役立たずだと見捨てられたら、敵国で英雄扱いされました! ~謎スキル緑魔法で成り上がります~

渡琉兎

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第一章:役立たずから英雄へ

17.助けてくれた相手は

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 何が起きたのかをすぐには理解できなかった。
 僕に理解できたことと言えば、間者の両腕が転がったという事実だけ。

「ぐああああああああっ! う、腕があっ! 俺の、腕がああああああああっ!」
「な、何が起きやがった?」

 仲間の腕が転がった事で指示役の間者が困惑している。
 そして、その隙を見逃すようなキリシェではなかった。

「はあっ!」
「しま――!」

 最後まで言葉を言い切ることなく、指示役の男の首が宙を舞った。
 その首が地面に落ちる前に踵を返したキリシェは、返す剣で苦悶の声を漏らしている間者を斬り捨ててこちらへやって来てくれた。

「ご無事ですか!」
「……は、はい」
「ありがとうございました、リッツ殿」
「いえ、僕は防御魔法を使っただけです」
「そうなのですか? ……では、この腕はいったい?」

 僕たちが顔を見合わせていると、奥の茂みからガサガサと音が聞こえてきた。
 キリシェが剣を構え、僕はニーナを背中に隠して魔法の準備をする。
 そして、茂みの奥から姿を現したのは……現したのは……――

「……は……はは、うえ?」
「逞しくなったじゃないの、リッツ」

 ……何が、起きているんだ?
 ここに母上がいるはずがない。これは幻惑魔法か何かの類だろうか。
 しかし、母上の姿を目にした時から、間者の腕を斬り捨てたのが母上のスキルだと考えれば納得できてしまう。

「信じられないかしら?」
「……母上は、五年前に行方不明になっている。そんな母上がここにいるはずがない」
「そう、私は行方不明という事になっていたのね。……まあ、そこについて話をしている暇はないわ。信じてもらうために、母親である私にしか知り得ない事を言いましょうか?」

 ここまで自信満々に言えるという事は、僕についても調べがついているという事だろう。

「な、何を言うつもりで――」
「まずはおねしょを8歳の頃までしていて、9歳の頃に城の池に落ちて溺れて小魚が口の中から五匹飛び出し、10歳の頃には私と一週間会えなかったから部屋で大泣き。久しぶりに顔を合わせたらまた大泣きして抱きついてきて、その後は――」
「わー! わーわー! わかりました! あなたは母上で間違いありません!」

 は、恥ずかしい思いでばかり口にしないで! ニーナもキリシェもいるんだからな!

「……キリシェ? 何が起きているのかしら?」
「……わ、私にも、わかりません」
「そちらはライブラッド王国の第一王女、ニーナ・ライブラッド様でございますね?」
「あ、はい!」

 突然の再会に取り乱していたが、母上は僕からニーナの方へ向き直る。

「私はリッツの母親であり、現在はカッサニア公国の辺境都市バルザーリを治める領主、コリーヌ・バルニシア様に客人として迎えられております、マリー・アルスラーダと申します」
「本当に、リッツの母上様なのですか?」
「信じてもらうには難しい状況なのは理解しています。ですが、まずはバルザーリまで向かいましょう。正直、間者がどれだけ潜り込んでいるかがわかりませんから」

 母上の言う通りだ。
 このまま立ち止まっていても何も始まらない。

「……行きましょう、ニーナ」
「大丈夫なのですか?」
「はい。……その、恥ずかしいですが、先ほどの事は全て事実ですから」
「そうですか……8歳まで、おねしょを」
「そこは忘れてください! お願いしますから!」
「10歳で大泣き」
「キリシェも!」
「うふふ、面白い道中になりそうねー」

 き、聞きたい事は山ほどある。
 生きていてくれたのは嬉しいが、どうやって生き残る事ができたのか、いったい何があったのか。
 ……だが、まずはニーナとキリシェを無事にバルザーリへ送り届ける事が最優先だ。そして、ライブラッド王国への援軍要請を取り付ける事。

「わかっているじゃないの、リッツ」
「……その、全てを見透かしている感じも、やっぱり母上ですね」
「だから言っているじゃないの。ゆっくりできる時間ができたら、話をしましょうね」
「わかりました。……あれ? そういえば、どうやって僕たちを見つける事ができたんですか? 早馬がバルザーリまで?」

 確かに兵士は三人いて、一人は確認できていなかったけど……それでも、母上がここに来るまでの時間が早すぎる気がする。

「あら、私のスキルを忘れたのかしら?」
「……あっ!」

 そうだった。
 母上のスキルである特級スキル【精霊魔法】は、精霊と語らう事ができる。

「リッツたちがカッサニア公国の国土に足を踏み入れた事を森の精霊から聞いたの。だから、一足先に迎えに来たってわけよ」
「そうだったんだ。……その、助かったよ、母上」
「いいのよ。子供を守るのが、母親の仕事ですもの」

 そう口にした母上に頭を撫でられると、とても懐かしい感じに嬉しくなってしまう。

「……ぼ、僕はもう18歳なんだよ!」
「あら、その割には嬉しそうだったじゃないの」
「いいから! 早く行こう! 二人を無事にバルザーリに送り届けないと!」
「はいはい、わかったわよ。それでは行きましょうか、ニーナ様、キリシェ様」

 僕に対する態度とは打って変わり、丁寧な言葉遣いで二人に声を掛けた母上は先に歩き出す。

「……ほ、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「……そ、そうですね。リッツ殿が母上と言っているのですから、大丈夫ではないかと」
「大丈夫です。行きましょう、ニーナ、キリシェ」

 二人からすると疑惑は尽きないだろうが、僕の言葉でようやく準備を始める。
 目指す先は辺境都市バルザーリ。
 そこまで辿り着ければ、中心都市ベルナーラまでは一気に進めるだろう。

「……絶対に、援軍要請を取り付けるんだ」

 僕の言葉に二人も力強く頷いてくれた。

「さあ、出発よ!」
「「「はい!」」」

 こうして、僕たちは馬車と馬を走らせてバルザーリへと向かった。
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