職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

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第1章:異世界転生

罠作成

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 最初は原始的で簡単な罠からだ。
 先端に引っ張ったら絞まる輪っかを作り、持ち手の蔦は長く取る。
 俺が茂みに隠れられるようにしないといけないからな。
 それを予備も含めて五本作り、次に網目の大きい網を作る予定だったのだが……むむむ、編み方が分からん!

「これは狩人スキルじゃダメなのか」

 スキル効果で分かれば今までみたいに知識が自然と溢れてくるはずだが、今回は全く出てこない。
 うーん、これこそ裁縫スキルが必要なんじゃないか?

「……仕方ない、とりあえずこれだけでやってみるか」

 立ち上がり三度みたび森の中へ。
 俺は自分が隠れられる大きい茂みを見つけると、三方向に輪っかを設置していく。
 誘い出す餌には余ったでか兎の内臓だ。
 準備が整うと、俺は茂みに隠れて気配を消した。
 これも狩人スキルの効果によるものだ。……めっちゃ便利、狩人スキル。

 しばらくじっとしていると、奥の方から何やらこちらに近づいてくる気配を感じ取った。
 でか兎なのか、それとも別の動物なのか。

 ……。
 …………。
 ………………。

 来た。
 奥の方から姿を見せたのは、ずんぐり太った豚に似た動物。
 警戒しているのか、一度姿を見せたのだがすぐにバックしてしまい、しばらくして再び姿を見せる。
 同じ行動を何度か繰り返したでか豚は、誰もいないと判断したのかゆっくりと餌の内臓に向かって歩き出した。

 ……まだ。
 …………もう少し。
 ………………今だ!

 俺はでか豚の前足が輪っかに入ったのを確認すると、渾身の力で蔦を引っ張った!

『ブギャー!』
「よし!」

 両前足がしっかりと引っ掛かり、でか豚はその場に転がってしまう。
 暴れられたら俺の力だと持っていかれるかもしれないので、今が仕留めるチャンスだ。
 茂みから飛び出した俺はナイフを抜いてでか豚の横っ腹に突き刺した。

『ブギャアアアアッ!』
「うぷっ! ……す、すまんな、ここでやらなきゃ、俺が死んじまうんだよ!」

 でか豚に罪はない。しかし、これが森の真理、弱肉強食の世界なのだ!
 ナイフを突き刺したままスライドさせてお腹をかっ捌いていく。
 でか豚の悲鳴も最初は大きかったが、徐々に小さくなり荒い呼吸しか聞こえなくなると、仕留めることに成功した。

「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、疲れた」

 一匹仕留めるだけでこんなに疲労困憊になるのかよ。でか豚、恐るべしだな。
 本当はこのまま数匹を! と頑張りたいのだが、体力が限界なのでその場で急ぎ血抜きを済ませるとすぐに引き返した。
 でか豚は蔦を引っ張り引きずっていき、湖に到着した時には大量の汗をかいていた。

「あぁー、マジで疲れた。この体、燃費悪過ぎるだろう」

 今さら文句を言っても始まらない。
 俺は湖で手を洗い、喉を潤してからステータスを開いた。

「……レベル3だ! でか豚、でか兎よりも強かったのか?」

 まあ、そんなことはどうでもいいか。
 まずは能力を確認したのだが……魔力13。うん、魔法を使うのはまだまだ先ですねー。
 そして力が……あれ、一気に8まで上がってる。魔力よりも上がり幅がでかいんだけど。
 職業は賢者なんだから魔力が上がりやすいんじゃないのか?

「……でか豚を捕まえるのにめっちゃ力を使ったからか?」

 レベルアップまでの過程が能力に反映されるなら、魔法を使ってないのに魔力が上がってることが賢者の証明なんだろう。
 これで魔法が使えたら、魔力の上がり幅って凄いことになるんじゃないかな。

「他は……うん、魅力はもう上がらなくてもいいんだけどなー。260って、マジで何に使うんだよ」

 魅力だけは全く想像がつかない。
 水面に映る俺の姿は確かにかわいくてプリティだ。
 ……まさか、モテるとか、そんな感じか? というか、それだけだったらマジでいらない能力なんだけど。他に振り分けたいんだけど。

「……いや、切り替えよう。スキルを見るべきだ」

 今の俺に重要なのはスキルなんだ。
 スキルポイントは最初と同じで5ある。
 レベルアップ時は5ポイントが必ず手に入るのかは分からないが、今はこれでやりくりするしかない。
 裁縫スキルは手に入れるとして、残りは何を手に入れるかな。

「料理と野営もあるけど、料理は今のところ必要ないかな。狩人スキルで間に合ってるし。そうなると、野営は習得しておくべきか」

 これから夜になる。
 夜の森には危険が潜んでいるだろうし、無知のままでは対処のしようがないからな。
 裁縫と野営を習得し、残るは3ポイント。

「そうだなぁ……おっ、木材加工のスキルがあるぞ」

 これがあれば、木材を使って食器や家具、物を保管する箱なんかも作れるようになるらしい。
 しかし、残る3ポイントを全て使ってしまうんだよなぁ。
 他に役立ちそうなのは、賢者なのにという固定観念を取っ払えばナイフ術だろう。
 今の俺には武器と言えるものがナイフしかない。
 レベルアップ時に上がる能力が、その過程によって変わるなら力は今後も上がっていくだろう。
 そう考えると�、今のうちにナイフ術を覚えていても良いかもしれない。

「ナイフ術は2ポイント。残る1ポイントで別のスキルを習得できるけどなぁ」

 悩む、これは非常に悩む。
 そして、悩んだ結果俺が出した答えは──ナイフ術。

「護身用にもなるしな。身の回りを整えるよりも先に、身の安全だ!」

 残る1ポイントでは結局料理を選択し、俺は一息ついたのだった。
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