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第1章:異世界転生
使えない魔法
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あ、あの駄女神、マジで駄目じゃねえかよ!
こんな使えない魔法ばかり与えられてもどうしようもないじゃないか!
こんなんで世界を救えとかマジで無理だから! 何もできずにゲームオーバーだから!
「……これ、レベル上げから必要なのかよ」
しかし、レベル上げをするにも問題が一つある。
「ど、どうやってレベル上げるんだよ」
とりあえず、俺の敵は魔族なんだろう。そんなことを駄女神が言っていたからな。
ただ、レベルを上げるには魔族を倒す必要があるだろう。おそらくそういうもののはずだ。
だが、今の俺には何一つとして武器がない。
「何か弱い魔法でもあれば話は変わってくるんだろうけど、魔力5で使える魔法がないんだよなぁ」
だったら賢者という職業に縛られることなく剣を持って戦えばいいのかもしれないが、それも森の中ではできるはずもない。
いや、それ以前の問題かもしれないんだ。
「力2って、絶対に低いよな?」
もしかしたら、剣を持つための力すらないかもしれないのだ。
「……何か、武器になりそうなものはないかなぁ」
俺は周囲に目をやる。
森の中なのだから、ちょっと太めの木の枝とかでもあれば弱い魔族くらいは倒せるのではないか。
……まあ、俺が持てればの話だけど。
「おっ! これは……錆びたナイフか?」
木の棒を探していたのだが、まさか錆びているとはいえナイフが落ちているとは好都合だ。
手にしてみると……ちょっと重いが、振れないわけじゃない。
何度か素振りをしてイメトレを繰り返す。
「……よし、ちょっと森の中を散策してみるか」
ここに留まり続けても意味はないからな。
じっとしてるだけでレベルが上がるならそうするけど、そんなことはないだろうし。
それに、湖の側に転生させてくれたくらいだし、出てくる魔族もそこまで強くはないだろう。……そう信じたい。
湖を拠点にするとして、俺は目印になりそうな大木を目刺しながら傷をつけ、再び奥へと歩き出し、それを繰り返して進んでいく。
すると、奥の茂みからガサガサと自然のものとは異なる音が聞こえてきた。
「つ、ついに魔族か?」
俺はゴクリと唾を飲み込み、錆びたナイフを慣れない手つきで構える。
そして、茂みから姿を現したのは──
「……な、なんだ、こいつ?」
『……ピキャ?』
長い耳に赤いクリクリの瞳。後ろ足で器用に立ち、前足をちょこんと垂らしている。
普通の兎が一回り大きくなったような奴なんだけど、見た目は完全に兎なので可愛らしい。
これは動物なのか? 魔族ではないのか──
『ビグルアアアアッ!』
「やっぱり魔族かああああいっ!」
さっきの可愛らしい鳴き声はどこにいったんだよ!
曲げていた後ろ足で地面を蹴りつけ、弾丸のように突っ込んできた。
「うわあっ!」
とにかく避けなきゃ!
俺は横に転がるようにして倒れ込み、なんとか兎の体当たりを避けると、すぐに起き上がって向き直る。
すると、そこにはまさかの状態が出来上がっていた。
──ミシミシ、バキバキ、ドゴオオオオン。
「……う、嘘だろ?」
兎のぶつかった大木が半ばから粉々になってしまい、そのまま轟音と共に倒れてしまったのだ。
『……ビギャギャ!』
「し、死ぬから! マジで死ぬから!?」
こ、こんなの勝てるわけないだろうが!
俺は遮二無二走り出す。兎から遠ざかるために。というか、あれは兎なのか? 絶対に違うだろ!
対抗手段は錆びたナイフのみ、選択肢は……逃げる!
ただ、逃げ切れるかどうかは別問題。
『ビギャ! ビギャギャー!』
「やっぱり、速いよな!」
湖に飛び込もうと考えていたのだが、あっという間に兎に回り込まれてしまう。
……こうなったら、覚悟を決めるしかない。
「こ、来いや、でか兎! お、俺にはこのナイフが! ……ナイフ、が?」
構え直して気づいたんだ。うん、それまでは全く気づかなかったんだ。
「……や、刃が、なくなった?」
錆びてボロボロになっていた刃が根本からポッキリいっていたのだ。
いつ、どのタイミングでそうなった?
そして、一つの可能性に行き着いた俺はでか兎の体を観察する。
「……やっぱり、避けた時にたまたま刺さったのか!」
奇跡的に攻撃が当たっていたようだ。
いや、実際は避けた腕がたまたま残ってて、それがでか兎にたまたま刺さっただけなのだが。
「……いやいや、だからってピンチには変わりないから!」
『ビグルアアアアッ!』
「やっぱり来たー!」
待て待て待て待て、武器すらもなくなった今の俺では対抗手段が皆無なんだが!
『グルアアアアッ!』
「あ、死んだわ」
いやー、転生して一時間も経たずに死ぬことになるとはー、マジで駄女神様々だわー。
今度転生するタイミングで現れたらー、絶対に一発ぶん殴ってやるー。
俺はすぐに訪れるであろう衝撃に備えて目を閉じ、体を強ばらせた。
……あ、あれ? なんで何も起きない? 風の音が耳の横を吹き抜けていくだけなんだが?
恐る恐る目を開けてみると──
「……あれ? なんで、でか兎が倒れてるんだ?」
いったい何が起きたんだ。俺の目の前では、でか兎が勝手に死んでいたのだ。
こんな使えない魔法ばかり与えられてもどうしようもないじゃないか!
こんなんで世界を救えとかマジで無理だから! 何もできずにゲームオーバーだから!
「……これ、レベル上げから必要なのかよ」
しかし、レベル上げをするにも問題が一つある。
「ど、どうやってレベル上げるんだよ」
とりあえず、俺の敵は魔族なんだろう。そんなことを駄女神が言っていたからな。
ただ、レベルを上げるには魔族を倒す必要があるだろう。おそらくそういうもののはずだ。
だが、今の俺には何一つとして武器がない。
「何か弱い魔法でもあれば話は変わってくるんだろうけど、魔力5で使える魔法がないんだよなぁ」
だったら賢者という職業に縛られることなく剣を持って戦えばいいのかもしれないが、それも森の中ではできるはずもない。
いや、それ以前の問題かもしれないんだ。
「力2って、絶対に低いよな?」
もしかしたら、剣を持つための力すらないかもしれないのだ。
「……何か、武器になりそうなものはないかなぁ」
俺は周囲に目をやる。
森の中なのだから、ちょっと太めの木の枝とかでもあれば弱い魔族くらいは倒せるのではないか。
……まあ、俺が持てればの話だけど。
「おっ! これは……錆びたナイフか?」
木の棒を探していたのだが、まさか錆びているとはいえナイフが落ちているとは好都合だ。
手にしてみると……ちょっと重いが、振れないわけじゃない。
何度か素振りをしてイメトレを繰り返す。
「……よし、ちょっと森の中を散策してみるか」
ここに留まり続けても意味はないからな。
じっとしてるだけでレベルが上がるならそうするけど、そんなことはないだろうし。
それに、湖の側に転生させてくれたくらいだし、出てくる魔族もそこまで強くはないだろう。……そう信じたい。
湖を拠点にするとして、俺は目印になりそうな大木を目刺しながら傷をつけ、再び奥へと歩き出し、それを繰り返して進んでいく。
すると、奥の茂みからガサガサと自然のものとは異なる音が聞こえてきた。
「つ、ついに魔族か?」
俺はゴクリと唾を飲み込み、錆びたナイフを慣れない手つきで構える。
そして、茂みから姿を現したのは──
「……な、なんだ、こいつ?」
『……ピキャ?』
長い耳に赤いクリクリの瞳。後ろ足で器用に立ち、前足をちょこんと垂らしている。
普通の兎が一回り大きくなったような奴なんだけど、見た目は完全に兎なので可愛らしい。
これは動物なのか? 魔族ではないのか──
『ビグルアアアアッ!』
「やっぱり魔族かああああいっ!」
さっきの可愛らしい鳴き声はどこにいったんだよ!
曲げていた後ろ足で地面を蹴りつけ、弾丸のように突っ込んできた。
「うわあっ!」
とにかく避けなきゃ!
俺は横に転がるようにして倒れ込み、なんとか兎の体当たりを避けると、すぐに起き上がって向き直る。
すると、そこにはまさかの状態が出来上がっていた。
──ミシミシ、バキバキ、ドゴオオオオン。
「……う、嘘だろ?」
兎のぶつかった大木が半ばから粉々になってしまい、そのまま轟音と共に倒れてしまったのだ。
『……ビギャギャ!』
「し、死ぬから! マジで死ぬから!?」
こ、こんなの勝てるわけないだろうが!
俺は遮二無二走り出す。兎から遠ざかるために。というか、あれは兎なのか? 絶対に違うだろ!
対抗手段は錆びたナイフのみ、選択肢は……逃げる!
ただ、逃げ切れるかどうかは別問題。
『ビギャ! ビギャギャー!』
「やっぱり、速いよな!」
湖に飛び込もうと考えていたのだが、あっという間に兎に回り込まれてしまう。
……こうなったら、覚悟を決めるしかない。
「こ、来いや、でか兎! お、俺にはこのナイフが! ……ナイフ、が?」
構え直して気づいたんだ。うん、それまでは全く気づかなかったんだ。
「……や、刃が、なくなった?」
錆びてボロボロになっていた刃が根本からポッキリいっていたのだ。
いつ、どのタイミングでそうなった?
そして、一つの可能性に行き着いた俺はでか兎の体を観察する。
「……やっぱり、避けた時にたまたま刺さったのか!」
奇跡的に攻撃が当たっていたようだ。
いや、実際は避けた腕がたまたま残ってて、それがでか兎にたまたま刺さっただけなのだが。
「……いやいや、だからってピンチには変わりないから!」
『ビグルアアアアッ!』
「やっぱり来たー!」
待て待て待て待て、武器すらもなくなった今の俺では対抗手段が皆無なんだが!
『グルアアアアッ!』
「あ、死んだわ」
いやー、転生して一時間も経たずに死ぬことになるとはー、マジで駄女神様々だわー。
今度転生するタイミングで現れたらー、絶対に一発ぶん殴ってやるー。
俺はすぐに訪れるであろう衝撃に備えて目を閉じ、体を強ばらせた。
……あ、あれ? なんで何も起きない? 風の音が耳の横を吹き抜けていくだけなんだが?
恐る恐る目を開けてみると──
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