職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
2 / 56
第1章:異世界転生

異世界転生

しおりを挟む
 ──……ううん、あれ? ここは、どこだ?

「……あぁ、そうか。あの駄女神のせいで、異世界転生したんだったか」

 アステアの野郎、マジで今度会った時には一度ぶん殴ってやる!
 だけど、まずは今の状況を把握すべきだろう。

「……転生っていうからどこかの誰がになるのかと思ったけど、そうじゃなさそうだな」

 今いる場所は背の高い木々が生い茂る森の中。
 枝葉の隙間からは陽光が差し込んできており、このまま寝そべってしまったら気持ち良すぎて寝てしまうかもしれない。
 さすがに森に一人でいる人間が、どこかの誰かっていうわけもなだろう。

「俺という人間が、新しくこの世界に創られたと考えるべきだろうな」

 そして、好都合にも俺がいる場所のすぐ脇には透き通るくらいに清んだ湖がある。
 この場所に転生させてくれたことに関してだけは、アステアに感謝するべきかもしれない。
 湖の横に移動して確認したかったのは、俺の容姿だ。

「……マジかよ。これ、これが、俺か?」

 ……めっちゃかわいいんだけど! てか幼くないか? これ、絶対にアステアの性癖が影響してるよな!

「ま、まあ、ブサメンじゃなかっただけでも良しとするべきか」

 金髪金眼、大きい瞳に小さな鼻、笑うとえくぼまで出るおまけ付きときたもんだ。
 ……うん、俺って、かわいいんじゃね?

「……いやいやいやいや! な、何を自分の顔に見惚れてるんだよ、俺は! よ、よし! 次はー、俺の力を確認するべきだなー!」

 なんだか湖に写る自分をまじまじと見ていたのか恥ずかしく感じてきたよ。

「とは言ったものの、どうやって確認したらいいんだ? ゲームみたいにステータスが出てきたら話は早いんだけ──どわあっ!」

 俺の呟きに反応したのか、目の前に縦長の四角いディスプレイらしきものが突然現れた。

「……あれ? これって、俺のステータスじゃないか?」

 うーん……あ、やっぱりそうだ。画面の一番上に名前とレベルが記されてるや。

「天川賢斗、レベルは1かぁ。まあ、そりゃそうだよな」

 異世界に来ていきなりレベル最高値とか、どれだけチートなんだって話だよ。そもそも職業が賢者って時点でチートなわけだしな。

「そうだ、職業は……おぉ! 本当に職業が賢者になってるよ!」

 うんうん、レベルが1でも賢者なら強力な魔法が使えるだろうし、レベルの概念があるから上げていくことで強くなれるはずだ。

「さーて、そうなると魔法なんてものもあるんじゃないかな~」

 なんだか少しだけ楽しくなってきたよ。
 アルテアと話をしていた時はどうなることかと思ったけど、ここまで来たら楽しまなきゃ損だよな!

「どれどれ? ……んん? なんだか物々しい名前の魔法が並んでるなぁ。【深淵の黒炎】、【精霊姫の祝福】、【暴風竜の息吹】だって? ……横文字っぽいのもあるけど、【テラ・ゴレイロ・サンダー】に【テラ・ハンニバル・アイス】? 何かのシリーズものか?」

 他にもずらーっと魔法が並んでいるのだが、どれも普通とは言えない名前が付いている。

「さすがは賢者と言うべきなのか? ……と、とりあえず、一つくらい試しに使ってみるか。そうじゃないと判断も何もできないからな」

 おあつらえ向きに周囲の森には誰もいない……はず。
 名前的に比較的弱そうな魔法を選べば、特に問題はないだろう。

「そうだなぁ……よし、これにするか」

 俺が選んだのは【精霊姫の祝福】。
 精霊姫って、なんだか凄い魔法な気もするんだけど、他のものは周囲を薙ぎ払うんじゃないかと思われる名前のものばかりなんだよな。
 これなら祝福って付くくらいだし、回復魔法だったりステータス補正魔法とか、そんな感じのものだと思う。

「……よし、やるか」

 魔法の使い方は……おぉ、これもなんか凄いな。頭の中にどうしたらいいのかが流れ込んできたぞ。
 ……ほおほお……ふむふむ……うん、分かった。
 俺は両手を前に出して体の内側から魔力なるものを手のひらから放出するイメージを作り出す。
 必要魔力の放出が確認されると、身に付いている魔法が発動するみたいだ。

「……【精霊姫の祝福】!」

 ……ん?

「あれ、失敗か? もう一回──【精霊姫の祝福】!」

 ……やっぱり、何も起こらないな。

「どういうことだ? 【暴風竜の息吹】! 【テラ・ゴレイロ・サンダー】!」

 …………マ、マジで何なんだよ! 何も起きないじゃないか!

「もう一度魔法欄を……うん、魔法はあるし、名前もあってる。どんな魔法か知らないとダメなのか? いや、流れ込んできた魔法の使い方には何もなか──ん?」

 ……おいおい、ちょっと待てよ、これってもしかして。

「魔力消費量、250?」

 これって多いのか、少ないのか? とりあえず【精霊姫の祝福】でこの数字なんだけど、他の魔法だと300や400、中には1000を超える魔法もあるんだけど!

「……お、俺の魔力はどれくらいなんだ?」

 俺は慌てて魔法欄から自分のステータスに目を通したのだが……あぁ、なるほど、そういうことか。
 これなら魔法が使えないのも頷けるよ。なんてったって──

「俺の魔力、たったの5じゃねえかよ!」

 そして気づいたのだ。今の俺には、何一つとして魔法が使えないことに。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

【完結】四ばあちゃん、二度目の人生

大江山 悠真
ファンタジー
63歳、高校時代の仲間4人のおばあちゃんが異世界転生。せっかくの二度目悔いなく生きたいとシズ・セリ・ヤエ・マリ奮戦中。現在はセリを中心に展開中。シズ・セリ・ヤエと登場し、最後のマリのお話です。シズ・セリ・ヤエの子供たちも登場するかもしれません。初めての作品でなかなか思うように登場人物が動いてくれませんが完結まで進めていこうと思っています。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...