
「どうする? 死ぬかもしれないけど──」
「行くに決まってるだろ? 考えていることもあるしな」
「……即答なのね」
「リリアーナが行くからな」
「……ありがと」
少し照れ臭そうにしているリリアーナも可愛いな……って、今はそんなことを考えている場合じゃないな。
「行こうか」
「そうだな。ゼルジュラーダに被害が出たら元も子もないし」
そして俺たちは再び走り出す。今度はゼルジュラーダの外へ、東の森の方へ。
※※※※
不思議なもので、ドラゴンは東の森の上空から動くことなくホバリングで止まっている。
俺たちはというと向かいながら元から森の中にいただろう冒険者とすれ違いながら突き進んでいた。
「これだけいて、なんで誰も立ち向かおうとしないんだ?」
「ドラゴンってのは、弱い個体でも上級冒険者じゃないと倒せないと言われているのよ。だから、どこにでもいるような冒険者じゃあ勝てるわけがないってこと!」
どこにでもいるような冒険者って……まあ、俺は新人だけどどこにでもいる奴じゃないよなぁ。
「……なあ、あのドラゴンなんだけど、こっちを見てないか?」
「こっちというより、アマカワを見ているように感じるんだけど」
「リリアーナもそう思うか?」
「……もしかして、ドラゴンの狙いって、アマカワなの?」
リリアーナがそう口にした途端、ドラゴンから再び咆哮があがった。
『グルオオオオオオオオォォォォッ!』
大きな翼を広げての咆哮は、その姿をより大きく見せて力のない相手を恐慌状態に陥れたことだろう。
しかしどうしたことか、リリアーナはともかく俺もその姿を見ても怖いとは思っても恐慌状態になることはなかった。
「……アマカワ、あなたすごいわね」
「そうか?」
よく分からないが、俺には効かないようだ。
そんなことを話していると、俺たちは東の森に足を踏み入れた。
ここまで来たらやれることはある。俺がそう考えていると、リリアーナも同じことを考えていたようだ。
「アマカワ、あなたも同じことを考えているんでしょう?」
「だろうな。っていうか、俺にはそれしかないからさ」
「分かった、お願い!」
「いくぞ――重力制御!」
俺はドラゴンがいる範囲に強力な重力磁場を発生させて重さを二倍にする。
この重力制御だが、俺自身に使う場合は重さを重くしたり軽くしたりが自由なのだが、別の対象に使う場合はそうはいかない。というか、対象を個別に選べないのだ。
できることといえば今のように重力磁場を一定範囲に作り出すこと。
今回はドラゴンがいる上空、そしてその下の方に重力磁場を作り出していた。
『グルオアッ!』
「よし、落ちてきたわね!」
「リリアーナ、いけるか!」
「当然、それじゃあぶっ放すわよ――サンライズセイバー!」
徐々に地面に近づいていくドラゴン。その頭上には光で作られた巨大な剣が顕現した。
刀身を地面に向けた形の光の剣は、身動きが取れなくなっているドラゴンめがけて突き放たれた。
『グ、グルオ、グルゴアアアアアァァッ!』
「いっけええええええぇぇっ!」
ドラゴンは重力磁場から抜け出せないと悟ったのか、首を上に向けるとサンライズセイバーめがけてブレスを吐き出した。
漆黒のブレスは光を黒く染めていくが、それでもサンライズセイバーは止まることなく地面へと近づいていき――そして、ドラゴンを貫いた。
『グギャアアアアアアアアァァァァッ!』
そのまま地面に叩きつけられたドラゴンは、サンライズセイバーの光に包まれて爆散した。
巻き上がる砂煙から目を腕で隠し、直後には衝撃波が俺の体に襲い掛かる。
しばらくその場から動けなかったのだが、衝撃が止むと静寂が辺りを包み込んでいた。
「……や、やったのか? 意外とあっけなかったけど」
「……はぁ……はぁ……はぁ……こ、これで、やれてなかったら、もう無理だわ」
「リリアーナ! だ、大丈夫か?」
「わ、私の魔力を、全部ぶち込んだからね……さすがに、疲れたかな」
額から汗が流れ落ち、体もわずかだが震えている。
「……ドラゴンの様子は俺が見てくるよ。だからリリアーナは休んでいろ」
「ダ、ダメよ、アマカワ。もし、ドラゴンがまだ生きていたら、その時は――」
『グルルルルゥゥ……』
俺もリリアーナも、弾かれたようにいまだ晴れない砂煙の先に視線を向ける。
……くそっ、どうやらまだやれるみたいだな。
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