上 下
90 / 100
第二章:集落誕生?

転移魔法陣の謎

しおりを挟む
 俺たちはてっきり隠れ里が襲われていると思っていたが、現段階ではそう言った印象は全くない。
 入口も建物も壊れているなんて事はもちろんないし、それに何より……。

「おおおおぉぉっ! 我が娘、愛しの娘よおおおおぉぉっ!」
「ちょっと、離れてよ、お父様!」
「何故に離れねばならんのだ! 親子の再会ではないかああああっ!」

 ……うん。狙われていると思っていた元魔王がとても元気に娘へ抱きついているからだ。

「そ、それよりもお父様! 追手とかは大丈夫なのですか!」
「娘ええええ……って、追手じゃと?」
「そうよ! この近くに転移魔法陣があって、そのせいでツヴァイルや私たちは――」
「あれは我が設置したんじゃが?」
「「……はい?」」
「じゃから、あれは我が設置したんじゃよ」
「「…………はああああああああぁぁっ!?」」
「だと思ったよー」
「「ちょっとスーレインさん!?」」

 き、気づいていたなら言ってくださいよ!

「あー、ごめん、ごめん。僕も彼を見てから初めて気づいたからさー」
「……そ、そうなんですか?」
「うん。魔力の感じが彼と似ていたからねー」

 ……そういう事なら仕方ないか。
 ってか、どうして元魔王はあんなところに転移魔法陣を設置したんだ? ……やっぱり、勇者を殺す事が目的なのか?

「ちょっとお父様! いったい何を目的に転移魔法陣を――」
「そんなもの決まっているじゃないか! お前に会いたかったのだよ、娘よ!」
「「……はい?」」
「というかお主は何なのだ! 娘に悪い虫が付いたようだな、我が吹き飛ばして――」
「い、いい加減にしろやこのバカ親父がああああああああっ!」
「ごふおああああぁぁっ!?」

 ……お、おぉぉ。リリルの渾身の右ストレートが元魔王の頬に食い込んだぞ。あの巨体が吹き飛んでしまった。
 元魔王、大丈夫なんだろうか。

「……ぅ……ぅぉぉおおおおっ! 久しぶりの拳じゃああああぁぁっ! これを待っていたんじゃああああぁぁっ!」
「待っていたのかよ!?」
「うふふ。さすがはグラインザ様ですわね」
「ただああああし! その虫はいったい誰なのじゃ! その答え如何によっては本当に吹き飛ばすぞおおおおっ!」
「一回、一回わざわざ叫ばないでよ! ……スウェイン、いいかしら?」
「あー……うん、構わないけど」

 この状況を打破するには俺の情報を差し出すしかない。……本当はもっと落ち着いた状況で話をしたかったんだがなぁ。

「彼は勇者です」
「なーにを言っておるか! 勇者は死んだ! つい先日な!」
「そうです。ですから、彼が新しい勇者です」
「んなバカな事があるかあっ! 新しい勇者ってのは赤子で生まれるものだろうが!」

 うん、この反応も見慣れたものだなぁ。

「どうやら俺は、神の過ちで現状で勇者にさせられたんだよ」
「まさか、そんなものをどう説明するのだ!」
「鑑定スキル、持ってないんですか?」
「持っているが……いいのか?」
「もちろんだ」

 というか、元魔王なのになんで許可を待っていたんだろうか。本当に人族との争いを嫌っていたんだなぁ。

「で、では失礼して……ん? ……はあ? ……なんだとおおおお――ごへあっ!?」
「だからいちいち叫ぶな!」

 いや、お前もいちいち殴るなよな、リリル!

「ぐぬぬ……だが、これは紛れもなく勇者であるな」
「偽装スキルという事はないのですか、グラインザ様?」
「ない。偽装スキルを使う場合は自らのスキルからそのスキルが消えてしまうが、こ奴には残っておるのだよ」
「……そうだったんですか?」
「……お主、知らなかったのか?」

 だって、偽装スキルを使った事はあれど、使っている人を見た事はないし、ましては使っている相手を鑑定するなんて機会がなかった。分かるはずもないだろう。

「それにしても、本当に勇者だとは。という事は、我を殺しに来たのか?」
「殺しませんよ! 殺すならリリルの事だって――」
「貴様! そんな事を考えていたのか!」
「だから違うっての! 殺してないだろうが!」
「むっ! ……うーん、確かにそうか! がははははっ!」

 ご、豪快な魔族だなぁ。
 だが、そこが何だか気持ちのいい魔族だ。

「俺は魔族と敵対する気はない……いや、違うな。俺に敵対する者以外とは敵対するつもりがないってところかな」
「……という事は、人族とも敵対する気があると?」
「まあ、そういう事ですね。俺の村には人族も魔族もいますし」
「なんだと! 村だと!」

 ……あ、あれ? もしかして、これはマズい結果になりそうな……予感?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アメイジングな恋をあなたと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,782pt お気に入り:1,266

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:38,693pt お気に入り:29,973

処理中です...