役立たずだと見捨てられたら、敵国で英雄扱いされました! ~謎スキル緑魔法で成り上がります~

渡琉兎

文字の大きさ
上 下
11 / 41
第一章:役立たずから英雄へ

閑話:アルスラーダ帝国①

しおりを挟む
 ライブラッド王国との小競り合いが終結した翌日、皇帝であるライネル・アルスラーダは玉座に座り窓の外を眺めていた。

「……これで、役立たずの処分は終わったか」

 消すだけならいつでも、どのような方法でもあった。
 しかし、第四皇子であるリッツの存在は生まれた時点で国民に知らされており、役立たずのスキルを与えられた事も知られている。
 そんな役立たずが突如として姿を消してしまっては、皇族は身内ですら殺してしまうのかと変な噂が立ちかねない。
 実際はその通りなのだが、なるべく正攻法でリッツを処分する方法をと考えた結果が、戦争である。

 戦争の理由はどのようなものでも良かった。
 ライブラッド王国から侵攻する事はなくても、アルスラーダ帝国から侵攻する事はよくあったからだ。

「国土拡大を目指す」

 たった一言で、戦争は始まってしまった。
 そして、その戦争にリッツを送り出した。
 結果、リッツは戦場で消息を絶ち、アルスラーダ帝国としては敗戦の結果になってしまったものの、ライネルからすれば十分な結果だと言えた。

 しかし、リッツは死んではいなかった。
 ライブラッド王国から、リッツを捕虜にしていると書簡が届き、それには捕虜交換を申し出る一文も添えられていた。

「却下だ」

 今回も、そのたった一言でリッツの運命は決してしまった。
 だが、この一言がリッツにとっても、アルスラーダ帝国にとっても、大きな運命の決断になっているとは誰ひとりとして気づくことはできなかった。

 ◆◆◆◆

 ――それから一年が経ったある日。
 ライネルは珍しい報告を受けて、大臣に問い直していた。

「作物が不作、だと?」
「はい。どうやら、去年の戦争で人手を取られた農民たちからの報告で、今年の収穫量は例年の八割程度になるだろうとの事です」
「命の危険に晒されて、嘘の報告をしているのではないか?」
「わたくしもそう思い部下を派遣したのですが、どうやら本当のようなのです」

 ここ十年以上は豊作に恵まれていたアルスラーダ帝国にとって、一度の不作が国を脅かすという事はありえない。
 しかし、これが続いてしまえばそうも言ってはいられなくなる。

「わかった。今年の税に関しては、戦争に徴収された農民に限り八割減とし、それ以外の農民からは通常通りの税を取れ。ただし、来年に関しては全ての農民が通常通りの税を取ると伝えろ」
「かしこまりました」

 大臣が王の間から立ち去ると、隣に座っていた皇后のリリアナ・アルスラーダが口を開いた。

「農民に慈悲の心など、必要あったのですか?」
「今回だけだ。役立たずを処分するために、半ば無理やり徴収したのだからな。不満を溜めて暴徒になってしまっては、元も子もない」
「全く。役立たずのくせに、死んでまで迷惑を掛けるのですね」

 忌々し気にそう口にしたリリアナは、煌びやか扇を広げて口元を隠す。
 下卑た笑みでも浮かべているのだろうと想像したライネルは、今後の事に思考を巡らせた。

(ラグルス、レンネル、ロベルトの実力も上がってきている。リーネもそろそろ戦場に出しても良い頃合いか。レイリアは……あいつはまだダメか。役立たずと関わっていたから、このざまだ)

 レイリアはリッツが消息を絶ったと聞いた時、人目を気にする事なくその場で泣き崩れてしまった。
 あの時から一年が経過した今でも、ふさぎ込んでしまっている。
 そこへ捕虜交換を断った事まで知られれば、一生立ち直る事ができなくなるはずだ。

(断った事を伝えなかったのは正解だったか。しかし、本当に面倒を掛けさせてくれるな、役立たずめ)

 全てがリッツのせいだと脳内で変換され、さらに先の未来へと思考は移っていく。

(不作であるならば仕方がない。来年か、再来年には大量の食糧を確保し、ライブラッド王国へ宣戦布告し、攻め落とす。そこからはアルスラーダ帝国の独壇場となるだろう)

 いまだかつて、誰も成し得たことのない大陸統一。
 それをライネルは目論んでいた。

(性悪なリリアナを皇后に迎えたのも、このためよ。マリーは期待外れであったが、役立たずと同じですでに処分は完了している。これからはアルスラーダ帝国の、我の時代よ!)

 不敵な笑みを浮かべながら、ライネルは窓からどんよりとした曇り空を眺めるのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...