役立たずだと見捨てられたら、敵国で英雄扱いされました! ~謎スキル緑魔法で成り上がります~

渡琉兎

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第一章:役立たずから英雄へ

15.国境付近にて

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 国境付近の村で一泊を過ごした僕たちは、翌日にはカッサニア公国の国土に足を踏み入れていた。
 事前通達も無く、突然第一王女が姿を現したものだから国境の警備兵は非常に驚いていたが、すぐに上の立場の兵士長が対応してくれた。
 カッサニア公国側の兵士にも事情を説明し早馬を走らせてもらったが、同時にこちらもバルザーリに向かって馬車を飛ばしている。
 1分1秒が惜しい状況で、国境警備の客間でただ待っているわけにはいかなかったのだ。

「本当に良かったんですか?」
「何がですか?」
「兵士長の申し出を断っていたじゃないですか」

 揺れる馬車の対面に座るニーナ様に問い掛けたのは、護衛を増やそうと言ってくれた兵士長の申し出についてだ。
 やはりと言うべきか、兵士長からはここ最近の国境付近の状況について教えてもらったのだが、どうやら不審人物が目撃されているのだとか。
 ライブラッド王国とアルスラーダ帝国の国境線とは異なり、警戒レベルは引き上げられていない。
 面している国境線も狭い事で、配置されている警備兵も少なくなっている。
 戦時中であれば常に気を張っているはずだが、そうでなければ多少の気の緩みは致し方ない。そこを突かれてアルスラーダ帝国の間者がカッサニア公国の国土に入り込んでいるかもしれない、という事だった。

「アルスラーダ帝国の間者が複数入り込んでいるとしたら、やはり護衛は多い方が良かったんじゃないですか?」
「その通りなのですが、急いだ方がいい理由もあるのです」
「どういう事ですか?」
「カッサニア公国に間者を送り込んだという事であれば、私たちがすぐに動くだろうと予期していたという事です。そうであれば、アルスラーダ帝国は明日にでも宣戦布告するかもしれないのです」
「まさか、そんな急を要しますか?」

 捕虜解放の書簡を送ったのは僕たちが出発するよりも以前の事だが、だとしても帝都にいるライネルの下に到着するには結構な日数が掛かるはずだ。
 まさか、返事も確認せずに宣戦布告などしないだろう。

「あくまでも可能性の話です。ですが、私たちは小さな可能性であっても、見過ごす事なく行動しなければなりません」
「……確かにその通りですね。失礼しました」
「いいのです。……それとですね、リッツ様」
「……? どうしましたか?」

 先ほどまで王女として振る舞っていたニーナ様だが、突然表情を赤らめてやや下を向いてしまう。
 何かしただろうかと思い考えたものの、理由がわからずに問い掛けてみた。

「……その、出発前日の朝食の席で仰った事を、覚えていらっしゃいますか?」
「朝食の席でですか? ……すみません、色々な事を話していたので、どの事でしょうか?」

 アルスラーダ帝国からの接触があった事とか、皇族の情報についての話とか、カッサニア公国についてや使者としての話をしたけど、そのどれかの事だろうか。

「わ、私が、家族であり、親友であり、敬語をなくして会話をしようと提案してくれた事です!」
「……へ?」
「お忘れなのですか!?」
「い、いいえ! 覚えています! 覚えていますけど……」

 まさか本気でそう思っているとは思わなかった。
 僕として逸れた話を元に戻すために無理やり軌道修正をした結果の発言だったんだけどな。

「でも、さすがに第一王女に対して敬語を止めるというのは――」
「ダメなのですか! リッツ様は……リッツは、嘘を言っていた?」

 ――!
 ……ニーナ様、それは卑怯ですよ。そんな潤んだ瞳で見つめられたら、その場しのぎだったなんて言えないじゃないですか。

「……それに関して、キリシェ様は――」
「私も同意している。そもそも、あの場で答えたはずですが?」
「……そうでしたね。失礼しました」

 まさか、御者席から即答が返ってくるとは思わなかった。

「ちなみに、姫様に対して敬語を止めるのであれば、当然私にも必要はありませんので、その辺りはお間違えなきように」

 まあ、主に気安く話し掛けているのに、護衛騎士が敬われていたら立場がおかしな事になるもんな。
 ……はぁ。これはもう、言ってしまった手前、仕方がないか。

「わかりました」
「わかりました?」
「……わ、わかったよ、ニーナ様」
「ニーナ、?」
「…………ニ、ニーナ?」
「はい!」

 どうしてこうも嬉しそうなのか。
 僕としては理解できないのだが、ニーナが喜んでいるなら、まあいいのかな。

「早馬に問題がなければ、すでにバルザーリに到着している頃かな?」
「そのはずです。早馬が到着次第、あちらから迎えを寄こしてくれると言っていたので――」
「姫様!」

 弛緩した空気の中、ニーナの言葉を遮るようにしてキリシェの鬼気迫る声が響き渡った。

「前方で戦闘が起こっています!」
「相手は!」
「一方は早馬で走らせた国境兵のようですが、もう一方は黒ずくめの衣装を身に纏っています!」
「アルスラーダ帝国の間者だろうね」

 早馬が襲われているという事は、こちらの情報がバルザーリに届いていない可能性も高い。そうなれば、援軍は望めないという事だ。

「助けましょう! キリシェは先陣を切ってください!」
「私は姫様の護衛です!」
「私には【聖女の祝福】があります、今は彼らを救いなさい!」
「……わかりました! リッツ殿、後は任せました!」
「はい!」

 馬車を停めたキリシェは御者席から飛び出すと、まるで風のように素早く駆け出して間者へと迫っていった。
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